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五十肩 ? 凍結肩 ? 専門家が読むべき、拘縮と夜間痛の‘なぜ??’ 【 五十肩 】の重症タイプは肩だけの問題ではない!


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五十肩 ・夜間痛のある肩の痛みは神経から観る  

〜五十肩 ? 凍結肩 ? 専門家にも読んで欲しい,なかなか治らない肩の痛みの『なぜ』〜

五十肩が続くのはなぜか!?

五十肩と一括りにされる「肩の痛み」にはたくさんの人が悩まされています.これは治療者側も同じです.

今回は,五十肩 と言われる,何をしたわけでもないのに痛みが出てきて,夜間寝ているときにうずくような痛みで目が覚める.
そんなやっかいな肩の痛みについてのコラムです.

完全に肩が固まったようなる【拘縮】に進展する肩の痛み(凍結肩)は,
・男性より女性で多い
・甲状腺機能異常の人に多い
・糖尿病の人に多い
・高脂血症の人に多い
この項目を聞いたことがない理学療法士は,絶対読んだ方が良い,臨床力やクリニカルリーズニングが向上する記事です.
私も以前は患者さんの肩がどんどん悪くなる過程を止められませんでした.医師が執筆するような書籍にも『凍結肩(ここでの五十肩)は,拘縮(関節が固くなり動かなくなる事)が完成してからが勝負』と言う文言があるように,私自身も仕方のない事と諦めていた時期もありました.

私同様,理学療法士や鍼灸師の方に是非目を通してもらって臨床に役立ててほしい内容です.

五十肩 とは・・・?

五十肩の名称について

五十肩とは,‘凍結肩’や‘肩関節周囲炎’という病名になることが多いようですが,加齢とともに起きる、きっかけのない肩の痛みの総称です.

つまり,【五十肩】という病名ではありませんがお互い分かりやすいのでそう呼ばれているのでしょう.

なので,【腰痛】と同じように『五十肩』と呼んでも色々な症状や原因がありますので,〇〇をしたら必ず良くなると言う事はありません.
それぞれの原因に合わせた対処が必要になります.

【五十肩】は肩の痛みの総称であり,軽症のものから重症のものもあるので,
・「ほっといたら良くなった」
・「痛みを我慢して無理やり動かしていたら良くなった」
という話もよく聞きます.
五十肩と言っても原因により様々なのでもちろんそういう事もあります.

このコラムでの五十肩の定義

ここでは,

・動かさなくても痛い
・関節が固くなる,関節拘縮がひどい
・痛みが長く続く
タイプの『最も治療に難渋する五十肩』に絞ってコラムを進めます.

このようなひどい五十肩は強い痛みが長引き,約2年も肩の痛みや関節の固さに悩まされます.
この固さは【関節拘縮】と言いますが,治療家のなかでもなかなか難渋する症状の一つです.

骨折して手術をするような大けがでも,そう長引くことはなかなかありません.

肩の痛みは,なぜこんなにひどい痛みが長引くのでしょう??

巷で言われる五十肩の痛みの理由は本当か?

疑問-考え方-イラスト

このような肩の痛みはとても難しく考えられ,『なぜ痛いか?』がわからないため,治療方法も適切なものが無くなかなか治らないのでしょう.

‘ 五十肩 ’をインターネットで調べると,

・腱板炎
・関節周囲炎
・滑液包炎
などが痛みの原因であるように書かれています.

さらに「なぜそうなるか?」については,

・肩甲骨の動きが悪い
・腱板というインナーマッスルの働きが弱い
・事などが出てきます.

確かにこれらが原因で,肩関節周辺の構造物に炎症が起きて痛みが出ることはあります.

ただ考えなくてはならないのは,

・普通の炎症であれば安静時の痛みで目が覚めるようなことは少ない
・2年間も症状で悩まされるということは考えにくい
事です.

人工関節など侵襲の大きい手術後でも,1週間も経てばある程度痛みはコントロール出来ますし,それが原因で2年間も症状が残存するという事はほとんどありません.

そうなると腱板や関節包など関節の構造物だけの炎症による痛みとは考えにくいです.

五十肩 の ‘ 病態 ’ を再考する

ここからは,ひどい五十肩で発生する,【肩関節の固さ(拘縮)】と 【夜間の痛み】 から原因を考えてみます.

五十肩 の固さ(拘縮)について考える

五十肩による肩の関節拘縮は,肩の痛みが出てから一か月くらいすると起こり徐々に可動域が小さくなります.

肩の痛みが関節の固さより先に発生するので,関節の固さが痛みの原因ではなさそうです.もしそうであれば関節の可動域制限が先に現れるはずです.

そして一般的に『安静時の痛みは6か月ほどでなくなり,関節拘縮だけ残存する』パターンがほとんどです.固さがあっても痛みはない状態です.

関節の固さは肩の痛みに直接影響している訳ではないようです.

次に関節拘縮の原因となる部分を考えます.

拘縮が完成して固くなった肩を動くようにする手術(マニピュレーション)をしたとき,関節を包んでいる袋(関節包)の,後方下部と前上方の腱の隙間に破綻した部分があり,肩周囲の筋肉に所見はなかったとの研究結果があります.

この事から,拘縮は筋肉ではなく関節包が原因という事が分かります.

よく理学療法士や鍼灸師は筋に原因を考えがちですが,拘縮の完成した凍結肩には筋肉に対するアプローチは効果が小さいという事です.

関節包破綻部位


拘縮肩のマニプレーションによる破綻部位 (出典:肩関節,2001;25巻第2号:305-308.)


この関節包が原因となる拘縮,つまり急激な関節包の変化・変性はなかなか起こり得る事ではありません.

股関節や膝関節など他の関節で考えても,単純な炎症や変形でこのような急な変化は起こりません.

ひどい五十肩で発生する関節の固さは関節の炎症や変形に由来するのではなく,何らかの特別な理由で急激に関節包が縮むという事になります.

では何がこの肩関節の拘縮の原因でしょうか?

これについては下で詳しく解説しますが,関節包が縮んだ場所を細かく解剖すると,神経の変性(神経が傷んだ状態)が観察できる事が分かっています.

後に詳しく解説しますが,この段階ではまず神経が関与する可能性を意識しておいてください.

五十肩 の痛みから考える

次に五十肩における痛みについて詳しく見ていきます.

凍結肩に至るようなひどい五十肩では,特に動かした時の痛みだけではなく,寝ている時など動かさないのに痛い『夜の痛み』があります.

この【夜間痛】については議論されますが,よく言われるのは【関節内圧;関節の内側の圧力】の上昇が原因です.

この考えに至ったのは,

①痛みがある人の関節内圧を測定すると,内圧が高い人が多かった
②肩関節は,起きている姿勢より寝ている姿勢で関節内圧が高い
③内圧を低くする手術をした結果,痛みが治まる人が多かった
などの研究結果に基づくものです.

これをみると関節内圧の上昇が夜間の痛みに関与していると考えられますが,関節が固くなったときには関節包が縮んでいるため,内側の圧力も当然高くなります.

②の『起きている姿勢』 と 『寝ている姿勢』の違いによる内圧の変化のためという考え方ですが,腕を三角巾でつるようにして,内圧を大きくなるような姿勢にしても,痛みがひどくなる例に出会ったことはありません.

そうすると『内圧の変化』がすぐ痛みに影響するわけではないようです.

手術により圧を下げると痛みが改善される人が多かったのは確かだと思いますが,手術をした全員の痛みが消失するわけではないようです.

③についての痛みが減弱する理由は,ブロック治療で痛みが改善する理由にもあることですが,手術操作によって痛みを発する物質が洗い流す(Wash out)事になったためか,感作など神経因性の痛みが麻酔の効果で緩和された可能性もあります.

以上から考えると,関節内圧が直接痛みの原因と考えるのはやや短絡的で,まず『内圧の上昇に至る理由』が説明を出来ません.そして拘縮につながる,関節包が縮む理由もわかりません.

内圧の上昇は原因というより結果と考えるのが妥当だと考えられます.

そして,『痛みの場所』です.

夜間痛など五十肩で訴えが多いのは上腕の外側です.

腋窩神経-外側上腕皮神経

腋窩神経 外側上腕皮神経 
図の黄色い線が通っているあたりです.

この黄色い線は,首から始まり脇の下を通って腕の外側に来る神経です.ほとんどの方はここの痛みを訴えます.

さらに臨床にいる方に試して欲しい圧痛点が,

・頚部C5横突起部
・胸背神経の腋窩走行部
・筋皮神経上腕遠位走行部
・長胸神経及び外側胸神経の小胸筋下走行部
です.

このどれか,もしくは複数個所にほぼ全例が圧痛を認めるはずです.

また,前腕にかかるまでの神経をストレッチしてみてください.

強い疼痛を訴える例がほとんどです.

つまり,頚部から起因する神経にそって関連痛ないし放散痛が生じているという考えです.

後にも説明しますが,神経に障害があっても電気診断学的検査で検出されない事もありますので神経系の検査をしても抽出出来ない事が多いようです.

肩の痛みの場所には,どうやら神経が関与していると考えられます.

神経は,【痺れ】や【筋力低下】があるまでフォーカスされる事少ないですが,水面下,潜在的に症状はあります.

それを示す一つの現象として,【Renaut 小体】(神経終末の漿液性球状変化)があります.凍結肩例の腋窩関節包部を細かく剖検すると認められる神経の変性です.

Renaut 小体についてはその解剖学的意義については未だ議論の余地はありますが,慢性的に絞扼を受けている部分や動脈硬化の進んだ部位に発生する事が多いようです.

先ほども述べたようにこのような限局された神経障害は電気診断学検査で捉えられない事もあり,病態理解を難しいものにしている可能性があります.

拘縮と痛みから考える五十肩の理由

関節包破綻部位

 関節拘縮 マニプレーション
拘縮肩のマニプレーションによる破綻部位 (出典:肩関節,2001;25巻第2号:305-308.)

上図を再掲します.固まった肩を無理やり動かした時に関節のどの部分が破綻するかを調べたものです.

この関節が急激に固くなる,いわゆる拘縮の原因となる『肩関節包』が変性する場所,【腋窩関節包】と【腱板疎部】は頚椎5番目からの神経の付着が認められています.

また,安静時にも発生する痛みの場所は,首の5番目から通る神経に沿って生じており,肩関節だけで痛みが発生している訳でなく,神経の影響も考えるべきという結論に至ります.

五十肩 と神経の関係

普通のケガでは起きない,五十肩と呼ばれる異常な痛みや関節の固さは神経に起因してどのように発生するのか?

上記に神経の関与について言及しましたが,他に神経由来の症状として考えられる事実を提示します.

安静時も痛みがあるような異常な痛みは,複合性局所疼痛症候群(CRPS)と呼ばれる神経因性(神経が原因)の痛みと似通っており,このCRPSは五十肩同様に関節拘縮も生じます.

また,五十肩で強い痛みがあり拘縮が進むのは,

・男性より女性で多い
・甲状腺機能異常の人に多い
・糖尿病の人に多い
・高脂血症の人に多い
事が分かっています.

前述しましたが,関節が固くなる原因は関節包の後方下部に多く,この部分は変性している神経(Renaut 小体)が多い事が分かっています.

この神経の変性は血流が悪いところに見られます.

女性は50代頃からホルモンバランスが乱れ,動脈硬化が進みやすくなります.

甲状腺機能異常の人も血栓が出来やすくなったりして血流障害が生じる可能性があります.

糖尿病,高脂血症の人も動脈硬化になりやすいことが分かっています.

これらから考えると,五十肩による異常な肩の痛みや関節の固さは,

・神経因性の症状と似ている
・神経の変性が認められる
・血流障害が生じる疾患で多い
・血流障害の部位と神経変性が一致する場所である
という特徴があります .

血流障害と神経による原因で発生している可能性も視野に入れて考える必要があります.

炎症を生じた関節は,神経の作用で動かさないでいると痛みを感じやすくなったり,神経の【揺変性】から考えても,動かない事で神経因性の疼痛が増悪するため,内圧でしか説明出来なかった『夜間の痛み』などの安静時痛も説明が出来ます.

神経が変性する機序は様々ですが,圧迫や伸張刺激による血流障害から神経内循環・軸索輸送が障害され,低酸素から神経に炎症が起こります.

炎症は神経内の浮腫を発生させ,神経周膜拡散障壁が炎症性浸出液の拡散を妨げる事でさらに浮腫が持続してしまいます.

浮腫が継続すると,神経が線維化し柔軟性が低下する事でさらに圧迫や伸張刺激を受けやすくなり,悪循環が生じます.

この状態が続くと神経に沿って髄鞘や軸索に変化が起こり,局所的な脱髄からびまん性の脱髄変性が起こるとされます.

様々な神経に対するストレスから痛みが生じる機序を図に表します.

模式図-神経痛

痛みの場所から考えても神経の影響を受けている事はほぼ間違いないでしょう.

さらに神経は複数の場所で圧迫されると症状を起こしやすい(ダブルクラッシュ症候群)性質があります.

頚椎-レントゲン写真

上のレントゲンは【ストレートネック】と言われる状態ですが,観ると5番目の頚椎前後で変形があるようです.

このように元々首の5番目は変形を起こしやすい場所で,それぞれ痛みのある場所は筋肉や骨を縫うように走っています.

頚部で一度圧迫を受けて,その後首の付け根や肩の筋肉の狭い場所で圧迫を受ける,その影響もあると考えられます.

以上から関節が固くなるようなひどい五十肩の正体は,【神経】の影響を強く受けているだろう という事です.

五十肩に必要なことは?

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