「知らない人んち(仮)」第1話応募

◯シェアハウス、和室(昼)
   0話ラストのノックから、きいろが振り返るとアクが鍋のお出汁のパックを掲げて、
アク「シンプルにアゴ出汁がいいですか? それともカレー鍋とか?」
きいろ「……あ、アゴ出汁。いいですね」

◯同、キッチン
   キャンが大量の野菜を切っている。きいろとアクがやってきて、
きいろ「すみません。晩ごはん奢るとか言っといて」
キャン「いいえ」
きいろ「……すごい量」
キャン「え?」
   キャンが切っている野菜は、既に鍋に入りそうにない。
きいろ「四人分、ですよね?」
キャン「あれ、やっちゃったかな」
アク「キャンちゃんは何か作業始めると没頭するから」
キャン「明日もお鍋だね、これ(苦笑)」
アク「カレー鍋だね」
   ジェミが顔を出して、
ジェミ「アク、ちょっと」

◯同、二階の廊下
   暗室の扉の前、階下を気にしながらアクとジェミが話している。
アク「いなくなった?」
ジェミ「ごめん、あの子に気を取られちゃって」
アク「……」
ジェミ「探してくる」
アク「見つからなかったら……」
   階段を降りようとしたジェミが足を止め、振り返る。
ジェミ「見つけるよ、絶対」

◯同、キッチン
   調理を続けるキャンときいろ。
きいろ「じゃあ、キャンさんのお仕事って料理人なんだ」
キャン「そんな格好いいもんじゃないよ。延々切るとか煮込むとか、工場のロボットみたいな単純労働」
きいろ「いや、バイトをクビになった私からするとまっとうなお仕事をしてるってだけでもう」
キャン「……」
きいろ「私、変なこと言いました?」
キャン「(首を振って)ううん」
   ジェミが顔を出す。
ジェミ「ごめん、ちょっと出てくる」
きいろ「お出掛けですか?」
ジェミ「ていうか、仕事? もともと不規則でいつ呼び出されるんだか」
きいろ「お仕事って、何されてるんですか?」
   ジェミが意味深に笑って、
ジェミ「知りたい?」
きいろ「ぜひ」
   ジェミがきいろに向かって手招き、歩み寄ってきた彼女に耳打ちする。
ジェミ「探偵」
きいろ「(驚いて)ホント?」
ジェミ「(頷いて)まだ見習いだけどね」
きいろ「へえ」
ジェミ「だからネットに流す情報は本当に気を付けてほしいの」
きいろ「分かりました」
   ジェミが出ていき、
きいろ「キャンさん知ってました?」
キャン「なんとなく」
きいろ「ルームメイトが探偵だなんて、色々気になりません?」
キャン「うーん。私はむしろ知るのが怖いかな」
きいろ「え?」
キャン「それに、守秘義務だって言われてるうちはいいけど、あんまりせっつくとジェミも話したくなっちゃうでしょう? そうなった時に責任とれる?」
きいろ「……」
キャン「知らない方がいいこともあると思うよ」
   キャンが単純作業モードに入って黙々と手を動かす。

◯路上など
   誰かを探しているジェミ。(できれば午後~夕方の時間経過を見せたい)

◯シェアハウス、ダイニング(夕方)
   料理が出来上がって、テーブルに着くきいろ、キャン、アク。
きいろ「ジェミさん、やっぱり遅くなるんですかね?」
アク「どうかな」
きいろ「昼間の落とし物もお仕事関係だったりして」
   アクとキャンが視線を交わす。
キャン「きいろちゃん、あの時――」
アク「きいろさん、子供って好きですか?」
きいろ「え?」
アク「実は僕ね、小学校の先生なんです」
きいろ「え、あ、そうなんですか」
アク「意外でしょう?」
きいろ「いや、道理でしっかりしていらっしゃる」
   キャンが何か言いたそうにしているが、アクが視線で制止する。
アク「近頃の子育てって、最高の道楽でしょう?」
きいろ「道楽?」
アク「お金がないとしない、できない。子供を持たない自由も認めるべき。とは言えなんだかんだ子供は可愛い」
きいろ「……はあ、なるほど?」
アク「先生やってると色んな子供に出会います。みんな可愛いですよ」
きいろ「そうなんですね」
アク「でも、道楽だから無責任な親も出てくる」
きいろ「?」
アク「僕はどんな時でも子供の味方です。たとえその子が赤の他人だとしても」
きいろ「赤の他人?」
アク「(笑って)たとえばの話です」

◯シェアハウス、和室~二階の廊下(夜)
   和室で一人のきいろ、0話で見つけた絵を見つめている。
きいろ「赤の他人の、子供……?」
   絵をしまいケータイのカメラを構えて、住人の様子を伺いに二階へ。男子部屋の扉がわずかに開いていることに気付き、中を覗き込む。

〇同、男子部屋
   誰かと電話しているアク。
アク「見つかった。そう、良かった。……いや、戻ってこなくていい。お客さんもいることだし。うん?」
   電話越しながらアクが優しい笑みを浮かべ、声も急に穏やかになり、
アク「リンちゃん? 大丈夫だからね」
   バタンと扉が閉まる音。アクが振り向き、部屋の外を確認する。誰もいない。扉を閉め直し、電話に向かって。
アク「お兄さんたちはリンちゃんの味方だからね、いい子で待ってて」
   電話を切る。改めて扉を見つめるアク。
アク「キャンか……?」

◯同、女子部屋
   キャンがきいろを連れ込んだ構図で、扉の前に立つ。
キャン「……きいろちゃん、どこまで気付いてるの?」
きいろ「え?」
キャン「気付いた上で知らないフリをしている。ただの好奇心か、それとも――」
   きいろのケータイを取り上げて、
キャン「歪んだプロ意識?」
きいろ「……すみません!」
キャン「ううん、あたしたちも他人の家に土足で上がり込んだことには変わりないもん」
きいろ「土足?」
   きいろが足元を見る。
キャン「え、馬鹿なの?」
きいろ「すみません」
   キャンはカメラが動いていないことを確認してケータイを返す。
キャン「……ジェミが仕事だって探しに行ったのはリンちゃん。この家に……本当に住んでる女の子」
きいろ「やっぱりこの家」
キャン「私たちの家じゃない」
きいろ「じゃあどうして……?」
キャン「アクはこのまま突っ走る。たぶんジェミもついていく。でも……」
   キャンが力なく扉にもたれ掛かる。
キャン「私は無理だと思う」
きいろ「キャンさん?」
キャン「きっときいろちゃんが現れたのは、もう止めろってことなのよ」

◯同、二階の廊下
   男子部屋から出てきたアクが女子部屋の方を見る。しばらく目を向けた後、暗室へ。(ドアに手を掛けるか掛けないかくらいで映像が切れる)

◯同、女子部屋
キャン「あくまでリンちゃんのためだった。でも」
きいろ「……」
キャン「私たちは、この家の人を殺してしまった――」


〈補足〉
 小学校教師(嘘だとしても子供と縁のある仕事)のアク、介護食(もしくは学校給食)を作る厨房で働くキャン、探偵見習いのジェミはそれぞれのきっかけでこの家の住人が家族として機能不全に陥っていることに気付く。(家庭訪問とか浮気調査とか色々考えていますが、あんまり掘ると他の演者が欲しくなりそうなのでさらりと説明する方法模索中)
 一人だけなら気にはなっても何も起こらなかった。けれど三人が揃って「リンちゃんが可愛いそう、助けてあげたい」と思った時、行き過ぎた正義感が実力行使に発展する。
 ラストの「殺してしまった」は今のところ2話に引っ張るためのブラフ。とは言え、今後も4人で展開させるなら本当に殺してしまってもいいかな。

 ……すみません。シナリオの応募で補足を設けるのは反則かもしれませんが、今後につながるものなので。
 原稿用紙換算10枚なので10弱なら収まるんじゃないかと思います。

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