『テーマは「自由」』
「盗んだバイクで走りだしたい気分だ」
溜め息交じりに唯木さんが呟くのを聞いて、僕は首を傾げた。
「唯木さん、二輪の免許持ってるの?」
「……そういうことじゃないでしょ」
模試の結果を丸めたものが僕に向かって投げつけられる。くしゃくしゃのそれを拾って広げると、有名大学のA判定が並んでいた。
「どこに不満があるのさ?」
「だって、親に言われるまま医学部入って医者になるって、レールに乗った人生だなって。きっと結婚も出産もレールの上だよ」
「レールに乗るのも才能だと思うけどな」
唯木さんは納得できないらしくまた深い溜め息をついた。
「真田くんは? 進路決めたの?」
「お先まっくら。とりあえず箸か棒にひっかけてもらって、フリーターでもするかな」
「良いね。自由を謳歌してるね」
どこがだ。なんて突っ込んだところで今の唯木さんには効かない。したがって僕は別の道を開拓する方向に出た。
「自由か、なら一つやりたいことがある」
「なに?」
僕は唯木さんを見つめた。
「僕ね、二輪の免許持ってるんだ。盗んだバイクでなくていいなら、唯木さんを後ろに乗せられるけど?」
唯木さんが僕を見つめ返す。数秒後、彼女はニッコリ笑った。
〈了〉
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