妄想症_ゴルフ場

『アイ・アム・キャディ!』

 私はキャディ。兄が所有するゴルフ場の専属キャディである。

「ドライバー取って」
 兄のぞんざいな物言いにカチンときて、言い返す。
「は、自分で取れば?」
「いいじゃん。さっきからそこで暇そうに見てるんだから」
「そもそもどれがドライバーかわからない」
 兄は舌打ちして、立て掛けてあるクラブの中から一本を取り出した。
「じゃあキャディとかふざけたこと言ってないで出てけよ。練習の邪魔」
「いいじゃん。それに、ギャラリーのせいで集中が途切れたらゴルファーなんてできないでしょう?」
「分かったようなことを……」
 兄は私を追い出すことを諦め、ショットに集中する。
 大きく振りかぶって、スイング!
「ファー!」
「……いやもう、マジで恥ずかしいからやめて」
「恥ずかしいのはこんなゴルフ場作っちゃう兄さんでしょう」
 面積にして四畳半かそこらの倉庫。ウチのおじいちゃんが現役だった頃は商品の在庫が色々積まれていたけれど、今はゲージと小さな芝と、兄が通販で買った謎の打球測定器が転がっているばかりだ。
 ……ちなみに兄は、まともな「ゴルフ」をしたことはない。

 私はキャディ。河内商店の元看板娘にして、今は河内ゴルフ場の専属キャディである。

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