無断駐車に対する自力救済

半月ばかり前の、すき家の無断駐車に対する貼り紙問題、そこでしばしば参照されるサイトについて、思うところをまとめた。まとめている間に半月経過してしまった。

法や交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介サイトや紹介書籍や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。


すき家の無断駐車に対する貼り紙問題

すき家の無断駐車に対する貼り紙問題は、以下に示されるもの。

これに対して思うことは、アンガーマネジメント。なお、やりすぎな対応という感想は持たない。くだらない対応という感想を持つ。

過去に以下の記事でアンガーマネジメントを軽く取り上げている。

過去に以下のように書いた。
変えられないことに力を注ぐのは無意味。変えられるものに力を注ぎ、問題を解決していこうと説く。それは怒ることではないと説く。

貼り紙を増やすことは、相手の行動を変えることに寄与しない。そんなものに力を注ぐのは無意味。なにを解決すべき問題と捉えて、どのように解決していくのが効果的か。その観点で考えることができていない行動だと感じる。

本社による指導がどのようなものだったか。放置に近い対応か、満車近い状況にあった時間を計測して損害請求の材料を収集する対応か、その内容は分からない。いずれにしても貼り紙を過剰に貼る行為が問題解決に寄与しないことは変わりなかろうと思う。人的資源の無駄を指摘するものだったかもしれない。

最適解?

無断駐車に関連して、2018年にあった裁判を示す。裁判例検索では見つからないため、判決内容の詳細は確認していない。しかし新聞記事になっており、これに基づいて説明する。

コンビニ無断駐車に、民事請求が満額認められたケースがあったらしい。再三の注意にもかかわらず2年に渡って駐車を繰り返し、合計1万時間超の駐車に対し、近隣駐車場相場の時間700円相当で計算、弁護士費用込みで920万円の請求。2018年7月26日に判決が出て、満額認められたという。

こういう事例を示しつつ、繰り返すようであれば民事裁判も辞さないことを示せば、たいていは無断駐車をやめてくれるものと思う。それでもやめない場合は、もちろん民事裁判で争うしかないだろう。

参照サイト

前項の貼り紙問題に関連して、違法車両が逃げられないように進行を妨げるなど、自力救済を行ってはどうかという観点が示されることがある。これに対して自力救済の危うさを指摘するサイトが示されることがある。

自力救済は良くないとされる。自力救済とは司法手続きを踏まずに実力行使によって権利回復を行う行為。これを明確に定める民法典はない。ただし関連する条文には、民法709条(不法行為による損害賠償)や民法720条(正当防衛及び緊急避難)などがある。

ここでは、民法720条に関連する解説を、解説書から抜粋して示す。

通説は、正当防衛や緊急避難の場合には、加害行為の違法性が阻却されるため、不法行為が成立しないと説明する。すなわち、これらを違法性阻却事由と位置付ける。民法典に規定された場合に加えて、①自力救済、②正当業務行為、③被害者の同意・承諾などがある場合にも、違法性は阻却され、不法行為は成立しない。

新コンメンタール民法(財産法)第2版』P.1254

ここには自力救済は違法性阻却事由になりえるとある。ただし、法的に度を弁えているか、法的に度を越しているか、そのあたり一般人には判断付けがたい。その意味では自力救済は極力避けるべきだろうとは思う。

とはいえ、司法手続きを踏まずに権利回復を行う行為一切が否定されると、相手の不法を咎めることすらできなくなってしまう。相手の不法を咎めるために、自身が不法を行うのは避けるべきと捉えるのがいいと思う。それには、どのような行為が不法となるかを知る必要がある。

違法駐車車両に注意し、繰り返すようなら民事訴訟を行う旨を伝える。これを確実に伝えるために、貼り紙に留めず直接注意を行う、そのために一時引き留める。これくらいなら問題ないと思う。

ただし、引き留める方法には注意を必要とする。先のサイトでは、無断駐車車両が逃げられないように、無断駐車車両を塞ぐ位置に車両を駐車していた。これに限らず、無断駐車車両の進行を妨げる行為はどのような不法行為にあたるのだろうか。

思うところには3つある。
ひとつは道交法47条2項後段「交通妨害駐車禁止規定」。
ひとつは刑法124条1項「往来妨害罪」。
そして両者に共通して、その場所が道路足り得るかという要素がある。ここには、駐車場のうち、駐車スペース部分が道路足り得るか、駐車スペース間の通路部分が道路足り得るかという要素に分かれる。

道路とは

先に、道路足り得るかという要素を記す。

道路の定義は、道交法および関連する法令で定められている。それらのうち、今回のケースは以下の部分が絡む。

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 道路 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

道路交通法2条1項1号
道路の定義

そして「一般交通の用に供するその他の場所」の判断基準は以下に基づく。

……その場所が「一般交通の用に供するその他の場所」であるかどうかの判断の基準としては、「道路の体裁の有無」、「客観性・継続性・反復性の有無」、「公開性の有無」及び「道路性の有無」を挙げることができる。

『18‐2訂版執務資料道路交通法解説』P.7

公開性は、通行に制限がない場合に限らない。有料駐車場など、料金を支払えばだれでも通行できる場合は容易に肯定される。守衛による検問があっても、指定業者車両なら入れるような場合には、公開性はある程度肯定される。守衛による検問があり、部内の人車に限るような厳しい制限のもとに、公開性は否定される。

以下の裁判例で示される基準が分かりやすい。

昭38.12.23 仙台高裁
そこが一般公衆に対し無条件に公開されていることは、必ずしも必要としないが、現に一般公衆および車両等の交通の用に供されているとみられる客観的状況のある場所で、しかも、その通行することについて、その都度管理者の許可などを受ける必要のない場所をいうものと解する。

18‐2訂版執務資料道路交通法解説』P.10
裁判例検索  昭和38(う)231

この基準で考えると、コンビニや団地の駐車場の通路部分は公開性があると言える。コンビニ駐車場の公開性は言うまでもないだろう。団地駐車場でも公開性はあるといえる。住民だけでなく来訪者も出入し通路部分を歩行者として通行するだろうから、一般公衆の交通の用に供するといえる。車両の通行はほぼ住民に限定されるだろうが、かといって駐車場の出入口に守衛がいるわけではなく、ロックキーなどの入出場制限があるわけでもない。車両の交通の用にも供するともいえる。

他方、駐車スペース部分は道路とは言えない。これを直接的に示す裁判例には以下のものがある。この裁判例でもまた、駐車場の通路部分は道路であるとしている。

昭56.7.14 名古屋高裁
本件駐車場のうち駐車位置を示す区画線によって区切られた部分は、一般交通の用を供するその他の場所ということが困難であり、これを道路と認めるべきではないが、駐車位置区画線のない通路部分は、同駐車場の一部としてこれを利用する車両のための通路であるにとどまらず、現に不特定多数の人ないし車両等が自由に通行できる客観的状態にあると認められるから、「一般通行の用に供するその他の場所」に包含され、道路交通法にいわゆる道路に該当する。

18‐2訂版執務資料道路交通法解説』P.12

ここが、無断駐車の問題を難しくしている。

駐車スペースに停めている限り、停めている場所は道路ではない。そのため、そこへの駐車に道交法を理由とした違法駐車は問えない。純粋に民事の話となる。刑事ではないため、警察を頼ることはできない。加えて自力救済の禁止が絡むことになる。

道交法47条2項後段「交通妨害駐車禁止規定」

道交法47条2項には、交通妨害駐車禁止規定が定められている。条文を示す。

車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない

道路交通法47条2項

前項に示すとおり、駐車場の通路は「一般交通の用に供する」道路となる。そのため、道交法47条2項の適用を受ける。先のサイトに載せられた写真では、交通の妨害となる駐車方法となっている。このような駐車違反を伴う自力救済は認められないということになる。

刑法124条1項「往来妨害罪」

刑法124条1項には、往来妨害罪が定められている。条文を示す。

(往来妨害罪)
第百二十四条 陸路、水路又は橋損壊し、又は閉塞そくして往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

刑法124条

往来妨害罪について、書籍より、今回の事例に関連する部分をいくつか抜粋する。

 陸路……であり、公衆の通行・利用に供されることを要するが、その所有権が公有か私有かを問わない
 「陸路」とは、鉄道を除く施設で、公衆の通行に供される道路をいう。……
陸路等の敷地の所有者が本罪にあたる行為をした場合には、正当な理由がない限り、本罪が成立する最三小判昭36.1.10刑集15巻1号1頁)。
……
……。「閉塞」とは、障害物を置いて道路や橋等を遮断することをいう。
 判例によると、設けられた障害物が通路を部分的に遮断するにすぎない場合であってもその通路の効用を阻害して往来の危険を生じさせると、閉塞にあたる最一小決昭59.4.12刑集38巻6号2107頁)。しかし、道路に立て看板等を放置する行為でも、わずかな注意で回避可能な場合や除去できる場合は閉塞にあたらない名古屋高裁昭35.4.25高刑集13巻き4号279頁)。
 本罪が既遂となるためには、損壊または閉塞したことにより、往来の妨害を生じさせたことを要する。「往来の妨害を生じさせた」とは、通行を不可能または困難にする状態を生じさせたことをいう。本罪は具体的公共危険犯であるから、現実に往来妨害の結果を発生させる必要はない

『新コンメンタール刑法第2版』P.230~231

この内容だと、駐車スペースの持ち主だけでなく、駐車場全体の持ち主であっても、車の前を塞ぐ行為には往来妨害罪が成立しそうに思う。自力救済を正当な理由と捉えるのは難しいように思う。

通りにくくするだけでも、通路の効用を阻害しているといえそうだ。

パイロン等、容易に除去できるものを使用し、前述の警告を貼り付けておく、あるいは従業員が待機し直接警告するといった対応が限界のように思う。




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