50歳だろうが、25歳だろうが、人生の”転機”では、うつになりうる。いやな気分よ、さようなら。

みなさん、こんにちは。今日は、以下の記事を検証してみようと思います。かなり、読まれている記事のようです。

一応、わたくしは、精神科専門職の端くれであり、うつサバイバーなので、読後感を述べたいと思います。

そもそも、記事の著者(以下、齋藤氏)は、精神医学の専門家でも何でもないので、読む前から、内容が眉唾なのは予想できますが、順を追って見ていきましょう。

「初老期うつ病」なんて言葉は、私は初めて聞きましたが(最近は、ナントカうつ病というのが、次々と出てくる)、50歳だろうが、25歳だろうが、人生の”転機”(キャリア理論でいうところの、”トランジション”)に直面すると、必然的にストレスは発生するので、うつのリスクは、高くなります(もちろん、個人差(個体差)はあります)。

私の初発は、25歳でした。大学4年生の時、研究が行き詰まり、進路変更を考えなくてはいけなくなった頃です。しまいには、リタリン(中枢神経刺激薬。薬と覚醒剤の中間とも言われる。現在、成人には処方不可)を飲む羽目になり、生活がガタガタになりました。結局、大学を変えることになったので、まさに”転機”に直面していたわけです。

齋藤氏は、うつ症状を”雑草”に例えています(以下、太字は全て引用者)。

ほかのものが一切生えなくなるくらい強く、はびこるのです。ここで「うつの雑草」と言っているのは、うつな気分のことです。……
実は「うつ」という気分も、放っておくと雑草のように心にはびこるものだと思います。雑草はとにかく早めに抜くこと。地面から少し顔を出したら、小さなうちに摘み取ってしまわないと大変なことになります。
庭の手入れをしている人はそれをよく知っています。「心の雑草」「うつの雑草」もまさに同じです。ちょっとやる気がしない、気分が乗らない。身体が重くて動くのがしんどい。何に対しても興味が昔のように湧かず、ウキウキしない……。
それは最初は大したことのないちょっとした心のほころびかもしれません。でも放っておくと雑草と同じく、あっという間に伸びて心の庭を埋め尽くします。そしてもはや何もそこに植えることができない雑草だけの空間になってしまう。取り返しがつかない重いうつ状態に陥ってしまうのです。

要するに、いやな気分は、モグラ叩きでもいいから早めに潰せ、ということなのでしょう。『いやな気分よ、さようなら』は、あまりにも有名ですね(齋藤さん、まさか知らないということはないでしょうね)。
確かに、いやな気分を放っておくのは、よくないですね。自分の感情を押し殺していることになるので。使い古された言い方をすると、「自分に正直にあれ」といったところでしょうか。

読み進めていくと、次のような一節があります。

冗談半分で私がよく言うのは「心の雑草」「うつの雑草」が、どの程度はびこっているかがわかるアプリがあればいいと。
「この1年で何か新しいことを始めましたか?」
「昨日、面白かったことは何ですか?」
「いま熱中している趣味や遊びはありますか?」
など、質問項目に答えることで、その人の心の庭にどの程度雑草が生えているかを、映像としてわかるようにするアプリです。

この人、ストレスチェック制度のことを知らないのか?映像ではなくスコア(点数)ですが、受検者の心の健康状態がわかるようになっています。私は、あんなものはあまり役に立たないと思っていますが(毎月、検査に追われる方が、よっぽどストレスだわ)、企業がメンタルヘルスに本腰を入れる制度ができたことは、評価して良いと思います。

私が一番呆れたのは、このくだりです。

このような精神文化を背景にした武道を続けている人は、マンネリズムによって起こる精神の停滞を、おのずと寄せ付けません。うつになりにくい精神構造を身に付けていると言っていいと思います。……
武道を若い頃から続けているという人は、心の庭に大きな桜の木が立っているようなもの。自然と雑草が生えてこない精神環境を整えているわけです。(終)

「運動しろ、できれば武道がいい」とは、うつの初歩的知識がないように見受けます。本当に症状が重い時は、運動どころか、外出もままならないです。最悪、ひきこもりになってしまうという事例は、文字通り、ゴマンとあります。
いろいろ意見はありますが、ベンゾジアゼピン系(依存性がある)も含めた、薬物治療も必要です(減薬・断薬に関しては、百花騒乱です)。アトピーのステロイドと同じようなものですな。

順番が前後しますが、その根拠を述べている部分も見てみましょう。

スポーツは身体を動かすという意味もありますが、勝負の世界で気持ちをピンと張ることがよい効果をもたらします。緊張感によって心の雑草がきれいに取り除かれるのです。……
スポーツをすることが脳への刺激になる。うつ状態というのは脳の働きの一部が通常より低下し緩慢になることです。スポーツによって脳に刺激を加えることで、機能低下を防ぐことにつながるのです。

私は、中学高校では吹奏楽部に、大学では学生オーケストラにいましたが、吹奏楽部は、その練習のキツさから、「ブラバンは運動部だ」とよく言われます。全国吹奏楽コンクールなんて、その最たるものです。あんなことやっているのは、日本だけじゃないかな?
学生オーケストラも、私のいたところはオーディション制でしたから、毎シーズンのように、「泣いた笑った」の光景が繰り広げられていました。文字通り「勝負」の世界です。まぁ、それが”音楽的”かどうかは、大いに疑問が残るのですが。

さて、全体を一瞥したので、まとめに入りますと、
確かに、揺るぎないアイデンティティーがあれば、そういう"雑草"なんて物ともしないのでしょうが、生身の人間はそんなに堅牢にはできていないと思います。
先ほどの、オーケストラの例で言えば、オーディションの当落線上にある人は、いつも勝負の日々ですし、常連レギュラーであっても、彼らは彼らなりのプレッシャーと戦っています。それに潰れていく人も、楽団から離れる人もたくさんいます。「自分はこれでいいのだ」というアイデンティティを確立するには、年月が必要です。40歳どころか、50歳も”不惑”とは言えないかもしれません。「一通りこの世の中のことはわかってしまっている」という考えは、諦めにも近いものを感じます。メンタルを追い込まれても、不自然ではありません。
しかしながら、どこかの誰かが言っていたような、「挑戦してください」とも言い切れません。戦いに挑むことは、ストレスを伴います。その挑戦がドラスティックなものであればあるほど、プレッシャーも大きいでしょう。安直に、「〜〜するべきだ」と言えないのが、精神保健分野の難しいところなのだと思います。それは、人間というものの奥深さの裏返しでもあるのでしょう。

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山口修司

精神科キャリアカウンセラー。メンタル疾患からの復職を目指す方の、キャリア構築支援をしています。精神保健福祉士、国家資格キャリアコンサルタント・CDA、WLBコンサルタントなどのライセンスを保持。ホームページ→http://s-yam-gucci.jp
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