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教師と生徒の恋愛は対等な関係なのか ドラマ『ここは今から倫理です。』が問いかける大人としての判断

初出:wezzy(株式会社サイゾー)2021.02.03 07:00

 「なぜ教師と生徒の恋愛を制限する規則があるのか」——ドラマ『ここは今から倫理です。』(NHK総合)の第三話はその理由を可視化した。

 『ここは今から倫理です。』は、雨瀬シオリ氏の同タイトル原作を実写ドラマ化した作品。山田裕貴演じる倫理教師・青柳が生徒に問いかけ、生徒が答えを見つけられるよう導くストーリーだ。

※物語のネタバレを含みます

 第三話は「美しさ」および「愛と性的欲求の違い」について掘り下げるものであった。中心となったのは、物理教師の松田(田村健太郎)、と高柳の授業を受ける女子生徒・深川時代(池田朱那)。

 松田は女子生徒たちから気持ち悪いと言われ、生徒から慕われるタイプではなかったが、時代はよく松田のもとに質問に行っていた。当然、最初は松田も熱心に質問しに来る彼女に「きちんと教えてあげなくては」と教師として接していたものの、次第に時代は教科書やプリントを持たずに来て、プライベートな話をしたり、抱きついてきたりもし、松田は時代のことを女性として意識するようになる。

 ある日、松田は高柳に教師と生徒の恋愛について相談。それに対し、高柳は<それは愛ですか? それとも性的欲求ですか?>と問いかける。

 「時代への思いは愛なのか性的欲求なのか」——松田は考え続け、時代に好意を抱いていることに罪悪感を持ちつつも、時代も自分に好意を持っているのではないかと期待してしまう。

 そんな松田に高柳は<松田先生と生徒の間に、フェアな恋愛関係が成立しうるのでしょうか>と投げかけ、松田が持つ教師の権力によって関係が成立しているならば「恋愛ではなくセクハラ」と指摘。ただ、高柳は教師と生徒の恋愛が全て悪だとは考えておらず、松田にも<仮に二人の関係が本当に対等であるのならば、恋愛していいと私は思っています>と伝えている。その上で、<あなたは今その彼女を心から愛してしまったのですか。弱き者を己の性的欲求のはけ口にしているのではなく>と再び問いかけたのだ。

 一方、時代は松田に本気で好意を寄せていたわけではなかった、<新しいおもちゃができた>と言い、遊びにすぎなかったようだ。時代は教師を困らせることに快感を覚えており、2年前には死角でわざと高柳を自分に衝突させ、セクハラを捏造し陥れようとしていたのだ。しかし高柳は慌てる様子もなく、不注意でぶつかっただけで何もないことを淡々と主張し、彼女の目論見は失敗に終わった。

 なぜ時代は教師を陥れようとするのか。それは“日本一かわいい女子高校生”でモデルの妹と比較されることのコンプレックスからで、妹のように大人に気遣われたく、大人の気を引く行動をしていた。

 悩んだ末に松田はケジメをつけようと時代を呼び出す。しかし時代は、これを機に松田を陥れようと音声録音をしており、思わせぶりなことを言って襲わせようと計画していた。時代に迫られた松田は、慌てて時代を突き飛ばしてしまう。時代は襲われたと聞こえるよう叫び、その場から去ろうとしたところに高柳が現れる。

 時代は松田に襲われそうになったと主張するものの、松田は「深川の誘いに対し本気になってしまった」「でも愛していたのでフェアな関係でありたくて止めようとした」「襲おうとしたわけじゃない、驚かせてすみません」と説明した。

未成年女性からの「誘いに応じる/キッパリ断る」どちらも“選択”した行動


 『ここは今から倫理です。』の特徴は、逸脱した行動を切り捨てるのではなく、背景にある生い立ちや心理を掘り下げているところだ。

 時代はいわゆる“魔性の女”として描かれたが、「性格の悪い生徒」という解釈で終わらせない。セクハラの捏造は他人の人生を変えてしまう可能性もあり、許される行為ではないが、なぜ彼女がそのような行為をするのか、高柳は考え続け、時代のコンプレックスについて問いかけた。

 また、「教師と生徒の恋愛は制度や法律で制限される」ことは一般的な共通認識であるが、なぜ制限されるのかどれだけの大人が答えられるだろうか。「大人である教師と未成年である生徒の間で、本当に対等な恋愛関係は成立するのか」「教師という立場を利用して、性欲のはけ口にしているだけではないのか」、松田へのこうした問いかけは制度の本質的な意味を伝えるメッセージである。

 さらに、松田が時代を呼び出す場面では、教師(大人)としての立場や責任を可視化させていた。松田から見れば、女子生徒から好意を寄せられている状態。現実世界では「男性の性欲は制御ができない」「女性から誘われたら断れないもの」と扱われることは多く、ゆえに成人男性が18歳未満の女子にわいせつ行為をした事件には、女子を責めるコメントがつくことも少なくない。

 しかし本作では、松田は「愛しているから時代の誘いを断る」という“選択”をしている。たとえ女子から誘っていても(それが恐怖心から断れないなどでなければ)男性側も自分の意志で選択しているのだ。

同性間のセクハラ・問題の矮小化も指摘


 『ここは今から倫理です。』では、細かい描写にも配慮がしっかりとされている。

 例えば、第一話では女性教師が女子生徒のスカートを「短すぎる」と引っ張るシーンがあり、これを「セクハラ」と表現した。第三話では、教師間で時代が高柳にセクハラ捏造をしかけたことが話題になり、男性教師が「モテる男は辛いね」と茶化したところ、一緒にいた女性教師が<こういう問題をモテる・モテないの話に矮小化するのは危険ですよ>と指摘している。

 同性間でも許可なくプライベートゾーンに触れることはセクハラだ。また、セクハラ捏造を「モテる先生だから大変」と論点をすり替えるのは、問題の本質を見失いかねない。スルーされがちな問題を取りこぼさない点も見どころだ。

※情報は初出掲載時当時のものです。