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サンフランシスコでスタートアップに再挑戦する話

どうも、さっそ(@satorusasozaki)です。

昨年に『サンフランシスコで創業したスタートアップを解散した話』というnoteを書いてから1年少し経ちました。

この後、もう一度スタートアップを始めたのですが、気合と勢いだけではどうにもならない問題にぶち当たって乗り越えるという1年間で、様々なことがあったので、またまとめました。

前半はプロダクト検証についての細かい内容なのでスタートアップにあまり興味のない人は飛ばしてもらって構いません。

これから何かを始めようとしている人の参考になれば嬉しい限りです。

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新しいスタート

前回のnoteは、世界中の多くの人に使われるプロダクトを作りたいと渡米して、3年少し頑張ったけど最後は解散して失敗してしまったという内容でした。1回目のトライの反省を活かして、もう一度やってみることにしました。

実家の犬のスタンプを作りたい
前回のスタートアップをやっている時から、これはイケそうと思っていたアイデアが一つありました。犬の写真をとったら瞬時にスタンプになるというアイデアでした。

実家で犬を飼っているのですが、(名前は、シュシュ、女の子)その犬のスタンプを作って家族と使えたら絶対楽しいのに、でも指でなぞって切り取ったりしないといけなくて、めんどくさすぎると感じていました。

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小さい時のしゅしゅ

前のスタートアップで写真系をやってた頃論文を読み漁っていた時から技術的には難しい切り取り処理も可能になってきていると知っていたこと、米国で最も使われてるiMessageでスタンプストアが開設されたということで、今がチャンスだと思い、犬の写真をとったら瞬時にスタンプになるというアイデアを試してみることにしました。

最小コストで検証

前回からの反省は、思い込みで作ったものが誰にも使われず自爆したということだったので、今回はまず簡単な方法でニーズを調べてみようと思いました。

動画で検証
スタンプを作る面倒な作業がワンタップでできるというアプリなので、その瞬間の感動を想像してもらえる簡単な方法として動画が適しているのではと思い、作ってみました。ドッグパークに行き、動画を見せて他の飼い主がどう思ってるかいろいろと聞いてみることにしました。

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ユーザーインタビューでは、基本的に失礼になるのを避けるために良いと思ってなくても良いと言っちゃう人が大半なので、以下の2点に集中して聞きました。

1. 過去実際にやった行動を聞く:「こんなの作ったら使いますか?」ではなく「欲しいと思ったことありますか?」
2. 個人情報を聞く:「リリースしたら使ってほしいので、あなたのメールアドレスを教えてくれませんか?」など。見知らぬ僕に個人情報を渡してくれるということは、欲しいと思っている可能性が高いです。

エンタープライズ向けだと「作る前に売れ」のように、C向けだと「連絡先教えて下さい」と聞くのがいいかもしれません。

数日で複数のドッグパークを周り、40人ぐらいに話しかけてメールアドレスは20人弱。毛の部分の切り取りが面倒だったとか、定性的な感想を聞けたのもよかったです。

プロトタイプで検証
動画ではなく実際に使ってもらえるものでもっと細かいフィードバックが欲しい。iPhoneカメラに付いてる深度データを使うと物体を抜き出すことができると思い、早速シンプルなアプリを作り、またドッグパークに戻りました。

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精度は低いが一応使える

使ってもらったところ、前回の動画ほど良い反応は得られませんでした。動画の出来栄えが実際の体験より良かったせいで、期待値が上がりすぎていたのでしたその他には「精度上がるんでしょ?最高じゃん」みたいな感想を聞けたり、更に細かいフィードバックを得ることができました。

この時までにはだいたい60人ぐらいの飼い主と話して、自分と同じように犬のスタンプを作りたいけど面倒みたいなことを感じている人がいて、ちゃんと作って届けられたら使ってくれるというイメージができるようになっていたので、これでいこうと決めました。

スケールしないことをする

欲しい人がいるということは検証することができたので、本格的に開発を始めました。ただ、機械学習で自動化するには時間がかかるので、その間は別の方法で使ってもらえるものを提供することにしました。

看板でユーザーを集める
家の前にドッグパークがあり(そのために引っ越しました)、散歩をしている人が多かったので「ワンちゃんをスタンプにして欲しい人は写真を僕にメールしてください」と書いた看板を家の前に置いてみました。すると毎日5人ぐらいから飼い犬の写真が大量に送られてきて、思ったよりうまくいきました。

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余談ですが、この看板は友人のジョナサンからいただきました。Bento Cartという特化型フードデリバリーのスタートアップ(YC2019卒)をやっていて、初期ユーザーを集めるために看板を使ったらうまくいったという話を聞いたのがきっかけでした。

調子が良かった看板なのですが、少し攻めてドッグパークの目の前に移動したら、その日に撤去されてしまいました。ご迷惑をおかけした方、すみません。

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撤去する前に電話してくださいと書いたが電話は来ず

看板は撤去されましたが、すでに入ってくれていたユーザーが口コミでさらにユーザーを連れてきてくれたので、使ってくれるひとが少しずつ増えていきました。

フォトショでスタンプを手作りする

看板を見て送ってくれた写真からフォトショを使ってワンちゃんを切り抜いてからデザインをして当面は自分たちでスタンプを手作りすることにしました。手作りしたスタンプを返送して、実際に使ってもらうことで数字を見ながら開発を進めていきました。

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ここで良かったのは、看板からメールで写真を送ってもらっていたので、その後も連絡を取り続け、ユーザーとのフィードバックループが自然と出来上がっていたことでした。いろいろ参考になる意見をくれる人が多く、サンフランシスコのドッグオーナーさんの親切さに感動しました。


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その後ユーザーが増えてきてからはメールではなく、アプリから写真をアップロードしてもらう形に切り替えたのですが、看板から来てくれた人とは今でも繋がっています。

泥臭さでユーザーの満足度をハックする

これまでやってきたことを時系列で並べると
1. 最小コストでできる方法でニーズを確かめる
(動画、深度付きカメラのプロトタイプ、手作りスタンプ)
2. 泥臭いマーケティングで初期ユーザーを集める
(ドッグパークに行く、看板)
3. コミュニケーションが取りやすい環境でフィードバックループを作る
(メールでのやりとり)

初期のスタートアップはプロダクトが荒削りな場合が多いと思います。それでも使ってくれるユーザーを見つけて検証を続けなければなりません。

そのときはYコンビネーター創業者ポールグレアムの言う「スケールしないこと」つまり、プロダクトはまだまだだがどうにかしてユーザーに満足してもらう体験を提供することで使い続けてもらい、開発に活かせるフィードバックループを作るのがいいと思いました。ユーザーとの接点全てがプロダクトだと思って満足度をハックするのが大切です。

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賞金稼ぎハッカー山崎との出会い

検証の途中から、「何をやるにしても相方が必要」と思い、一緒にやってくれる人を探し始めました。相方を探す時の前回の反省は、

1. 「なぜやるか?」が一致していなかったこと
2. 腹を割って何でも話せる関係性ではなかったこと

の2点で、次は絶対に志が一致していてツラい時に何でも話せる人を誘おうと決めていました。

そこで思い出したのが山崎でした。山崎とは3年ほど前に、カリフォルニア・メンローパークにあるFacebookキャンパスで出会いました。Facebookで働いている友人がキャンパスに招待してくれると言うので行ったら彼もいて3人でキャンパスを周りました。

SFベイエリアにいる日本人というと大体は、エンジニア、起業家、駐在員、デザイナー、現地企業勤務といった具合に分かれるのですが、彼は大きなプロダクトを作るために渡米して、その傍らでシリコンバレーのハッカソンに出まくって稼いだ賞金で生活していた賞金稼ぎハッカーでした。

会った時から気が合い、かつ「世界中で多くの人に使われるプロダクトを作りたい」という志を本気で持っているという点が同じだったので山崎を誘うことにしました。

声をかけたら二つ返事で快諾してくれました。

Facebookキャンパスは、アイス屋さんもタダで、何箇所もある食堂はもちろんタダで、タダ飯の楽園みたいなところで最高でした。当時極貧生活をしていたので、この機会を逃すまいと欲張って食べすぎて苦しくなりその後のことはあまり覚えてないというのが正直な感想です。


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ボディビルダーのポーズをしながら
穴の空いたTシャツを自慢してくる山崎

彼、世界60億人オタク化計画、カオスな流浪人 -平成電脳浪漫譚-というブログをやっているので、お暇があれば読んでみてください。「人類をもっと自由にすることが人生のミッション」というツイートをピンしてたので、どういう意味?と聞いたら「おれもよくわからん」というのを聞き、この時、彼とならやっていける。と確信しました。

※前職はLinerというサンフランシスコベースのスタートアップでリードアンドロイドエンジニアをやってた優秀なエンジニアです。

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市内に引っ越す

節約のために、これまではずっとサンフランシスコから電車で50分ぐらいのところにあるコンコードという郊外の街に住んでいました。メキシコ料理と韓国料理が美味しいのどかな街だったのですが、ドッグパーク含め犬の数が圧倒的に多い(子どもより犬のほうが多い!)サンフランシスコ市内に引っ越すことに決めました。

ただサンフランシスコ、地価がムーンショットしてます。1ベッドルームのアパートの中央値が$3,700(だいたい40万円ぐらい)。ルームシェアをしたとしても$2,000(22万円)ぐらいが相場です。ヤバいですね。

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物理的にサンフランシスコにいることの重要性

そんなに高いのにわざわざ市内に引っ越す必要なんてないんじゃないかと思われるかも知れないのですが、個人的にはスタートアップをやるならやはり(シリコンバレーを含めたSFベイエリアの中でも)サンフランシスコ市内に拠点を置く方がいいと思っています。

セレンディピティを最大化する
スタートアップ自体10年以上の歴史がありそれなりに再現性のある方法論が確立されてきました。しかしまだまだスタートアップの成功の大部分が運にかかっていると言われている以上、セレンディピティ(意図せず起きる良い偶然のこと)が起こる確率を高める、つまりチャンスが巡ってくる回数を最大化するのもとても大切。

「今からコーヒーどう?」って誘われて行ったら後にチャンスに繋がったとかはよくある話で、セレンディピティを高める僕なりの方法は、呼ばれたらいつでもどこでも行くこと、そしてそれが可能な環境を整えておくことでした。

石を投げたら、エンジニアかデザイナー起業家に当たると言われてるほど、人的リソースが集中しているサンフランシスコはスタートアップにとってセレンディピティが世界一高い場所。オフィスにこもってプロダクトを作り、ユーザーと話すのと同時並行で、チャンスと幸運の数を増やすためにサンフランシスコに引っ越すことを決めました。

道端で「ハンカチ落としましたよ」って話しかけた人が自社で絶賛募集中のエンジニアポジションにピッタリの人だった、なんてこともそのうち起きるかも。

ラグジュアリースイートに入居

しかし、もちろん家賃に40万円なんて絶対払いたくないので、どうしたものかなと考えていたところ、同じくサンフランシスコで事業をやっているZypsyのカズサくんが、

「部屋は空いてないけど、部屋についているクローゼットなら空いている」と教えてくれたので、格安で住まわせてもらえることになりました。

クローゼットと言っても布団1枚はしっかりと入って、結構広くて意外と快適そうと思っていました。その矢先のことでした。

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朝3時ごろ「あぁぁぁぁ”〜!!」という誰かの叫び声が聞こえたので何事かと思って起きたら、うなされたカズサくんが大声で寝言を発していたのでした。聞いたことがないぐらい大きな寝言だったので心配になったので本人に聞いたのですが自覚はないそうでした。

叫び声が止んだと思ったらその1時間後の朝4時ぐらいにまた「ハッ」と目が覚めました。クローゼットを締め切ってたせいで空気が薄くなって酸欠になってしまったのでした。

こんな感じでクローゼットに入居してからしばらくは早朝最低2回は目覚める生活だったのですが、耳栓とアイマスクを買って、ドアを開けて寝るようにしてから全く問題なくなりました。

その後、かずさくんのうめき声は仕事のストレスが原因だったとわかり、事業をやるのがいかに大変かということを実感しました。

何でもいいから覚えてもらう
この頃から徐々に、僕のことは知らないけどどこかにクローゼットの住人がいるのは知ってるという人に出会うようになり、初対面の人から君があのクローゼットの彼か!みたいな反応が増えました。

優秀な人が世界中から集まってきて切磋琢磨しているサンフランシスコで名前を覚えてもらうのは至難の業です。プロダクトや社名で覚えてもらえるようになるまで何か方法はないかと考えていたところだったので、覚えてもらえる上に格安なクローゼット生活最高!という感じでした。

ちなみに、覚えてもらうのが大切というのはRamen Heroのヒロくんから教わりました。ヒロくんは覚えてもらうために金髪にして、今は赤髪です。

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オフィスを借りる

オフィスを借りました。「シリコンバレーと言えばガレージって決まってるだろ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれないのですが、米国はガレージの中に給湯器が付いていることが多く、長くいると一酸化炭素中毒になる可能性がある、と実際に長らくガレージに住んだことのあるYusukeくんが言っていたのでやめました。

サンフランシスコ中で最安値の物件を探してみて、いくつか候補が上がった中で、一番窓が大きくて広いところにしました。スタートアップ、いろいろ大変なことも多いし、窓が大きく日当たりが良くて気分が上がるほうがいいなと思ったのが理由です。

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譲ってもらったソファを運ぶ途中で力尽きる山崎氏

相場から破格に安い物件を見つけることができたのですが、入居当日二人でオフィス前の道路を歩いていたら、大男二人が包丁を持って取っ組み合いの喧嘩をしていたのを目の当たりにして黙って引き返しました。

その後1年間周辺では毎月のように銃撃戦が繰り広げられていて、米国で安いところを選ぶと治安を犠牲にしなければならないということを学びました。外はともあれ中は快適に仕事ができる環境です。

あまりに治安が悪いのでサンフランシスコ市が隣の物件にSupremeを誘致して、その行列で治安を改善しようとしているそうです。オープンはもうすぐだそうです。

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中は広くてよい

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送られないスタンプ

これまでは手作りでしたが、自動化の方にも着手していて、機械学習で自動化する部分をインドにいる開発チームと一緒に作っていました。

本格的に自動化するにはもっとエンジニアやデザイナーを採用したり、ガッツリとお金と時間を投入して開発する必要がある一方で、テストユーザーの間であまりスタンプが送られていないことが明らかになってきました。

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ユーザーからリクエストがあった
クリスマスコレクションとハロウィンコレクション

見てはいるけど送っていない、コミュニケーションの手段としてではなく、アートコレクションとして持っているだけの人が多かったのです。

以下は開始時に決めた事業として成立するための3つの仮説です。
1. ペットオーナーはスタンプが欲しい(使い始める理由)
2. 日常的にチャットで使う(使い続ける理由)
3. 楽しいのでもっと欲しくて課金する(持続可能性)

コミュニケーションツールとして爆発的に使われた後に収益化し、より大きな事業に繋げていく計画でしたが、第2の仮説「日常的にチャットで使う」が崩れ、このままでは事業として成立しないことが明らかになりました。

自動化せずにユーザーが自分の手で作れる動物専用のスタンプ作成アプリとしてリリースすることも考えましたが、それだと「自分で作るのがめっちゃ面倒」という最初に解決しようとしていた苦痛を放置したままで、それだけなら他のアプリでも可能なので意味がありませんでした。

失敗の瞬間

信じられなくなっているのは薄々気づいているが、まだ可能性があるかもしれないと自分を騙しながらいろいろな手を試したりもしました。しかしそんなことが長続きするわけもなく、耐えきれなくなってこのプロダクトを閉じることを決めました。手動での検証を始めてから半年後のことでした。

出資してくれた方への申し訳無さや、見込みの甘かった自分への情けなさ、責任感の無さ、ありとあらゆる負の感情に襲われました。

これまでの人生では、うまくいかないことがあっても通過点として捉えることが多く、失敗をしたという記憶はあまりありませんでした。しかし今回ばかりは「このプロダクトなら世界を狙える」とあれだけいろいろな人に熱弁して協力してもらったのにも関わらず閉じてしまった無責任な自分に対して自己嫌悪と恥ずかしさが同時に込み上げてきました。

「成功するまで続ければ成功する」と思いこれまでやってきましたが、信じられなくなったプロダクトを目の前にして痛感したのは、本当に難しいのは走り続けることそれ自体ということでした。

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次のプロダクトを決める

グダグダしている暇はなく、早速次のプロダクトを模索し始めました。与信スコアを変換するプロダクト(算出方法は似ているのに国間で持ち運びできない)、留学生ホームステイ版マーケットプレイス、動画を遠隔で一緒に見るツールなど、自分たち自身が感じたことのある課題、欲しいと思ったことのあるものを中心にとにかくいろいろなアイデアを出してみて、ヒアリングやリサーチを中心に検証していました。

しかし、なかなか信じられるアイデアが見つからず、徐々に疲弊していくのを感じました。口座残高だけが減っていく中で信じられるプロダクトがない状態は想像以上に辛かったです。

全く進捗が感じられない日々が続き、毎晩、焦燥感に襲われました。人に会うのも苦痛でした。起業してますとだけ自己紹介して、あとは聞かないでくれと祈っていました。

偉い人に会ったりする時は、せっかくのチャンスなので何か言わなければ!と自分を奮い立たせて、その時考えていたアイデアを頑張っている風に話したら一瞬で論破されてしまったり。本気で信じられるプロダクトではなかったので当然なのですが、こんなことなら最初から「信られるプロダクトが見つからず困ってます」と素直に相談しておけばよかったと後悔しました。

大量のポストイットを目の前にして途方に暮れていた深夜1時のオフィスで外からはホームレスの怒号と、1階にあるバーからの爆音EDMが聞こえてきて、気が滅入りそうになったのは今でも鮮明に覚えています。

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深夜のオフィス前。黄色い柵の右横の窪みが入口です

Whyが同じチームは強い

ピボット中は空中分解してしまう会社が多いと聞く中で、僕たちは解散しませんでした。これは不幸中の大きな幸いでした。

「世界中で多くの人に使われるプロダクトを作りたい」という志は同じだったので、プロダクトが変わったとしてもまだまだ頑張ろうと思えたのでした。先にも書きましたが、Whyが一致しているかどうかで相方を選んだのは正しかったと思います。

相方の山崎は、僕が気を落としているときも「なんとかなるっしょ!」といって前向きな姿勢を崩さず、ひたすらコードを書いて作る姿を見て、「彼とならこれからもずっとやっていける」と心強い気持ちになりました。

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ブレスト中

リスクを避けようとしていることに気づく

この時期、キヨさん一家が週末に外出するのに同行させてもらい毎週のように相談に乗っていただいていました。

キヨさんとは、日本で会社を売却した後渡米し、現在はサンフランシスコでChompという友達同士で外食の体験を共有するアプリやっている連続起業家の先輩です。忙しい合間を縫ってアドバイスをいただいている、サンフランシスコにいる日本人起業家の兄貴的な存在です。

サンフランシスコで起業する「再現性」をつくりたい──小林清剛が歩む、起業家「第二の人生」

いろいろなプロダクトアイデアを相談する中でキヨさんに言われたのが「さっそ、リスクを避けようとしてない?我々起業家の仕事はリスクを作り出すことだよ」

という一言でした。

その時は何を指摘されているのかさっぱりわかりませんでしたが、話していたアイデアを振り返ってみるとすぐに理解できました。出てきたアイデアは、情熱も独自のインサイトもたいしてない、誰でも考えつきそうなアイデアばかりだったのです。

また事業を閉じてしまうかも知れないという失敗への恐怖心から、確実に立ち上がりそうなプロダクトを捻り出そうとしていたということに気が付きました。

もともとは、まだ世の中にない新しい製品を作って世界中にインパクトをもたらしたい、その一心でサンフランシスコにやってきました。しかし今の自分を見てみると失敗を恐れるがあまりバントを狙ってしまっていたことに気づき、情けなくなりました。

特大ホームランを放つためにこの地に来たんだと、初心に返った瞬間でした。

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未来に生きて、欠けてるものを作れ

良いプロダクトを作るには?と聞かれて、Gmailを作ったブック・ハイトは「未来に生きて、欠けてるものを作れ」言いました

未来に生きるというのは、最先端の製品やソリューションに消費者として、創り手として関わるということです。

僕自身、消費者として創り手として、常に未来に生きていると思っています。自分のペイン(日常生活の苦痛・嫌なこと・解決したいこと)には敏感で常に解決策を探すようにしていて、ソフトウェアやスタートアップに限らず新しいもので自分の苦痛を解決してくれるものがあったらすぐに試してきました。(毎日のように新しいものが生まれる、世界の実験場ことサンフランシスコに住む醍醐味の一つ)

黎明期のSoylentとか不味すぎて飲めた代物ではなかったし漢方サブスクリプションを試して体調が悪くなったり、初期過ぎて課金したのにプロダクトが動かず返金お願いすることもこれまでにたくさんありました。

良い解決策が見つからない場合は自分で作ってきました。英語のリスニング教材として最高なサイトがあったのですが、めちゃくちゃ見にくかったので、プログラミングを勉強して(なぜかシェルスクリプト)、そこから音声だけをダウンロードするクローラーを作りました。

真の苦痛

常に苦痛を解決する方法にはアンテナを貼っていて、解決策がなければ自分の手で作ってきたけれど、それでも本気で苦痛だと思っていることはなんだろう、と考えてみました。

その時に思い出したのが、みてねという子どもの成長記録を残すためのアルバムアプリでした。

みてね2

米国でもFamilyAlbumという名前で、かなり使われています

去年姪ができたのですが、米国にいても姪の成長過程を見たいし、家族もいつでも姪の写真をみれたら嬉しいだろうということで、以前一時帰国した時に何気なくダウンロードし、家族全員のデバイスにインストールして米国に戻りました。

おかげさまで姪のとても可愛い成長過程を見れて思っていた通りとてもよかったのですが、もっとよかったのは、コメント機能に家族がコメントするようになり、生存確認ができるようになったことでした。

浦島太郎感

少し前の話ですが、渡米後初めて日本に一時帰国した時のことでした。3年ぶりぐらいの日本でした。

実家に戻ってみると、あれだけ新聞好きだった母親がかさばるからと言って新聞をとるのをやめていたり(iPadで読めるように設定しました)父親がシンガーソングライターになっていたり、仲良かった友人が働きすぎて体調を崩してると知ったり、3年間の間に家族や友人を取り巻く環境がガラッと変わっていたのに非常に驚きました。

もっと早く知っていれば困っていることを助けてあげられたのにと思う出来事もいくつもあり、知らなかったことに対してとてもショックでした。友人はともかく、親は確実に年をとっていってるし、このままだと恩返しするタイミングもなく死んでしまう可能性だってある。

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母親が家族写真を整理できず困っていたので
全部スキャンしてiPadで見れるようにしたり

近くにいれば全て些細な変化で、困っていることも気づいて助けてあげられるのに、米国から一時帰国した時に莫大な変化となって訪れるので、まるで浦島太郎になったような気分でした。

友人も家族もLINEでは繋がっているし、電話だってFacetimeですぐにできます。でも今日はどうだった?なんて毎日は聞けないし、電話するのにも時差があって時間を調整するのが難しい。なにより離れて暮らしているので話すきっかけがあまりないので、徐々に疎遠になっていました。

そんな中、使い始めたのがみてねでした。子どもの写真にコメントできる機能があるのですが、姪がかわいいので家族みんながコメントをし始めました。

たったコメント機能ですが、このおかげで普段はあまり連絡を取れておらず疎遠になっていた家族の生存確認ができるようになったことに感動しました。課題を解決するだけでなく、その先の世界観まで作れるみてねみたいなプロダクトを自分も作りたいと思いました。

ただ、友人は入っていないし、コメント機能だけでは家族の近況はわからない。自分のプロダクトでこの浦島太郎感を完全に解消することができたら、本当に最高だし、他の人も欲しがっている可能性が高いんじゃないかと思い、作ってみることにしました。

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久しぶりに地元西成に帰ったら中華街が誕生してました

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作ってみる

疎遠になってしまっている根本的な問題は、連絡するきっかけがないということでした。グループチャット等でアクティブになるのは、近くに住んでいる友人や、仕事の人、緊急性が高い人とのやりとりばかりで、大切だけど物理的に離れている人と日常的にコミュニケーションを取るにはただ単に繋がっているだけでは不十分でした。

そこで、どうすればきっかけを生めるか、キヨさんと考えていたときに思いついたのが「交換日記」でした。相手のことを知りたいから自分のことを書いて伝えるための交換日記ですが、その仕組みを再現できれば自然にきっかけを作れるのでは?という仮説のもと生まれたのが

自分が投稿しないと友達の投稿が見れない」というコンセプトでした。

早速、InVisionで実際に動くモックを作ってみて、3週間ほどで実装し、使ってほしい人に配って、検証を始めました。

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めっちゃダサい一番最初のモック

僕がサンフランシスコでの近況を共有すると、米国で出会い祖国に帰ってしまった友人や日本にいる家族や友人が僕の投稿を見るために近況を共有してくれるという良いサイクルが生まれ、毎日何度も使われ始めました。

友人から「他の友達に使ってもらいたいから招待してもいい?」と聞かれ、友達から口伝えで広がっていくのを見て、これはイケると思いました。

現在は一般ユーザーもいれてクローズドで使ってもらっていて、最初はバグが多かったのですが、機能が安定してくるにつれて使ってくれる人が徐々にですが増えてきていて、正式なリリースに向け急ピッチで開発を進めています。

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コミュニケーションは参加型クローズドの時代へ

Facebook上でシェアされる自分に関する投稿は2016年に20%以上落ちてからずっと減少傾向で、Twitter上には昔のように何を食べたかなんてくだらない友人のツイートは消え、Instagram上には映えるコンテンツだけしかでてこなくなり、エンゲージメント率も徐々に下がってきています

かつてはソーシャルにシェアされる近況を通して仲のよい友人と無意識的に繋がれていたけれど、繋がりすぎてしまった今、近況のシェアが激減したのは心当たりがある人も多いかと思います。米国で離れて暮らしているせいでその影響を誰よりも強く受けていたのが、僕の浦島太郎感の原因でした。

米有名VCのBenchmarkでパートナーのサラはこれからのソーシャルは参加型が鍵だと言っています。伸び始めているコミュニケーションプロダクトは全て「参加するきっかけ」が埋め込まれており、ROM専(見る専門)になるユーザーの割合が極めて低い。

Instagramはユーザーを囲い込むためにクローズドメッセンジャーのThreadsを出し、SV Angelから調達したTTYLなど家族や仲の良い友人と密に連絡をとるための新たなクローズドコミュニケーションツールも出てきています。

これからのコミュニケーションは、参加するきっかけを持ったクローズドな方向に向かっており、浦島太郎感を元にしたプロダクトで、自分自身だけではなくもっと多くの人の課題を解決できると信じています。

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コミュニティの力

この1年間は、これまで勢いと気合だけで走ってきたけどそれだけではどうにもならない問題にぶち当たって乗り越えるという1年でした。

自分の実力不足で苦しんでいた中、一番の支えになったのは、同じような目標に向かって走っている周りの存在でした。

勢いと気合以外は何もなかった僕のような若手を正しい方向に導いてくれるキヨさんだけでなく、大きなプロダクトを作りたくて渡米し今では全米に美味しいラーメンを届けているヒロくんや、宣言通り世界中で使われるプロダクトになったAnyplaceの聡くん、ずっとやっていたカプセルホテルがサンフランシスコ市にバンされ事業を閉じるも挫けず挑戦し続けるYusukeくんなど、少し前を走る先輩の存在。クローゼットを出たらいつでも相談できるZypsyのKazsaくん。同世代の先輩だけでもこれだけいて、他にも米国で頑張る起業家は徐々に増えてきています。

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キヨさん宅の引っ越し兼日本人起業家の集まり

相談したり知見を交換し合えるだけなく、自分が直面している困難を乗り越えてきた人が近くにいるという事実は、ただでさえ孤独になりがちな米国では言葉にできないほどの勇気をくれます。

また、米国で挑戦する日本人が直面する困難の大部分は共通してるので、それぞれがトライアンドエラーした結果得られた知見を共有することでリスクが減り、挑戦しやすくなっているというのもコミュニティの持つ大きな力だと感じました。

メンタルについて

この1年で、これを痛感しました。自分のメンタルを安定させるために、いろいろと工夫して試してみて出た僕なりの答えは、マラソンコーチングでした。

毎朝大体5キロぐらい走っていて、この間は人生初ハーフマラソンに出てきました。走るのは嫌いなのですが、朝走ると1日中仕事のパフォーマンスがぐっと上がるので、毎日走るようにしています。

週1回のコーチングでは、自分の思考の癖を客観的に分析したり、不安のトリガーとパターンを知り適切に対処することでその時の感情に影響を受けない意思決定ができるようになってきています。

スプリントではなくマラソンであるスタートアップを走り続けるには、メンタルを安定させる自分なりの仕組みを試行錯誤しながら手に入れることが大切だと知りました。

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最後に

これだけ存分に挑戦できる機会を得られたのは、最初に僕たちを信じて出資を決めていただいた大湯さん、北尾さん、テルマさん、西本さん、行方さん、平沼さん、堀井さんのおかげで、頭が上がりません。本当にありがとうございます。

まだまだ道半ばですが、世界中で使われるプロダクトを作るために、これからも地道に泥臭く頑張っていこうと思います。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

哘崎 悟
@satorusasozaki

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