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置き土産 (4)

 妻に先立たれた友作は、ある少年と顔見知りになる。
 それは、ある姉弟が平穏な家庭を手にする為のストーリーの始まりだった。

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 3人家族が板に付いた半年後。
 久しぶりに買ったクリスマスプレゼント。デパートでおせち料理を予約し、大晦日に取りに行く。オードブルや天ぷらそばのパックを6個買う。
 年が明け、渡すお年玉。3人で行く近くの神社への初詣。
 4年ぶりの幸福感が友作にこみ上げる。
 と同時に、ある決意を持った。

 「二人に話がある。俺の養子にならないか、、、」
 「「養子?」」
 「ああ、俺、、、そう長くないらしいんだ。死んだ家内と同じすい臓がんだって言われた。」
 「イ、イヤっ、、、せっかく家族になれたのに、、、」友理奈の顔が、驚きと困惑に染まる。
 「そうだよ、おじさん、、、また二人っきりになるの嫌だよ。」と雄太。
 「仕方ないんだ。手術しても寛解するか分からないし、それをして思いがけず早く死んだ人もいる。しない方がもっと長く生きられたんじゃないかと思ったよ、、、俺の家内がそうだった、、、」
 「で、でも他にもあるんでしょ。薬とか、、、」
 「あるにはある。放射線治療と言うものもあるらしい、、、凄く辛いそうだ。ならば、自然に任せて、天命に従って、、、、家内のところに行きたいんだ。」
 「……これからだと思ったのに、、、、でも、なんで養子なんですか?」
 「実はある程度まとまった金がある。それにこの家と土地もある。それをお前たちに譲りたい、、、
  俺には子供が出来なかった。家内が生きていればそれでもよかったんだ、、、でも、お前たちと暮らすようになって、子供っていいな、、、残せるものがあれば残してやりたいって思うようになったんだ。
  お前たちにはお父さんが居ない様だし、お母さんは亡くなった。俺のところに来てくれたが、今度は俺がいなくなる。それじぁあまりにも可哀相だ。
  これからお前たちが生きていく為にも、財産はあった方が良い。お前たちが他人のまま俺が死ねば、財産は国のものになるそうだ。
  他人に渡すと贈与税が沢山掛かる。それなら養子になって財産を受け取って欲しんんだ。多少の相続税は預貯金から出せるだろうし、、、
  どうだ、考えてみてはくれないか。」
 「…………」友理奈と雄太、泣いて何も喋らない。
 「考えておいてくれ、返事は直ぐでなくてもいい。でもあまり時間はない、、、、すまん。」

 暫くして不動産屋の河野が、友作を訪ねてきた。
 「姫野さん、ここに1ルームマンション立てませんか。一階と裏の畑を駐車場にして、各階3部屋ずつで12階建て。一番上を姫野さんの自宅にして、賃貸30戸のマンション。」
 「マンション?、、、いや、、、建てても払えないよ。銀行も貸してくれそうにないだろう、この私じゃ。」
 「お金の事は心配いりませんよ。大手デベロッパーが全額出してくれますし、この家と土地との等価交換の形にしますから。そうしたら月々200万の家賃収入がありますし、その一部がデベロッパーが出した資金の回収源になりますから。」
 「あ、、いや、、、直ぐに返事は、、、、、」
 「急ぎません。ゆっくり考えてください。じゃあまた来ます。」
 あの子たちの母親若菜が亡くなった時、葬儀で見た河野は半分ヤクザの様だった。それが満面の笑みを湛え、丁寧な口調で話しかけてきた。
 【一体どんな奴なんだ、あの不動産屋は、、、詐欺師かなんかか?】

 その夜、友作は友理奈に、
 「お母さんの葬儀にも来てた不動産屋の河野さんているだろ、、、あの人はどんな人なんだ?」
 「……河野さん、、、、は、ママの古い知り合いっだって。ママがお店を出す時も、紹介してくれたりしたらしいの。その前も随分助けて貰ったって、ママ言ってた。」
 「そうか、、、病院行ってた時にお母さんの物、持ってったのも河野さんだったよな。そういう事が許される関係だったって事かな?」
 「……」友理奈、困った様に俯き押し黙る。
 「あ、すまん。お母さんの事、悪く言うつもりじゃないんだ。ただ、あの河野ってやつ、どうも胡散臭くって。」
 「……そう、胡散臭い人、、、でも、それ以上にママが、だらしない人だったから、、、、、でも、どうしたんですか?、急に河野さんの事なんて。」
 「今日、その河野さんが訪ねてきたんだ。ここにマンション建てないかって。」
 「……ふ~ん、、、おじさん、何て答えたの?」
 「何も答えてない。……迷ってる、このまま残した方が良いのか、建て直してお前たちが暮らしやすい様にした方が良いのか、、、、
  ここがこのままだったら、将来もし大金が必要になったらここがあるから貸して貰えると思うし、イザとなれば売れるし、、、どっちが良いのか分からん。」
 「私は分かんないからおじさんの思うようにして、、、養子の件、もう少し考えてみるから。」
 「ああ、分かった。」

 数日過ぎた頃、夜遅く帰宅した友理奈を見た友作は、驚いた。
 「友理奈ちゃん、、、どうした、、、何があったんだ?」
 友理奈の制服は砂埃で薄汚れ、ブラウスのボタンは幾つか取れており、スカートから伸びた足には、、、赤黒くなった血が付いていた。
 その血も誰かの手で塗り広げられた様になっている。
 友理奈は、声を上げずに泣いていた。その頬は誰かに殴られた様に、赤くなっている。
 「誰だっ、、、誰に乱暴されたんだっ!。」友作、思わず大きな声をあげた。
 友作の声に驚いたのか、雄太が2階から降りてくる。
 「うわっ、お姉ちゃんっ!、、、」そう言ったきり、半開きの雄太の口があわあわと動いていた。
 「友理奈ちゃんっ、病院へ行こうっ!車出すから。」と友作が靴を履こうとした時、友理奈は、
 「おじさん、ダメ。良いの、、、、大丈夫だから、、、」と力なく言い、友作の腕を握った。

 「友理奈ちゃん、、、一体何があったんだ。」
 シャワーを浴びてきた友理奈を友作は、問いただす。
 「河野さんとその知り合いという人に会ってきました。ママの借金の事で話が有るって、、、」
 「そいつにや犯られたのか?、、、借金?、、、そんなものがあったのか、、、言ってくれれば金ぐらい出したのに。」
 「全部で500万有るって、、、私が高校卒業するまで、河野さんは待ってくれると。」
 「500万くらい直ぐに出せたのに、、、」
 「おじさんには言えません、、、私達親子の話ですから。」
 「……養子にしようと話してたんだから、直ぐに払うって伝えても構わなかったんだぞ。」
 「ううん、まだ決めたわけじゃないし、、、、ママの借金はおじさんには関係無いし、、、、、どうにかしなくちゃって、私、、、」
 「……で、河野はなぜ友理奈ちゃんをそんな目に、、、、いくら借金があるからって言っても、犯罪じゃないかっ。」
 「河野さんも、、、その知り合いから借りてママに貸したんだそうです。ママが死んだ日にブランド物を持って行ったのは店の支払いだけで無くなったらしく、、、
  借金の方は、今まで頼み込んで待っててもらったそうなんです。……でも、もう待てないって、、、河野さんも苦しいんだって、、、」
 「それで、河野が友理奈ちゃんの身体で払えと言ったのか?」
 「河野さんは、、、、私を連れてその人のところへ行ったんです。河野さんは直ぐに帰りました。私、、、、覚悟はしていました、、、、、
  借金の事は知っていたし、ママが返せなくなったら、私しか居ないって。だから、、、、」
 「そのある人に犯られたのか、、、、」
 友理奈はコクリと頷いた。
 「無理やり暴力でされたとは言えなくて、、、、私、、、、頷いちゃったし、、、、でも、こんなになるなんて思わなかったし、、、、、」
 友理奈は大粒の涙を流しながら、両手で顔を覆った。

 【くそっ、、、、河野のヤロウ、、、、必ず始末してやる。】
 数十年ぶりに、友作の血が騒いだ。

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