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ハートフル・カフェ・万象 17 略して「ハ・カ・バ」

幾つもの自分

仕事中、結花は有る事を考えていた。
【もう一人のあたし、、、夜、身体を売る仕事、色んな男の人との関係を続けたあたし、、、借金を返す為に成り切っていたあたし。
 お昼の仕事は?カフェでコーヒーとかを作ってたあたしは?、、、暮らしていく為の糧を得ていたあたし。
 夜、寝る前に龍彦さんの事を考えたり、思い出したりしてたあたしは?、、、中学生の頃のあたしのまま。
 本当のあたしはどれ?、、、どれもあたしに変わりは無い、、、使い分けていたの?重なってたの?
 ……夜のあたしはもう居ない、、、昼のあたしは龍彦さんと一緒にいるし、中学生の頃のあたしが今のあたし、、、
 あっ、、、おじさんと小学生のあたし、、、その頃のあたしが、夜のあたしに重なってた?、、、そういう事?】
おじさんに対して、最後にあたしは拒絶した。その為にあの時のあたしが止まったままなのか。贖罪の様なお参りを続けてきた日々があっても、、、。

法要が執り行われた。
おじさんの親戚からは誰も来なかった。連絡していないから来なかった。亡くなった時、お骨も要らないと言われていたから当たり前だが。
ナンシーさんと久しぶりに会った。高校生の時、警察で会ったきり。あの頃とあまり変わっていない。元々可愛い人だ。
今は、仙台の熟女バーで働いていると話していた。別名”お化け屋敷”と呼ばれていてまあまあ繁盛していると明るく笑っていた。
「ゆかヲヨロシクオネガイシマス。」と手を握られ、何度もお辞儀をされた。「はい。こちらこそ」と返すしかなかった。
法要の最後に秀一郎さんが話してくれた。
「ナンシーさん、結花さん、もうこれで『釋保祥信士』、『山下 保』さんは大日如来となられておられます。本来なら、13回忌でなられる所、20年と言う歳月が過ぎ去りました。
 ナンシーさんや結花さんは、お忘れになられたことは無かったでしょう。お参りが出来なくても、手を合わせて下さっていたと思います。
 もう、囚われの身ではありません。ナンシーさん、結花さん。あなた方はあなた方の思う様に生きてください。誰からも責められることは有りませんよ。」
結花は涙が止まらなくなった。唇を噛み締め乍ら、泣いた。【これで、終わった、、、】結花、心の底からそう思えた。

【やっぱり、御院様は知ってたのかな?おじさんの最後の事、、、それでも許して下さったって事かな?】

今の結花は昼のあたしと中学生の頃のあたし。そう、カフェで働き、龍彦さんに恋をしているあたし。
夜のあたしと小学生のあたしはもう居ない。
「龍彦さん。抱いてください。……もう大丈夫です。」
「そうか、、、もう大丈夫か、結花、、、良かったな。本当に良かったな。」法要の後の結花の号泣を見て、龍彦は何かを感じ取っていた。
「やっぱり、秀一郎さんと龍彦さんのお陰でした。」
「いや、俺は大した事してねぇし、、、これからだし、、、よろしくな、結花。」
「はい。よろしくお願いします。」
龍彦と結花は結ばれた、、、もちろんドキドキはあった。乙女の様な恋が、愛する人と結ばれていくドキドキが。
拒絶は無かった。もう拒絶は来ない。二人はそう思えた

「智香さん、、、結ばれました。」小さな声で結花は報告した。
カフェでノートパソコンを開き仕事をしていた智香は、結花の報告を聞き、椅子から立ち上がり、
「結花ちゃんっ!ホントっ?、、、やったの?龍彦とやったのっ?出来たのっ?!」と大きな声で聞き返した。
「ちょ、ちょっと、智香さん、声が大きいです。」結花、小さい声で智香に言うものの、顔は微笑んでいる。
お店の中に居たお客さんと龍彦が二人を見る。
カウンターの中にる龍彦に対しても、智香は
「龍彦っ!やったねっ!、、、よくやったっ!」と右手を握り、親指を立てて大きな声を掛ける。
龍彦「お、おぅ~、やった、、、確かにやった。」と返す。
「ちょっと!、もう、龍彦さんまでぇ~」結花、困った様な、嬉しい様な、恥ずかしい様な思いと赤くなった顔。
店内のお客は「ん?夫婦じゃ無かった?」「昼間っから、やったとか、、、」「今までどうしてたの?」とそれぞれ小声で反応している。
智香、結花をギュッと抱きしめる。右手で結花の頭を撫でる。
「良かったね、、、ホント、良かったね。、、、もう、心配ないね。」
「はい。もう、大丈夫です。龍彦さんが浮気しない限り、、、」智香の胸の中で結花、小さな声で答えた。
「そうねぇ~。良く見張っとかないとねぇ~」智香はハグを解き、両手を結花の両肩に載せて、首を傾けながら結花へ笑って言う。
結花も笑って頷いた。


「ハ・カ・バ」は今日も、夫婦仲良く営業しています。日曜日がお休みです。
今までいらして下さったお客さんの、ちょっとしたお話をお聞かせしようと思いますが、
今日はお忙しい様ですので、今度ゆっくりお聞かせ出来ればと思います。
ちょっと許可を取っときますね。そのお客さんたちの。

 あなたのお好きな飲み物は何ですか?
 少し、心を軽くしてみませんか?

ハートフル・カフェ・万象  店主 流泉龍彦 結花


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