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何かをつくることは、世界を理解できるようになること

何の資格も取れない。仕事に直結するわけでもない。英語をメインで勉強できるわけでもない。
フォルケホイスコーレって、そういう学校だ。
半年間もの間そんな学校へ行って、私は一体何を得たんだろう?

学ぶことは、世界が見えるようになること

「こんにちは」と「おはよう」と「ありがとう」。恥ずかしながら、私はそれくらいのデンマーク語しか知らないままデンマークに来た。当然最初はデンマーク人のみんなが何を話しているかまったくわからなくて、宇宙人同士が話しているように感じた。でもほんの少し単語がわかるようになると、細かい内容はわからなくても、これについての話をしてるのかな、ということだけでもわかるようになってくる。

私は手相に興味があって少し勉強してるのだけど、何も知識がなかったら手相は「ただの手のシワ」だ。でも少しだけでも手相の勉強すると、同じ手のシワなのにそのシワがどんなことを語っているのか、何を意味しているのか、見えてくるようになる。

つまり学ぶことは、今まで見えなかった世界が見えるようになることだ。

つくることは、世界を理解できるようになること

私は東京でクリエティブな仕事をしている人が周りにたくさんいる環境にいたけど、自分で何かをつくってみようとはまったく思わなかった。昔から絵を描くのは好きだったけど、大学生になってからはぱたりと描かなくなったし、今は何のために描くのかもわからなかった。
それは「何かをつくることは、誰かに見てもらったり、誰かに評価されるためにするもの」だと思っていたからだ。

だけどこの半年間、私はフォルケホイスコーレでたくさんのものをつくって、たくさんの新しいことにチャレンジすることになった。
思いがけず学ぶことになったElectric MusicのクラスではAblton Liveを使って電子音楽をつくり、Fine Artのクラスでは絵を描いてインスタレーションをつくって、選択授業のWeavingクラスでは織物をし、Woodクラスではノコギリを持って木を切ったり。学校にいくつもあるピアノで十数年ぶりにピアノを弾き始めたり、ギターも教わってなんとなく弾いてみたり。Woodクラスで釘を打つ音を録音して電子音楽に混ぜて、時にはそうやって何かと何かを掛け合わせてみたり。

東京で仕事をしている時にはなかなかできなかった「とにかく何かをつくってみること」をしてみて気付いたのは、「何かをつくることは、世界を理解できるようになることなんだ」ということだった。

例えば、私は音楽を聴くのは好きだけどつくろうと思ったことは一度もなかった。でもElectric Musicの授業で、初めてどうにかこうにか音楽をつくってみた。そのあと普段何気なく聴いていた音楽を聴いてみると、あ、この曲はシンセサイザーのあの音を使っていて、リズムはこういう風に刻んでいて、ここでボーカルを加工して入れてるんだな。とか。同じ音楽でもこれまでとはまったく違う聴き方ができるようになって、今までとはまた違う角度からも音楽を理解できるようになった。

Fine Artの授業では、現役のアーティストでもある先生のBillieからさまざまなことを教わった。

作品をつくる時に、彼女から「サキ、この作品の中でストーリーをつくって。あなたはこの作品で何を伝えたいの?」と、よく言われた。それまで本格的にアートを勉強したことがなかった私は、そこで初めて自分が何を表現したいのか、何を伝えたいのか、ということにじっくり向き合った。

自分の中でストーリーをつくりながら作品をつくって、完成後はクラスメイトと自分の作品についてのストーリーをシェアする。そこには優劣も評価もなく、ただただお互いの考えや表現を伝え合った。デンマーク、ウクライナ、ブラジル、日本。国籍も年齢も考え方もまったく違うクラスメイトたちと作品をシェアすると、こういう表現方法があるのか!という自分の頭の中にはなかった視点を持つことができたし、彼らはこういうこストーリーを持っているのか、という言語を介さない表現という方法でお互いのことを深く理解することもできた。

自分で作品をつくるようになったことで、アートを見ることも断然楽しくなった。アーティストが作品の中にどんなストーリーを込めているのか、読み解きながら、理解しながら見られるようになったのは、自分が作品をつくるようになったからだ。

学ぶことが今まで見えなかった世界が見えるようになることだとしたら、つくることは、世界を理解できるようになることなんだ。
誰にも見てもらえなくても、誰かに評価されなくても。つくることは、そういう他者の目線とは一切関係ない、自分の中の世界が変わることなんだ。
それが、私がフォルケホイスコーレで教わった一番大きな学びだった。
そして新しい世界が理解できるようになってくると、新しい楽しみがどんどん広がっていく。

私は何かのプロになったわけじゃない。資格も取ったわけじゃない。ここで学んだことを使ってすぐにお金を稼ぐこともできないだろう。
でも、私はフォルケホイスコーレで豊かに生きるとはどういうことかを学んだ。お金を払って何かを楽しんだり消費するのとはまったく違う、豊かさを教えてもらった。これはデンマークに来て、ここで半年間過ごして経験しなかったら決してわからなかったことだ。これは私にとって、とてつもなく大きな財産になった。

東京に帰って仕事を再開しても、これからもつくることは続けていこうと思う。誰かに評価されるためでも、お金を得るためでもなく、豊かに生きるために。

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ジャンピングハグ!
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Sakiko Masuda

シェアオフィス「Midori.so」コミュニティオーガナイザー。 2019年1月よりデンマークのフォルケホイスコーレへ留学中。

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