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【Talk & Talk】 feat. Engames 杉木貴文さん 「Engames物語」 後篇

Saashi & Saashi の Saashi がゲストと自由にトークする企画「Talk & Talk」。今回のゲストは、2017年に富山でEngamesを立ち上げ、2020年9月に法人化をなさった「株式会社 Engames」のCEO 杉木貴文(すぎき・たかふみ)さん。

実に1年をかけて3度に渡り収録した超ロングインタビューは4万5千字超え!のボリュームです。2017年に彗星のように現れて以来、日本のボードゲームシーンを力強く全速力で駆け抜け、業界の推進力を増まさしめるご活躍を続けている杉木さんのお話は、これからボードゲームのお店を始めたい、ゲーム出版をやってみたい方には必読の「Engames物語」となっています。

圧倒的なボリュームのEngames回は、前篇中篇後篇に分けて一挙公開! 最後を締めくくる後篇をお届けします。

『アナクロニー』をローカライズすると決断したあと

杉木 話を戻すと、フルローカライズすると決めた1月、年明けのEngamesでの初売りが終わったあとすぐから、かんちゃんと「このゲームのローカライズいけるかね?」というのを2人ですごく議論していたのをはっきり覚えてますね。

Saashi そこで『アナクロニー』が「いけるぞ!」という結論に達した。

杉木 それですぐ版元へメールを送って、契約を交わしたのが1月20日でした。

Saashi 早い。とんとん拍子に進んだんですね。

杉木 向こうとしても、4月にデータ締め切りというスケジュールがあったので。

Saashi 契約が他社との取り合いになったわけではなくて、スムーズにEngamesとやると決まったのは良かったですね。

杉木 はい。それはありがたかったですね。一応事前の話し合いの中で「日本の他社からは声掛かってないか? Engamesがやるということで大丈夫か?」と確認は取りました。Engamesの決断として「インポートで輸入販売でいくと言えばインポートでもいいし、フルローカライズでと言えば日本語版でやらせてあげるよ」と言ってもらえていたんですね。

Saashi 杉木さんがそこで「輸入販売にして数百個だけにします」と言ってたらインポートになっていたかもしれない。

杉木 そうです。

Saashi もしそうなってて、そのタイミングで新たに横槍で他社が「うちはフルローカライズしますよ!」と版元にオファーしてたら、どうなってたんですかね? 数百個の輸入販売と日本語化とが他社同士では利益相反して成り立たなくなる気がしますが。

杉木 もしそうなってたら、ちょっと調整入ったと思いますね。「他にローカライズしたいって出版社があったから」という話になりそう。

Saashi やはりリスクをとって、フルローカライズした決断には、見えないメリットもあったということですね。

『ペーパーテイルズ』

杉木 『アナクロニー』はそんな感じだったんですけど、実際のリリースの日程では『ペーパーテイルズ』のほうが早かったんです。2月に『アナクロニー』の前金を払いました。残りの支払いは9月で良い。その間、浮いた資金を他に回せるので何に使おうかということになり、『ペーパーテイルズ』の日本語版を出すということを決断します。

Saashi ん?! 日本語版を出す決断をできたということは、すでにそれ以前に前もって目をつけて準備もされていたということですか。

杉木 『ヴォーパルス』というゲームの存在はもちろん知っていましたけども、2018年のニュルンベルクの時点では『ペーパーテイルズ』の日本での権利が空いているのかどうかについては全然知らなかったですね。『アナクロニー』の契約を1月20日に交わして、その後すぐ1月末から2月頭にかけてニュルンベルクに行きました。そこで見つけたのが『ペーパーテイルズ』でした。

註 『ペーパーテイルズ』は『ヴォーパルス』のリメイク作品。いずれもゲームデザインは上杉真人。2017年にキャッチアップゲームズ社が英仏語版発売、2018年にペガサスシュピーレからドイツ語版が発売された。

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ペーパーテイルズ 日本語版』
(画像提供:Engames)

Saashi あ、2月に決断したということなんですか!

杉木 決めてからは早かったです。契約したのが2月10日、データ入稿の締切が2月23日でした。

Saashi ええ! 2週間もないじゃないですか。日本語版製作としては、あまりにタイト過ぎませんか?

杉木 めっちゃくちゃタイトでした……。

Saashi 翻訳から何から全部入れての期間ですよね?

杉木 そうです。逆に言えば、その超過密スケジュールをこなすことができたら、そのおかげで、その期間での資金回収も早くできるということが可能にはなったのですが。

Saashi 支払いをしてから、手元に届くまでが早いから。って、でも駆け足過ぎでしょう。尋常じゃないと思いますけど。

杉木 いやぁ、駆け足でしたねぇ。

Saashi 『ペーパーテイルズ』のデータ作成は、『アナクロニー』の日本語版を製作する時期よりも、時間軸としては前の話になりますよね?

杉木 そうです。

Saashi ということは、もし『ペーパーテイルズ』がもう少しのんびりした出版スケジュールだった場合、たとえば「夏に入稿で、商品は秋に届く」みたいな日程だったら、そのタイミングでは杉木さんが取り扱うことはできなかったかも、ということなんでしょうか。

杉木 そうですね。それだと、おそらく出せなかったでしょうね。

Saashi すごいなぁ、よくぞ隙間に挟み込めたものですね。

杉木 どうにか挟み込めたという感じでしたけども。2月の2日~4日にニュルンベルクにいて、版元に連絡して一週間で確認とれて12日に返事がきました。だけど、最初の時点では「データアップは2月19日だ」と言われたんですね。

Saashi その返事を受け取ったのは12日なんですよね? その6日後に完成データを入稿しなさいと。6日間では翻訳だけでもつらいですよね。データ全部の入稿なんてとても無理じゃないですか。

杉木 はい、そうなんです。おそらくその締め切り日というのは、ニュルンベルクで集めたパートナーに対してではなくて、昨秋のエッセンで集めたパートナーに向けての日程だったんですよね。

Saashi ああ、他のパブリッシャーはみなエッセン後に契約して、2月のデータ入稿へ向けて準備してた人たちで、ただ杉木さんだけが2月初旬のニュルンベルクからその列車に急に飛び乗った感じだったんですね。

杉木 そうなんです。でも、さすがに19日に入稿するのは無理だから「一週間延ばして26日にしてください」とお願いしたらOKもらえたので、契約することになりました。

Saashi ほんとギリギリに列車に飛び乗った感じですね。契約後2週間しか時間が残されていない日程の中で、その作品のゲームデザイナーである上杉真人さんに日本語版の監修をお願いして、そのディスカッションも進めていったわけですよね。

杉木 そうです。2月14日にすぐ上杉さん連絡をとりました。日程的にはきつかったですね。

ローカライズ出版するか輸入販売するかの判断基準

Saashi それが2018年初頭から2月の話で。その後、杉木さんが関わっていく作品の数がものすごいことになっていくんですね。その後は、軽量級のゲームもEngamesのラインナップに加わってきて、新たな傾向が見えますね。

杉木 そこはなにも方向性がぶれたというわけではなくて、より幅を広げたかったということなんです。「たとえ軽めのゲームだとしても、その中にゲーム性がちゃんとある」というところは念頭に置いて選んでます。

Saashi 杉木さんの選ぶものだから、単に「たくさん売れさえすれば良い」ということで選んだものではないわけですね。先ほどのBGGのレーティングからの分析についても、あの指標というのは杉木さん個人の「好き嫌い」は反映されていない数値なんですよね。たとえ分析によって「売れる度数」が高い数値が出ても、Engamesの方向性の中では選択しえないゲームならば、採用しないということだと思うので。

杉木 実際、そういうのありますよ(笑) 「このゲームはローカライズしたら日本で売れるだろうな」と思っても、うちの方向性や色ではないなと思ったら、Engamesではローカライズはやりません

Saashi そのラインが大事なんでしょうね、ブランディングとしても信用としても。

杉木 後年うちから日本語版を出すことになった『タッソサファリ』は軽いながらもゲーム性もしっかりあって、さらにEngamesの幅も広げてくれるゲームだと思って選んだんです。あと、ぼくはゲームに対して面食いだとよく言われるんですけど、ブランディングとしては、そのゲームの持つビジュアル面での魅力はすごく意識していますね。

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タッソサファリ 日本語版』
(画像提供:Engames)

Saashi 杉木さんが興味を抱いたゲームに対して、Engamesが輸入販売するか、ローカライズで日本語版を製作するかという判断はどういうふうになされてますか? 輸入するのは、ローカライズしたかったけれどできなかったという理由ですか、それとも売れそうな部数を計算しての結果でしょうか?

杉木 う~ん、そうですねぇ。自分がローカライズしたいと思えたのなら、基本的にぼくのスタンスとしては「できるだけローカライズしたほうが良い」とは思っています。でも、売れると思う数量の関係もありますね。輸入して和訳付きで販売するという判断は、ローカライズ版として日本にあって欲しいけれども、想定されうる販売部数が日本語版を出すためのミニマムの部数に届かないと予測される場合には輸入販売を選ぶといった感じですかね。

Saashi その「想定されうる販売部数」というのが難しいと思うんですけどね。分析のスペシャリストたる杉木さんの手にかかれば、その精度は年々増していってるんですか。

杉木 残念ながら、その精度がいまだんだん失われつつあるような気が……。

Saashi ええ!? それは日本のボードゲームシーンが日々変化しているから、より予測が困難になっているということですか?

杉木 う~ん。どちらかと言うと、これまでうちが取り扱ってきた作品はわりと堅いというか、売れ行きが見えやすいと自分で思っていたゲームが主だったんです。海外での評価の母数がある程度揃っていると、統計データに対しても正確性が増すので。

Saashi なるほど。昨今のように海外版と日本語版が同時に出版されるといった場合は、母数としての充分なデータがまだない状態で判断するということもあるわけですね。

杉木 はい。評価指標がゼロに近いものや、海外での評価自体も少ないちょっとニッチめなゲームに手を出し始めているのもありますね。

Saashi それは、逆に考えると、Engamesとして他にも手が出せる余裕が出てきたということですよね。

杉木 それはそうですね。埋めたいと思っているエリアをもう少し広げていこうと。でも、そうするとやっぱり予測と外れることも増えてきたというのが正直なところですね。わりと世界同時発売みたいになると、すでに「海外で評価されている作品だ」という前情報からのニーズというものがわからない商品ということになるので。

Saashi でもそれは逆に言えば、「文脈の守護者」としては杉木さんの望む、海外と日本とでタイムラグのない環境が整えられてきた証でもあって、痛し痒しなところですね。

『ノコスダイス』

Saashi ローカライズ出版に踏み出して以降、どんどん新たなゲームを日本の市場へ届けてくださっているEngamesですが、次のチャレンジとしては、国産のゲームを出版するということでしたね。

杉木 はい。Engamesとして考えたのは、まず最初は富山に足りないものを、ボードゲームカフェとショップで補うこと。日本と海外との差を、輸入販売や日本語版の出版を行なうことで埋めること。そしてその段階で、日本国内のゲームで良いゲームはあるけれども、その中で日本市場へまだきちんと流通していないものや、海外でも通用するだろうけれども現状まだできていないゲームを、Engamesを通してなんとかできたらということを考えました。

Saashi その第1弾が『ノコスダイス』でした。ゲームの質ももちろん高いですけど、製品としても高品質なものにEnngamesが仕上げて販売後も人気でしたよね。

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ノコスダイス
(画像提供:Engames)

杉木 『ノコスダイス』はありがたいことに国内でご好評いただいてますし、海外からもわりとしっかりオーダーはついているんですが、この後の展開として、やはり目指したいのは何カ国かでローカライズされることで、そこはまだ話がきちんとまとまってないので、これからというところですね。

Saashi それは、これまで杉木さんがやってこられた海外ゲームを日本でローカライズ出版するのとは逆の経路で、日本のゲームをEngamesが出版して、海外へのライセンシングを担っていくという形ですよね。Engamesがプロデュースして製作するそのスタイルが今後の新たな事業の柱として継続していくということでしょうか。

杉木 やりたいですね。いつもうちが海外の版元に対して日本のパートナー会社としてやっている形の逆の関係として、今度は日本人が作ったゲームをうちが「版元」になって、海外のパートナーにライセンシングする。そういう対等な関係というとあれですけど、お互いに良いゲームを紹介し合うことのできる関係性を構築していきたいなと思っています。それが対等にできてこそ「世界のボードゲーム産業の中での日本の地位が認められることに繋がるだろう」というふうに考えているんです。

Saashi これまでも、そういう話を海外の出版社から振られたりということがあったんでしょうか。

杉木 話はされますね。かなりあります。実際に取引をしている中で、海外の版元としては「自分たちはこのゲームの日本でのライセンスをEngamesに与えます。逆にEngamesからこちらに紹介してくれるゲームはありますか?」と聞かれることはあるんですよね。

Saashi これまでの杉木さんにはそう尋ねられても、ライセンシングできるような自前の商品は持っていなかったので、俎上に出せるものがなかった。でもこれからは『ノコスダイス』を紹介することができると。

杉木 まず初めは『ノコスダイス』ということなんですが、それ以外も検討中というか、うちで出すかはわからないですが日本の同人ゲームをいろいろ海外の人に見せて、「こういうゲームを扱うとしたら興味ありますか?」という話はしたりはしています。

Saashi 現段階でライセンシングを請け負っている作品でないものも、すでに紹介しているんですか。それは窓口として、Engamesが介在するということ?

杉木 もし相手が興味をもって、やりたいという出版社が出てくるようだったら、うちがそのゲームの版元になって商業版を出すことも考えられるかなと。

Saashi 海外の受けが良かったら、一緒にやることを考えてみようかということですよね。なるほど、それはただの紹介ではなく前向きな紹介になりますね。

杉木 なので、同人ゲームでぼくが気に入ったものや海外の反応を見てみたいものを、実はエッセンとかPAX(PAX Unpluggedはフィラデルフィアで開催されるボードゲームなどの大型イベント)の会場に行く際に忍ばせて持って行ってるんですよ。


海外工場の話

Saashi もしそれらの持ち込みゲームが評価が高く、杉木さんがEngamesから出版しようかなと思った場合、海外の版元がよくやるみたいに何社かを募って一緒に印刷することを考えているんでしょうか?

杉木 どちらかというとそうですね。その形が圧倒的に多いからですね。

Saashi 海外での生産、まとめての生産で特に怖いのは仕上がりもそうですが、アッセンブリのミスなど細かなミスですよね。「アメリカ用の英語版なのに中身はドイツ語版のタイルが入ってるよ」みたいな。工場側のミスなのだとしても、責任は版元にあるというストレス。

杉木 ありますね。実際、『グレンモアⅡ』でも日本語版に韓国版のコンポーネントが混じっていたんですよ。

Saashi どうしようもないですよね。気を付けるように工場に言うとしても、こちらで事前にできる対策はないですし。

杉木 なので、そういうミスがなるべく少ない工場を求めるしかないですね。

Saashi ミスが少ない工場を選ぶことでリスクマネジメントするしかない……。

杉木 実際に今ぼくがメインで付き合っている工場でこれからも付き合おうと思っているところは、すごくしっかりと管理されていると思いますしエラー率も格段に低いです。これまで6つの工場と付き合っていますけれど、その中でも低いところを選んでます。海外との案件だと自分が工場を選べない場合は仕方ないですけど、せめて自分が版元になって作る際はできだけ良い工場を使おうと考えています。

「株式会社 Engames」へ

Saashi 2020年の9月1日にEngamesは法人化なされて「株式会社 Engames」になられたとのことで、おめでとうございます。

杉木 ありがとうございます。

Saashi これまで個人事業として営んでこられていたEngamesを法人にするのは、ずっとお考えだったのですか。

杉木 考えてはいましたけど、タイミングを見計っていたという感じでしたね。

Saashi 個人事業主とはいえチームとして動いていた中で、改めて法人化するということだったわけですが。

杉木 ぶっちゃけた話をしますと、売上の規模でも利益の規模的にも充分な数字が見込めるタイミングが来たから、ですね。推進力を維持するためには今が良いのではと。

Saashi 税金面の事情などもありますしね。

杉木 はい。そのあたりのことを踏まえたら、いま法人化するしかないな、ということだったんですね。

Saashi 会社の方針としては、これまでと変化はなく?

杉木 そこはまだ正直なところわからないなと思っていまして。いまのEngamesのメインの事業というのは出版になっていますが、ぼくが出版事業を始めたのは2年半前で、その頃から比べると、いま新たにボードゲームのローカライズの出版をされている日本のパブリッシャーもすごく増えたじゃないですか。新しく始められたところは、ケンビルさん数寄ゲームズさんAsobition(アソビション)さんなど他にもありますね。特に地方で増えてる印象です。

Saashi ああ、東京以外も増えましたよね。

杉木 その流れはちょっと想定外というか。「こんなにたくさんのパブリッシャーが同時に出版事業をうまくやっていけるのかな?」というのがあって、この先どうなるのか、このままパブリッシャーの数が増えていくのかどうかは予想がつかないですけれど。

Saashi 日本でそういった新規のパブリッシャーが増えたというのは、ボードゲーム全体の出版数が世界的に見ても増えているからなんですかね。既存のパートナー出版社だけでは、とりこぼしが多くなってきたから、そこらへんが新しくはじめようと思う余地があったのかな。

杉木 たしかにそれもあるかもしれないですね。ただ、これまでは、あるゲームをローカライズするとして「日本の中で、このゲームの日本語化は自分たち(Engames)がやるのが一番良いだろう」と思えるゲームを敢えて狙っていったわけですけど、いまは他社さんが増えているので、以前と違って「このゲームは何もうちが出さなくても良いのかもしれない」というふうにも思えたりして、そんな中でEngamesから出す意義というのはどこにあるのかを考えますね。

Saashi なるほど、それは難しい問題ですね。

杉木 「うちがやるのが一番うまくローカライズできるだろう」とより思えるものを選ぶ。そうなっていった時に、これからも他社さんから出されるものは増えていくと思うので、たぶんEngamesで出版するゲーム数というのは、いまより増えていくという気はしていないんですね。

Saashi 法人化したあとのEngamesの出版件数というのは、今後どんどん増えていくのではないかとイメージしていたんですけど、そうでもないのですか。より選別して、「これは!」というものになっていく傾向あるのでしょうか。

杉木 いまから1年先くらいまでの間は、これまで取り引きのあった出版社のゲームや、長い時間をかけて交渉してきた案件などがようやく実って出版できるという流れがあるので、今年から来年にかけての出版件数はむしろ多くなると思うんですけど。それ以降、1年より先を見据えて考えれば、これまで取引のなかった、わたしたちにとっては新規の出版社を見つけてそこのゲームを新たにローカライズしていくというのは、うちでなくても他社さんがやられるだろうし、他社さんでも良いのではと思うところもありますし。

Saashi 新たに参入してきた他社が担当することになっても良いということですか。なるほど、Engamesとしては2年後以降を見据えると少しやり方も変わってくるかもという見立てなんですね。

杉木 そうです。今後1年の間はこれまでの勢いを保って出版件数はむしろどんどん増えてもいくんですけど。それ以降になると、件数はあまり増えないのではないかなと思っています。

Saashi 「Engamesといえばあの海外出版社」というイメージの浮かぶパートナーがいくつか残っていくという感じでしょうか。

杉木 既存の取引ある出版社とはそういうふうになりたいなと思っています。現時点で、強力なタッグを組んで大きなヒットを出していけるパートナー関係というのは、まだできていないかなとも思っていて。たとえば、テンデイズさんにはフォイヤーラント(Feuerland Spiele)がありますが、うちにはまだそういうパートナーはいないので、見つけてはいきたいですけどね。

Saashi まあ、そういう意味では、既存の付き合いのある出版社でもある時爆発的なヒット商品を生み出すかもしれないですけどね。たしかにおっしゃられた通り、ここ1年2年の間にローカライズに参入するパブリッシャーが増えてきた傾向が顕著な中で、今後も新たに始めたいと考えている人たちも少なくないと思うんですよ。そこで出版経験ゼロの状態から始めて2年半で法人化されたEngamesさんの歩みというのは、これから始める人にとっても希望になると思うんです。Engamesさんはここからさらに大きくなっていただいて、2年前の状態のEngamesさんクラスの新しい出版社が増えていって欲しい、という未来。

杉木 Saashiさんがいつもおっしゃっている「10倍理論」ですね(笑)

Saashi そうそう。この理論を上杉さんに話したら、「それは理論ではないですよ」と突っ込まれたんですけど(笑) 業界の中で現状あるすべてを10倍になるといいなという希望的なものなんですが。Engamesさんにいまの10倍になって欲しい。そしていまのEngamesさん規模のお店が10個増えて欲しい。実際、Engamesさんが「2年がんばりましたけど、厳しいので廃業しました」なんてことになるよりも「利益も規模も大きくなってきたので法人化しました」というほうがずっと明るいニュースだと思うので、そういうのが増えて行って欲しいんですよね。

今後のEngames

Saashi ただ、杉木さんの今後数年先の見立てというのは、「Engamesとしては出版件数は縮小傾向になるだろう」というもので、それは杉木さんのことですから、いろんな角度から分析して考えられた予測に基づくものだと思うんですけど。それを踏まえて、その未来に向けて、社長としての杉木さんはどう舵取りをしていくのか。こうしていきたい、というのはあるんですか。

杉木 ローカライズの他に、国内の良い作品を出版してそれを海外へ発信していくライセンシングの事業と、あとは国内での卸売を始めるということを考えています。

Saashi 海外へ持っていくというのは、Engamesが良いゲームだと思ってピックアップして出版した作品を、ライセンスを握ってどんどん外へ発信していくということで、新たな方向への開拓になるかと思うんですけど。もうひとつの、国内での卸売というのは? 日本のボードゲーム業界がまだまだ数字的にも伸びていくだろう、という見立てから、新たに卸に関して強化していこうということですか?

杉木 業界の数字的にはまだまだ伸びていくとは思っています。卸売りに関しては、業界全体を見ても、現状をもう少し効率化できるのではないかということを感じているんですよね。

Saashi それは物流関係も含めてのことですよね?

杉木 そうですね。まだ具体的な解決策とか案が出ているわけではないので、ぼくもまだモヤモヤしてるんですけど。

Saashi もっと良い形があるのでは、と思って模索されている段階なんですね。

杉木 自分がわかる範囲ではありますけど、ボードゲームという商品が工場で製造されてから消費者の手に届くまでのプロセスの中で、できるだけ広く全体を見渡してみて、そこから改善点というのを探していきたいと思っています。

Saashi 杉木さんが現時点で、既存のシステムの中で卸売りにチャレンジすると、そこにコミットする中で見えてくるものがあるかもしれないということですか。物流の面だけではなくて、全体を通しての、効率化のための問題点を見出していくことに繋がるかもと。

杉木 そうなんですけど、でもまあ正直な話、一番の改革ポイントになるのではと思っているのは物流のところなんですよ。実際、効率化して改革できるようなポイントなんてものが本当にあるのかどうかは、まだわからないですけどね。

Saashi Engamesがより大きくなっていく中で、業界における物流関係の問題点も、効率化の改革によってより良い形になっていく、というのは良い未来ですから、期待したいですね。

Engamesの成功の秘訣は!?

Saashi 話は少し戻りますけど、個人事業主が法人化することは「法人成り」という言葉もあるくらい、成功の形のひとつではあると思いますけど。Engamesが成功してきたのには、どんなポイントがあって成功できたのだと杉木さんは考えてますか?

杉木 う~ん、どうなんですかねぇ。法人化するという選択肢が出るのは、「売り上げと利益とがある程度のラインを超えること」ですよね。もしラインを超えたなら、法人化したほうがメリットがあるとなるので。

Saashi つまり質問としては、「売り上げと利益がそれだけ出るようになったのはなぜか?」ということなんですが。

杉木 これまでは、それなりにヒットする商品の日本語版を出版できてきたことが、利益を生む第一の原動力になっていたのですが、でも本当のところは「究極の自転車操業」で(笑) しっかりと良い案件をとってきて、そのプロジェクトで利益を得たら、自分が使う範囲のお金はちょっと美味しいものを食べるくらいにとどめて、以降に控えている案件のほうに資金を全部投入するという感じでやってきていました。そのために海外にも国内にも飛び回ってきたんですよね。

Saashi 「究極の自転車操業」の状態の中で、フルスロットルで回っている自転車のチェーンに、もし石でも詰まってガガガっと回転が止まってしまうアクシデントがあったら相当やばい状態になるということなんですよね。その危険と常に隣合わせなわけで。

杉木 そうなってたら、本当にやばいですよ。

Saashi なので、その利益を全振りで次の案件、その次の案件にぶち込んでいくというのは、なかなか真似できないことですよ。

杉木 そうなんですよね。ぼくはその全振りをギリギリの線でやってきてたということなんですね。

Saashi 結果的にそうやって乗り越えられているからすごいのですが。たとえば、杉木さんが後進の人に相談されたとしましょう。それは2年半前の杉木さんみたいな人で「これからボードゲームのローカライズの出版事業を一から始めてみようかと思っている」人です。杉木さんはその人に「資金はすべて目の前のプロジェクトに注ぎ込み、利益が出たら究極の自転車操業で次の案件に全振りすれば良いんだよん」とアドバイスしますか?

杉木 それはどうですかねぇ(笑) ただ、実際のところ今(2020年9月)からだと、たぶんそれでは無理でしょうね。

Saashi 2年半前(2017年)の状況だったからこそ、可能だったのだということでしょうか。

杉木 2年前も現在も、Engamesとしては出版事業でしっかりと利益を上げているんですけど、先ほども言ったように、いまは業界を見渡しても以前よりもずっと多くの他社さんが出版事業をされるようになられたので、2年前のぼくと同じようにやっていくというのは今は難しいかなと思います。2年半前からここに至るまでのぼくは、たまたまありがたいことに良い案件を扱わせてもらえることができましたけれども。

Saashi いまのほうが競合他社が多いので、一つの案件の取り合いになるということもあるし、出版件数が同時期に増えるということで、レッドオーシャンになってしまっているという側面もありますよね。以前はもう少しブルーオーシャンだったけれど。

杉木 そうですね。この1年くらいで急に「海の色」が変わってきた気がしますね。

Saashi いまから「ローカライズ出版事業をいまから始めます」という人は、かつてのEngamesさんみたいに究極の自転車操業をして回すには、現在は良い状況ではなくなってきているということなんですね。

杉木 究極の自転車操業をやるには、ちょっといまは良い案件を見つけにくくなっている状況なので、2年前のEngamesと同じように回していくのは難しいんじゃないかなとぼくは思います。

Saashi 結果ふり返って見れば、当時の杉木さんは「時流」にもうまく乗ることができていたんだということですね。杉木さんがローカライズ対象を選定する際になにかモットーみたいなものってあるのでしょうか。

杉木 基本的にぼくの中では、まず「他社さんがすでに付き合いがあるパブリッシャーは狙わない」というのがあります。それによって調べる際の手間や時間の効率を上げることになりますし。

Saashi 空振りしないように、あらかじめそういうパブリッシャーの作品は対象から外すということですね。実際、杉木さんの空振り率は低いんですか? 狙ってオファーしたけど、すでに他社と決まってて無理だった割合は。

杉木 空振り率は低いつもりではいますけど、それでも空振りに終わることというのは、ありますけどね。

Engamesをやっていて一番嬉しいこと

Saashi 杉木さんがEngamesをやっていて、一番嬉しいことって何ですか?

杉木 良いゲームの日本語化ができた時ですかね。契約が決まった時、それはやっぱり嬉しいですよね。

Saashi ああ、そうなんですね。契約成立の瞬間が一番嬉しい。それはこれから、そのゲームを出版するためのスタートを切れるということが嬉しさの源なのかな。

杉木 そうですね。うちはチームでやっていますが、DTPをお願いするとか翻訳をお願いできるメンバー(Engamesの従業員というのではなくて外注なんですけど)、そのうちコアメンバーが5人います。それに加えて、時々手伝ってくれる人もいて、うちの出版に関わる人というのはだいたい10人前後いるんですけど、そのチームがいてくれると思えている中で案件を取りに行っているわけです。契約の交渉は基本的にぼく一人でやってるんですが、案件さえとってくれば、翻訳やグラフィクデザインやDTPなどをチームで行える環境がある。そういう体制ができていないと、やはり多くの案件を次々にやっていくというのはなかなか難しいと思います。でもいまはEngamesとしてのチームがしっかりとあるので、「どんな案件でも取ってきたら形にできる」というふうに思えるので、思い切って取りに行くことができているんですね。

Saashi 実に心強いチームですね。そのチームがバックにいてこそ、杉木さんはガンガン前に進んでいけるわけですね。「契約をとる=実現する」というラインが明確だからこそ、契約を交わせた瞬間が嬉しい瞬間になるわけですね。素敵だ。

最後に

Saashi いやぁ、しかし長い時間お話を聞かせていただき、ありがとうございました。なんと1年に渡って計3回の収録でしたけども、長時間にわたり楽しかったですし、いろいろ勉強にもなりました。

杉木 こちらこそ、ありがとうございました。

Saashi 杉木さんがゲームの文脈の守護者というだけでなく、パブリッシュの面でもちゃんと文脈を踏まえてというか、志を持ってやっていらっしゃるというのが話からよく伝わってきました。

杉木 ボードゲーム業界は、先達の方たちがこれまで日本のボードゲーム産業の歴史を作ってこられているので、ぼくとしてはその道の中で「自分がやる意義」というのを見出してやっていかないといけないなと考えています。誰がやるのでも一緒ではダメで「ぼくがやるからこそできること」というのがあれば良いなと思いながらやっています。

Saashi 来年以降は1年間は出版件数がぐっと増えるとお聞きしたので、今後もしばらくお忙しいのが続くのだと思いますが。

杉木 そうですね。いまからの1年は、ありがたいことにこれまでやってきた2年半と比べても、Engamesにとって全然レベルの異なる1年間になると予想しています。

Saashi 長い時間をかけてきたいろいろな案件が一気に実を結ぶ総決算の1年ということになるわけですね。非常に楽しみです。

杉木 まさに総決算ですね。発表済みのタイトルでは2018年のニュルンベルクでかんちゃんが見つけてくれて、それからずっと交渉を続けてきた『スピリット・アイランド』がありますが、その他にもまだまだ発表していないタイトルがいろいろと控えていますので。

Saashi (内緒でお聞きしたところ、すごいのいっぱいで驚きました。これは間違いないものばかりですよ!)……それらはすべて本決まりで、あとは印刷に移ろう、いつ発表しようかという段階なんですか?

杉木 そうですね。

Saashi それは楽しみですね~! どんどんEngamesの推進力はアップしていきますね。

杉木 本当に良いタイトルがいろいろ決まっているので、これからの1年はこれまでとまた違ったものになると思います。それに加えて、Engamesをこれまで2年半やってきて、扱ってきたいろんなゲームがようやくリプリント(再印刷)にも回るようになってきました。そのプロジェクトだけでも今後1年の間に10タイトルあるんですよ。

Saashi リプリントだけで10作。再印刷もかけ、その他に新作が続々と控えて件数も増えるとなると、Engamesが取り扱う商品数が飛躍的に増加することになりますね。

杉木 はい。今後1年で新作のプロジェクト15タイトルあります。

Saashi リプリントを足すと全25タイトル

杉木 実はEngamesのこれまで2年半のプロジェクト数は28でした。

Saashi 2年半で28だったのが、これからの1年で25プロジェクトをやるんですか。実に2年半分にも相当するパワーを1年で放出するみたいな感じですね。そりゃすごい1年になりそうだぁ。

杉木 そういうわけで、法人化したのもそのあたりの事情もあって、資産の規模もどんどん大きくなっていってしまうので、それを個人で抱えるには限界があるという感じになってきたんですよね。これからの1年はそういう計画になっているので、いまのタイミングで法人化して、それに備えたという感じです。

Saashi 万端整って、あとはチームで25プロジェクトに邁進するのみという体制になったということですね。今後も健康第一で進めていただいて、杉木さんがフルスロットルで駆け抜けるご活躍を期待してます。

杉木 ありがとうございます。

(了)

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