カナイ_01前篇

『創造的な習慣』カナイセイジ 前篇

カナイセイジさん(カナイ製作所)は、日本のアナログゲームシーンにおいて長く活躍され、いまや世界中でその作品が多くのファンに楽しまれています。長きに渡る製作活動によって得られた経験と、真似のできない鋭いセンスを掛け合わせた作品を得意とするアナログゲームデザイナーです。

主な作品リスト
いばらの姫と4人の騎士』『イカサマージ!』『Chronicle』『RR』『舞星』 『大商人』 『成敗』 『ラブレター』 『Lost Legacy』『Gods' Gambit』『シノビアーツ』『Eight Epics』『ウニコルヌスの騎士たち(共作)』『文絵のために』他多数

優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』。

センスと経験とに裏打ちされたカナイさんの豊富な知見は、日本のアナログゲームシーンにとってのひとつの財産だと思いますし、また日本を代表するデザイナーとなった彼の日常的なクリエイトから垣間見える創作への取り組み方や考え方は、作品を外から見るだけではわからない多角的な奥深さを提供してくれることでしょう。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、前篇をここにお届けします。(中篇後篇はこちら)


創造のスタート

── ゲームデザインという作業は、カナイさんの中で具体的にはどうやって始まるのでしょうか。

カナイ アイデアをなにか思いついてから、それを「寝かせる」というほどでもないんですけど、結構それなりには頭の中でこねくり回してみます。

── 熟成させる感じでしょうか。

カナイ 少し考えてみて、良いネタになりそうかを判断しているんだと思います。でも「これは何かうまくいきそう」までいかなかったら、それは単にメモに書き付けるだけで終わりですね。

── アイデアを思いついてから、すぐにテストキットを作り始めるわけではないのでしょうか。

カナイ テストキットまでちゃんと作るのは「これならトライしてみる価値がありそうだ」と思えるもの、ある程度うまくいく可能性がありそうなものに絞りますね。ちょっと話がずれるかもしれないですけど、うち(カナイ製作所)は基本的には1人なんですよ。テストキットを作る、とは言ってもそれなりに手間がかかるじゃないですか。なので、全部のアイデアをめくら滅法に作るほどには余裕はないかなと思ってます。

── 作り始める前から、いま作る作品がどのようなものになるか、全体像についてはある程度おわかりになっておられるのでしょうか。

カナイ 「おそらくこうなるだろうな」まで見えてるケースもあれば、そこまで行ってないケースもあって、ぼくの場合はだいたいコンポーネントにアタリを付けて、「とりあえずカードが80枚で、これこれこういうことをやろう」みたいに考えると見えてくる部分も少しあって。たとえばその80枚の内訳がサッと決まるようだったら、とりあえずそれでテストキットを組んでみる。そんな感じですかね。

── 最初にアイデアが浮かんだ時に、たとえば「このアイデアならカード80枚で作ってみよう」とと固めるまで具体的にはどのように組み上がっていくのでしょうか。

カナイ それはどっちかなぁ。そこはなかなか難しいところですね。ぼくの場合は、テーマから先に作ることもあるし、システムやメカニクスから作ることもあって。メカニクスから作る場合には、2種類の人がいると思います。まず完全に新ネタというか、虚空から新しいものを作り出す人。もうひとつは、すでに世にあるトリックテイキングであるとか、ワーカープレイスメントであるとか、既存のジャンル(メカニクス)を使う形で寄せていく人。ぼく自身は、基本的に前者は不可能だと思ってるんです。

── 虚空から新しいものを作り出す、というのはものすごく難しいことですよね。

カナイ 難しいです。でも数学系のデザイナーには、結構そっちの方もいらっしゃるみたいなんですよ。おそらく「こういうものを作りたい、こういう感じのメカニクス‥‥」で考えてみると「その通りのものが出来た!」みたいな感じでしょう(笑) でもぼくなんかは「今回はちょっとトリックテイキングに挑戦してみるか」とか「ワカプレで作ってみたいな」という感じなので‥‥。

── その方向性をまず最初にイメージされてから作り始めるわけですか。

カナイ そうですね。「ワカプレ作るか」と思ってから「ワカプレ」を作り始めるわけですからね。その構造自体はわかっているし、だいたいの現実的な規模というのを把握した上で、他の要素も組み合わせてみて、「自分が作りたいもの」に寄せて作っていくという感じでしょうね。

── カナイさんに「次はこれを作ろう!」と決心させるゲームアイデアは、そうでないアイデアと、どんな違いがあると思いますか。

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