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武の2発で生き残った最高の逆転劇 カターレ富山 対 C大阪U-23

カターレの試合をもう10年以上見続けているが、これほどの試合は記憶にない。
アディショナルタイムで1点入ることはあっても2点入ることは滅多にないし、それがシーズン終盤の重要な試合で起きたというのも大きい。
今日は現場で観戦することができなかったのだが、本当にそれを後悔する。
もうこんな試合に出会うことはこの後10年はないだろう。
それくらいの試合だった。

今日の試合の前日に2位相模原の試合は終わっており、相模原が勝利していた。
今節を迎える前は残り5試合で勝ち点6差だった差は、試合前の時点で勝ち点9差に広がり、勝ち点を落とすことは、すなわち、昇格の可能性が限りなく遠のくということを意味していた。

スタメンはGK齋藤、DF戸根、柳下、林堂、MF碓井、佐々木陽次、花井、末木、馬渡、FW大野、平松。サブはGK田中勘太、DFルーカス、MF稲葉、椎名、池髙、FW武、宮城。
スタメンは前節のルーカスが林堂に代わっただけで珍しくスタメンの変動が少なかった。
ここに来て、このメンバーをファーストチョイスに固定しつつある。

試合は前半から相手のC大阪U-23のリズムで試合を進められ、逆にこちらはなかなかリズムが出ない。
守備がはっきりしない場面が目につき、先制を許してもおかしくない場面もあったが、GK齋藤が防いでスコアレスのまま前半は終了。
あまりいい意味での緊張感が感じられないリズムに乏しい前半だった。
前線からのプレスもあまりきいていなかった。
逆に相手は最下位とは思えないくらいにボールも保持できるし、チャンスも作っていた。

後半も入りはこちらの流れの時間帯があったが、徐々にその良い時間帯のリズムも失っていた。
そんな中で、選手交代は今日は調子が今ひとつだった大野に代えて宮城天、イエローカードを一枚もらっていた碓井に代えて椎名を入れて来た。
椎名は久しぶりのボランチでの起用。
また、74分には平松に代えて武を入れて1点を取りに来た。
しかし、その頃から相手にボールを拾われる場面が増えて来て、ディフェンスのミスであわやというシーンも作られる。
逆にこちらはなかなかうまく武にボールがつながらなかった。

すると、86分、ついに先制を許す。
林堂がクリアしようと前に出たがクリアしきれず、相手にボールがこぼれたところ、相手の勢いにディフェンスラインが乱され、正面からシュートを決められてしまった。

試合の流れから行ってもこれは完全に悪い時のカターレだった。
前節せっかく無敗の秋田に勝ったのに、ここで最下位チームに敗れる。
期待すると思わぬところで取りこぼしてしまう、これまでのカターレの悪い歴史をまた引きずってしまうのか、そう思った。

せめて同点にしようと、先制を許してからは、柳下や戸根が惜しいシュートを放つがクロスバーや相手に防がれる。
最後の選手交代は佐々木陽次に代わってルーカス。
後半の途中からは、佐々木陽次と花井の位置が入れ替わっていて、ルーカスはそのままボランチの位置に入った。

何とか攻めたいカターレは、アディショナルタイム直前にはそのルーカスのパスが花井、武と渡り、その武から花井にラストパスが出たが、本来のパサーとストライカーが逆の立場になり、チャンスは作れず、そのままアディショナルタイムに入った。

追いつきたいカターレは林堂が最終ラインからロングパスを送るが通らない。
それでもスローインを取り返して、馬渡のロングスローで流れを作っていく。
波状攻撃で何とかゴールをこじ開けようとするが、最後、柳下のミドルシュートは大きく枠を外れた。
中継では柳下の顔がアップになったが、あの熱い気持ちを持つ柳下が比較的冷静な、ややもすれば冷めているようにも見える様子で、これは今日はダメかと思った次のプレーだった。

相手のゴールキックがカターレの右サイドに飛び、そのボールの落下点に柳下が素早く飛び出してボレーで前にいる花井につなぐ。
花井はそのボールをうまくトラップして前を向き、その前を走る武に向かって相手ディフェンスの裏にスルーパス。
これが武に通り、抜け出した武は少し角度がなかったが、ここという位置にシュートを決めて、見事に追いついた。
起点となった柳下は、パスでつないだ後も前線まで駆け上がり、武がゴールしたボールをゴールマウスから拾い上げて、すぐにセンターサークルに戻って行った。

ただ、ここまでなら、時々起きること。
何とか負けは免れるが、引き分けで勝点1では残り4試合で勝点差8は、去年と同じで、事実上昇格争いからの撤退を意味する。

何とか勝ち越したいが、既に時計はアディショナルタイム3分を迎えようというところ。
アディショナルタイムは5分と発表されており、残り時間はわずかである。
それでも前線にルーカスを置いて起点を作ろうとする。
前線に蹴られたボールをつなごうとするが、相手も防ぐ。
ただこちらも椎名がそのボールを奪い取ろうとする。
奪い奪われしたボールを椎名が捨て身で身を呈して取り返し、前線につないだ。
そのボールに花井、宮城と必死で反応するが、ボールは奪われた。

相手のカウンターにつながりそうなところ、戸根がボールを奪いに行く。
「ノーファウル」と誰かの声が飛んで、プレスをかけてスローインを奪った。
馬渡のロングスローで畳み掛けるが、結局はオフサイドを取られ、相手にボールが渡る。
中継ではこの時点で95分を回った。
相手GKのフリーキックから始まり、このプレーが切れたら試合が終わりそうだった。

このフリーキックは相手のチャンスになりそうだったが、ぎりぎりで末木がカットし、ボランチのルーカスにつなぐ。
2人が重なりそうになったが、ぎりぎりでルーカスが前にパスを通す。
これが宮城にうまく渡り、宮城はそのまま前線へドリブルで進む。
相手のディフェンスラインがずるずると下がり、カターレの選手は前に走る。
最前線の武は前進しながらも自分の前にスペースを作れる位置取りをして、宮城のパスを呼び込んだ。

宮城が武に出した横パスは武に渡り、武がワントラップで右足を振り抜く。
ここしかない、というコースに飛んだボールは相手GKが伸ばした手をすり抜けてゴールに突き刺さった!
歓喜のカターレの選手たち。スタンドも沸いた。
そして試合はここで終了。
もう、これ以上はないというほどの逆転劇で、興奮してしばらく震えが止まらなかった。

アディショナルタイムに入るまでは完全な負け試合だった。
今日負けることはつまり昇格の可能性がほぼ消えることを意味する。
追いついて引き分けになったとしてもそれは同じ。
終了間際に失点した時、一度は完全にあきらめた。

だが、カターレの選手、スタッフはあきらめていなかった。
あきらめない姿勢が見えることはこれまでもあったが、それが結果に残ることはなかなかない。
同点にしただけでも、選手を称えようと思っていた。
それが、アディショナルタイムに入ってからの2得点で逆転勝利。

得点を奪ったのはいずれも武で、途中交代で本当に値千金のゴールだった。
実力があるにも関わらず、なかなか出場時間が与えられない。
そんな状況が続いていても腐らずに、武は与えられた時間、場所で目一杯の仕事をする。
ゴールをする前にも最前線で何度もプレスをかけてボールを奪おうとしていた。
それに連動して、宮城や花井もプレスに行った。
逆転ゴールはそういう積み重ねがあってこそだ。

また失点してからは、それ以外の選手からも何とかボールを奪おうという気持ちが感じられた。
1点目を呼び込んだ柳下のボレーでのパス、そして花井のさすがのスルーパス。
得点に直接繋がったわけではないが、椎名の懸命のボール奪取。
2点目につながったのは、末木のボールカットとルーカスのパスに、宮城天のドリブル。
そこにいた選手全員の思いがプレーから見て取れた。

過去何年もJリーグを見ているが、優勝や昇格するチームは時々信じられない勝ち方をする。
前節の秋田からの勝利、そして今節の勝利は、過去見てきた昇格チームのまさにそれだ。
相模原が勝ったので、残り4試合で勝ち点6差と状況がより厳しくなったことは間違いないが、それでも可能性だけは大きくなったように感じた試合だった。
そんな試合を見せてくれた選手を称えたい。
まだシーズンを希望を持って楽しむことができる。

(選手の動向)
1 GK 岡 ベンチ外
2 DF 松原 ベンチ外
3 DF 川崎 ベンチ外
4 DF 戸根 3試合連続スタメンフル出場
5 DF 今瀬 ベンチ外
6 MF 碓井 3試合連続スタメン
7 MF 佐々木陽次 3試合連続スタメン
8 FW 高橋 ベンチ外
9 FW 武 3試合連続サブから途中出場、2得点
10 MF 花井 2試合連続スタメンでフル出場
11 FW 大谷 ベンチ外
13 MF 佐々木一輝 ベンチ外
14 FW 大野 2試合連続スタメン
15 MF ルーカス・ダウベルマン 5試合ぶりサブから途中出場
16 MF 末木 3試合連続スタメンでフル出場
17 MF 稲葉 2試合連続サブ
18 FW 松澤 ベンチ外
19 DF 柳下 2試合連続スタメンフル出場
20 FW 宮城 8試合連続サブから途中出場
21 GK 田中勘太 2試合連続サブ
22 MF 椎名 12試合ぶりサブから途中出場
23 DF 林堂 2試合ぶりスタメンでフル出場
24 MF 滝 ベンチ外
25 MF 松本 ベンチ外
26 MF 馬渡 4試合連続スタメンフル出場
27 MF 田中佑昌 ベンチ外
31 GK 齋藤 2試合連続スタメンフル出場
32 MF 戸高 ベンチ外
33 MF 池高 3試合連続サブ
37 FW 平松 5試合連続スタメン
38 FW 玄 ベンチ外
39 FW 里見 ベンチ外
40 MF 向川 ベンチ外
41 MF 益田 ベンチ外
42 MF 橋場 ベンチ外

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