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『チョウセンブナ』(BiOctober2021/10/2)

概要

 フナと言ってもフナとは全く関係ない魚。パラダイスフィッシュに代表されるMacropodus属の淡水魚で、英名はRound tail paradise fish尾ビレの丸いパラダイスフィッシュ(やや表記揺れがあり、グラミーの一種とされることも多い)という。Macropodus属は尾ビレの端が伸長する種が多い中で、団扇のように丸く、あるいは中央部が伸長することが特徴となっている。何を持ってチョウセンブナという和名になったかはよく知らないが、パラダイスフィッシュの和名もタイワンキンギョだし(全く金魚に似てない)、よくよく他の魚の名前がつく属である。いわゆる日淡とはかけ離れた風貌であり、しっくりくる名前がなかったのだろうと想像はつく。

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 遡ればAnabantoideキノボリウオ亜目、グラミーやベタを含む特徴的なグループに属している。上鰓器官と呼ばれる特殊な器官を持ち、魚でありながら空気呼吸をすることができることが特徴的なグループである。スネークヘッド(ライギョ)の仲間にもこの器官はあるが、観賞魚として流通が多いため目につきやすいのはやはりグラミー、ベタあたりだろう。

 元々の生息域は朝鮮半島あたりで、Wikipediaによれば日本には1914年に輸入されてきたとのこと。その後逸出し、日本各地で増殖が見られたが、今はごく限られた生息地を残すばかりとなっている。ベタ同様に泡巣を作って繁殖する性質があるため、流速のある川に棲みつくことができず、日本ではなかなか適した環境がないのだと思われる。水田の用水路や池沼が主な生息地だが、整備が進むにしたがって数を減らしていったと推測される。なお、本種は熱帯性の強いMacropodus属の中では例外的に耐寒性があり、冬は氷点下になる本州でも越冬できる。

 ドブのような環境で見つかるイメージの通りに頑強で、飼育は容易と言える。ベタやパラダイスフィッシュに比べれば闘争心もやや弱く、十分に隠れ場所があれば複数飼育も可能である。エビや小魚は食べられてしまうことが多いが、同程度のサイズで穏やかな種なら混泳も難しくはないだろう。ただし、そうは言ってもオス同士の争いは激しくなることも多いので、単独飼育がベターであることは間違いない。また、ベタと比べると遊泳力が高いことから飛び出し事故が多いことにも注意。

思い出

 パラダイス、ベタにハマるきっかけとなった種。初めて採集したときの記録はこちらに。→ https://sabnach.hatenablog.com/entry/2019/03/29/173544

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 つくば市に出張(応用動物昆虫学会)があり、それが月~水のスケジュールだった。学会には友人も来るので、だったら前入りして土日も遊んでしまおうということで……詳しい経緯はもう覚えてないが、霞ケ浦があるし何かそこでしか採れないものを……と探した結果チョウセンブナに行き着いたと思う。正直、このときまで名前も知らなかった。

 この種の飼育を始めたことが色々なアクアリウム経験につながっているのだけど、まあそれはまたその種のときに書くことにしよう。

 採集できたのは1尾だけだったので、ショップからもう数尾CB個体を購入して飼育していたところ、割とあっけなく繁殖した。泡巣タイプの魚自体が初めてだったこともあり、とても新鮮で面白い経験になった。後でわかったことだが、本種やパラダイスはベタよりもかなり繁殖が簡単な割に、飼育者の数が少ないのであまり情報が出ていない。情報が少ない=難しいではないということに気づけたのも良かった点の一つ。

 簡単であるからといって、安易に繁殖させてしまうと大量の若魚をどうするか途方に暮れることになるので、処分の方法が決まっていなければ手を出さないほうがよい。他の動物でも同じことだが。

 いまいちメジャーにならず、ショップでも地味な存在でいるのは、その色彩があまり派手ではないからだと思う。ほぼ同じ魚と言ってもいいパラダイスフィッシュの影に隠れてしまっているイメージが強い。しかし飼い込んだ個体の婚姻色はパラダイスに劣らず美麗で、日本の野外で採集できる淡水魚としてはトップレベルと言っても過言ではない。特にTwitterで時々動画や写真を公開しているあやしいかげさんの個体は必見。

 パラダイスと違って品種改良がほとんどされておらず、アルビノすら発見されていない本種だが、愛好家は少なからずいるため今後の展開に期待したい。本来の生息地にも一度は行ってみたいものだ。

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