赤いビールとペンギンのビール

父はいつも赤いビールを飲んでいた。おとなになってからそれが「レッドアイ」という名のついた飲みものだと知ったけれど、当時小学生だったわたしの目には、その濁った赤色も、汚れた白い泡とのコントラストも、トマトジュースの青く濃いにおいも、なんだか奇妙な代物にうつっていた。

そのせいか、わたしはビールもトマトジュースもすきではなくて、ちっとも飲めなかったのだけれど、最近ではどういうわけかビールを飲めるようになった。タイ料理の辛さに熱くなった喉に流し込むシンハービールも、ハーブのソーセージの香りとともに飲みこむハイネケンも、焼きたての餃子の肉汁を追いかける生ビールも、おいしいと思うようになった。



ビールのことを思うとき、サントリーのペンギンのイラストの缶ビールを思い出す。季節やイベントごとに缶に描かれた絵が変わったり、1ℓくらいのペンギンのかたちをした大きな缶もあったような憶えがある。特にその中でもすきだったのが、ビールをグラスに注ぐときに、ピピピピピピ と笛の音が鳴るボトル缶だった。(1980年代のこと)


このころ、わが家にはこのペンギンのグッズがたくさんあったり、このペンギンが松田聖子さんとコラボした映画にもなって、それをみんなで観に行ったりしていた。当時はよくわかっていなかったけれど、父はサントリーのCMの仕事に携わっていたそうだ。今思うと、このペンギンしかり、NCAAというスポーツ飲料しかり、ウイスキー(ホワイト)しかり、いつも家には同じものがあったのはそのせいだった。

サントリーホワイトのCMに出演していた日野皓正さんが、父の実家にご夫婦で遊びにきたりしていた。

また、ごく最近知っておどろいたのは、父が自慢気に何度も何度も観せてくれたスポーツ飲料のCMの「がんばったひとには、NCAA」という言葉が、糸井重里さんのコピーだったことだ。その後、孫のあーちんが糸井さんにお世話になることなど、もちろん知る由もない30年前の話。


父は、いつも注ぎたてのビールの泡をわたしたち姉妹にひとくちずつなめさせて、苦い顔をするのを楽しんでいた。ピピピピピピ と笛の音がなるボトルで父にビールをつぐのはいつも取り合いで、かすれたそのピピピ音とともにトクトクと流れるビールは、とてもおいしそうに見えた。そのときだけは泡もおいしいのではないかと期待をこめてなめた。(もちろん苦い顔をすることになる)


父は15年前に他界しているので、直接仕事の話をきくことはできなかったけれど、40代の父が、じぶんの仕事に関する商品にかこまれて生活をし、こどもたちがそれに触れて笑っていたことは、とてもしあわせだったんじゃないかと思う。赤いビールの色やにおい、ペンギンのビールの音を、思い出として娘に残したことで、当時の仕事を残すことができた。



わたしがビールを飲めるようになったのは、すきなひとたちと一緒にごはんを食べることとセットで、ひとりでは飲まない。ビールは苦いだけではなくて、どんな人と、どんな場所で、どんな気持ちで飲むかで、味も変わるんだと知ったのだ。

父と折り合いが悪く、あまり仲良くなかった苦い思い出のなかに、しあわせな瞬間がそこにあったことを思い出したことで、ビールに免じて父とわたしもすこし和解したような気がする。


今年の夏は、おいしいビールをたくさん飲めますように。


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