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シングルマザーのクッキー屋の話【仕事とわたしのこと⑫】

お菓子屋さんの苦労はたくさんあるけれど、もちろんよろこびもたくさんある。

わたしが会社(某チョコレートショップ)を退社すると決めてから、さて何をしようと考えていた時期に、仕事でフランスへ行くことになり、その時にご一緒したのが、六花亭の小田副社長と開発の石田さんだった。
もともと大好きなお店だったけれど、道中、六花亭のいろいろなお話を聞いて驚いた。

同業者同士の話だと思ったらとんでもない。それはお菓子への愛だけでなく、北海道へ、スタッフへ、歴史へ、そして未来への愛の話だった。
おおげさでもなんでもなく、愛だとしか言えなかった。
(内容は、ここに書いていいかわからないのと、もったいないくらいの宝物なので、省略)

すっかり虜になったわたしは、その年の夏休みに、あーちんと一緒に帯広へ向かった。

六花亭の本社がある帯広で、お菓子の工場や美術館、保育園(社員のための社員による保育園がある!)、保養所などを見せていただいて、うっとりとため息で溺れそうになりながら、六花亭のお店でお買いものをしようとした。

その店内ではたくさんのお客さんがいて、手にはかごを持って、みんなニコニコしながら、店内をぐるぐると歩き回りながら、お菓子を選んでいた。

天国ってここなんじゃないかと思った。

家族の分、あの子の分、あの人の分、自分の分もちょっとだけ、とみんな誰かのことを思い浮かべながら、真剣に、しあわせそうに、お菓子を選んでいる。
お会計をしていても、よろこんでお金を払っているように見えた。

となりではあーちんも目をキラキラさせ、大興奮の鼻息で空もとべるんじゃないかと思った。

その店内で、お菓子屋さんは決してイヤな仕事なんかじゃない、天国にもなれるんだ と、目に映ったものを信じて、わたしはお菓子屋さんをやることを決めた。

商材としてのお菓子、戦略としてのギフト、であると同時に、この日の光景を忘れないでいようと思った。

そしてわたしのクッキー屋さんがオープンした時、小さな店内のテーブルの周りを、かごを持ったお客さんが、ぐるぐると何周もしながらクッキーを選ぶ姿を見て、ああ 間違っていなかったなと泣きそうになった。

お客さんが、ネコのアイシングクッキーを見ながら誰かのことを思い出して「ネコが大好きな人にあげます」と言いながら買って行ってくれたり、「選ぶのもうれしいけど、渡したときの、かわいー!という反応をみて、もう一度うれしくなったりするんです」と教えてくれたりした。

だれかにお菓子をもらったら、その人のことをちょっと好きになる。
ありがとうでも、ごめんねでも、おめでとうでも、なんでもなくても、お菓子をあげる、という好意の行為に、大げさに言うとそこには人間の愛おしさがギュッと詰まっている。

なくても困らない、けれど、あると困る人もいない。
何の役にも立たない、けれど、どこかで誰かがニコニコしてくれる。
そんな仕事ができてうれしい。

長くなってきたので・・・初回はこちらです。

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