情報の非対称性

 九州大学大学院の医療経営・管理学専攻の1年目には、医療財政学という医療に関する「財政」について学ぶ講義があります。今回は、医療には政府の介入がなければ非効率が発生する、というところで、「情報の非対称性」について色々と考えさせられました。

 医療の市場は、医師法や医療法といった法律に則り、診療報酬などによって政府が介入しています。これはなぜかというと、医療には「情報の非対称性」「外部性(ある財やサービスを生産したときにその影響が当事者間だけでなく周りの人にまで及ぶこと、例えば予防接種は正の外部効果を持つ)」「公共財(消費の競合性と価格による排除性をともに満たさない財、ただ医療は厳密には公共財ではないとされています)」という特徴があるためと言われています。供給者である医療者が専門家として情報を多く持ち、需要者である患者さん側との情報格差があるために、医療者が自分たちのいいように医療を展開してしまいかねないですね。つまり、患者さん側が「いい」と思ったものを好きに選べる→それが医学的に間違っていたとしたら被ることのなかったはずの被害を受けるのは患者さん側→取り返しのつかない心身の障害を被る方が続々…ということになってしまいます。もちろん、実際にこういういけない医療の提供があってもいずれ淘汰されていくはずですが、淘汰されるまでに被害を受ける方々が出てきてしまうことは、決して許容できることではありません。

 現代においては、医療に関する情報がインターネットや書籍などによってたくさん出されています。正しい医療情報を知ってもらいたいと発信される方々がたくさんおられ、内容はもちろん発信の仕方も含め私自身勉強させてもらっていることも多いです。ただ、そういった医療に関する情報の中には、間違った(もしくはまだ有効かどうか明確な結論が出ていないcontraversialな)ものもあるのが現実で、その情報が適切なのか判断することが求められます。かつ、医学の進歩は年々非常に速くなっており、医学知識が倍になる速さは、1950年時点は50年かかっていたが、1980年にはこれが7年になり、2010年には3.5年、2020年にはたったの73日で医学知識になると見積もられています(Densen. Challenges and opportunities facing medical education. Trans Am Clin Climatol Assoc. 2011;122:48-58.)。つまり、医療者側も全ての領域において情報を常に最新のものにアップデートしているなんてことは、現実的に困難なはずです。

 なので、少し前までは情報の非対称性は「量的(医療者がたくさん情報を持っていて、患者さん側は医療に関する情報をあまり持っていない)」なものだったのが、「質的(医療者も自身の専門のことは詳しいが専門外のことはそうでもないし、患者さん側も色々なリソースからの情報を持っている)」な非対称性になっている。となると、医療のあり方も昔と今ではそれに合わせて変わらないといけないのではないか。そんな観点から、これからの医療を考えるのも興味深いなと思ったのでした。


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