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ドイツの医療制度

 各国の医療制度、今回はドイツです。社会的市場主義が特徴で、連帯を原則としながら、義務と権利が組み合わされ自己責任を原則(保険料を支払わないと給付を受けられない)とした医療制度になっています。

疾病金庫

 ドイツの医療制度の特徴とも言えるのが、この疾病金庫です。日本でいう保険者にあたります。財政的・組織的に独立した法人で、公的医療保険の運営を任されており、各金庫間には競争原理が働くようになっています。もともとは、職員や労働者を対象とする既存の共済組合を医療保険者として再編成したのが始まりで、被用者保険だったのですね。保険料を疾病金庫ごとに自ら決めることができていましたが、2008年以降疾病金庫ごとで保険料が定率となりました(14.6%で7.3%ずつを労使折半)。さらに介護保険についても「介護金庫」として疾病金庫がそれぞれ保険者となっているのも特徴的です。

 この保険料の変化ですが、高騰する医療費への対策がとられてきたことが背景にあります。高齢化もあり、疾病金庫間での加入被保険者の健康リスクに差が生じて疾病金庫ごとの負担に差が出てきました。それに対し、疾病リスクを金庫全体でプールする「疾病管理」という制度を作りました。ここでは、疾病金庫は保険医協会と疾病管理プログラムの契約を結ぶ義務が課せられ、①根拠に基づく医療、②品質確保、③被保険者の登録と参加、④研修、⑤診療記録(作成)といったことに関し規定を設けて、医療基金側が給付金を年齢・性別・リスクによって調整して給付するようにしています。疾病金庫ごとの負担の差を解消するだけでなく、医療費抑制にもつなげている政策と言えます。

 この疾病金庫という公的医療保険、基本的に強制加入なのですが、実は皆保険ではありません。疾病金庫と別に、民間の医療保険が補助的に存在しており、自営業者、公務員、学生などは民間の医療保険を選択することができます。この点はなんとなく理解できますが、一部の高所得者(3年連続で基準所得水準を超えるなどの条件を満たす)も民間医療保険を選択できるというのがドイツならではです。

家庭医の制度

 ドイツは2004年以降、家庭医の制度を導入しました。目的は、フリーアクセスの制限と医療費抑制です。義務ではなく、自由な受診も可能にはしていますが、被保険者はそれぞれが自分の家庭医を登録することで、自己負担が安くなるというインセンティブをつけることで誘導しています。家庭医となった主治医は、疾病管理プログラムで規定された条件を満たすことが求められます。

 診療報酬は、総枠予算制として全体の上限を国が規定することで、コントロールされています。保険医給付統一評価基準(EBM:Einheitlicher Bewertungsmaßstab、Evidence Based Medicineではないです)という規定があり、被保険者1人ごと、診療1回につき診察などを評価する包括報酬となっています。それとは別に、慢性疾患患者の診療や緩和ケアに対する包括報酬への加算や老人患者の基本的な診断治療に係る算定区分もあります。

 基本的には点数は固定ですが、州単位で1点の増減が可能とされています。しかし、医師数の増加や疾病の流行等によって診療実績が増加した際、単価が引き下げられるという結果を招いたために原則固定することとなりました。これは、実は日本にも似たような規定があり、「高齢者の医療の確保に関する法律」第14条に、「厚生労働大臣は、(中略)医療費適正化を推 進するために必要があると認めるときは、(中略)適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる」とされています。これは当然医師会をはじめとして解釈の疑義が出され、今のところ現実的なものとはみなされていませんが、ドイツに似たような法律があるというのは知っておいていいのかもしれません。

 ちなみに、入院はDRG(Diagnosis Related Groups)というDPCと同様の包括払いです。

・「2018年 海外情勢報告」(厚労省)https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/19/
・田中伸至. ドイツの外来医療における主治医機能と遠隔診療. 健保連海外医療保障 No.120 2018 年12月.

介護保険

 ドイツは世界に先駆けて1994年に介護保険制度をつくりました。日本とは制度設計は異なっており、疾病金庫が別に組織した「介護金庫」がが運営主体(保険者)となり、被保険者は原則医療保険の被保険者と同じ範囲で、年齢による制限はありません(若年者でも要介護状態になった場合には、介護保険からの給付を受けることが可能)。財源も、日本では半分が国庫から出ているのに対し、ドイツの介護保険は保険料で全てまかなっています。保険料率は、徐々に引き上げられてはいますが(2008年以降微増し2019年1月現在で賃金の3.05%で労使折半)、日本ではちょっとイメージしにくいですね。その分、日本の介護保険認定よりも厳しく、実際に保険適用となっている数も少ないです。

田宮菜奈子ら. 人口の高齢化と幸福:日本の公的介護保険政策からの教訓. Lancet. 2011 Sep 24;378(9797):1183-92. より

まとめ

 ドイツは国がコントロールする形で、高騰する医療費抑制を図ってきています。そこに疾病金庫間に競争させるという市場原理も導入していますが、医療費抑制のためにかなり国の制御が強くなってきています。家庭医制度に代表されるリスクを全体として管理することも、質の担保を兼ねつつ、被保険者負担を控えることでモラルハザード(自己負担によって受診行動が変化すること)も防止しています。

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