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夕暮れラストノート


青緑色の空がすべてを飲み込み暮れていって

でも回りくどけりゃいいってもんじゃないなぁ

「三十億個目の良心が芽を出す頃

 テレビ塔からはイカサマな嘘が送り出されて

 液晶に移った虚像を今日も思い切り人々は食み

 心に大きく開いた穴に詰め込んでいく」

それはそれは 固く閉ざされた扉を 何度も 何度も 叩く時の 力みたいに

強大で 悲しくて 痛すぎる 空ろな連鎖

「…って言ったって、一人が気づいたって、

 みんなは斜めに構えるマエナラエしかしないの

 前に進みながら、少しずつ少しずつ左にずれていく」

そう言う君の首筋から

ラストノートがやんわり響く

青緑色の空を思い浮かばせる香り

不可能だと思っていたのに

青い薔薇はなんともなしに咲いてしまった

ここから前に進むなら
やはりわたしも左にずれていくだろうか 少しずつ少しずつ 君が言ったみたいに

ここから前を見ると
たったひとりで右にずれていく君が見える 少しずつ少しずつ 優しく宥めるみたいに

ラストノートが遠ざかる
君みたいに優しい空 わたしには見たことがなかった

だから夕暮れの青緑色の空を見ると
君とその香りを思い出すんだよ

テレビ塔は今日も電波を飛ばす
わたしの涙に似た空洞の虚像を皆に食ませる為
さあ みんな泣けよ
わたしの気持ちを解ってくれ

…いつの間にかわたしの涙は有害な毒になってしまった

君ならなんて言うかなぁ

ラストノート わたしの首筋からほのかに香る
同じ香水を付けても 同じ香りはしないんだね

中途半端にぼやけた香りを握り締めて

閉じ込めた春がいつか咲くように

小指で拭った冬の終わりの空は

やっぱり君に似ていた

青緑色の空 一度しか見えなかったあの色を

探して

君は春に溶け込んだ。 冬を融かす一輪の花みたいに。



#詩

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