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九州ツーリング その20 大分自動車道


ようやく九州に上陸した。
ここまで1,000km以上…長かった。

それなのに、雨。
念願の城島高原にいるのに。


これ以上、雨のなか山道を走るのは危険と
高速へ向かうことにした。

城島高原ともあと少しでお別れだ。

山の上まで上がってきたようで
上り坂はなくなってきた。

平らな道を右左とカーブに合わせて
バイクを走らせる。

曲がり角までは2km。
信号はない。

目の前をよく見る。
山道には、看板がない場合もある。

右手が切れていたら要注意だ。

でも、その前にバイクのメーターが
目的地の数字を指すまでは気にしなくていい。



高原とは異なった
山間部の峠道といった様相の道路が続く。

あの緑の丘を抜ける景色は見られないかもな。

覚悟して走っていたら
いよいよメーターの数字が近づいてきた。

正面に看板がないか
右に路地がないかをよく見る。

雨はポツポツのまま。

見えた!!看板だ。
バイクのメーターとピッタリ合う。

ここで間違いない。

ひと気のない路地にバイクと自分
二人で恐る恐る入っていった。


なんて素敵な道。

入ってすぐ、その雰囲気に
心奪われてしまった。

秘密の小道みたい。
人のいない世界に足を踏み入れたよう。

木々がトンネルのようだ。
枝は細く、透かして空が見える。

落ち葉はたまっていない。
路面は荒れていないようだ。

違う世界に迷い込んでしまったかのような
不思議な感覚にとらわれながら進む。

桜だ!
桜がまた咲いている。

風で舞い散る桜の花びらたち。

自然の作り出す芸術。
美しさに見とれてしまう。

道が合っていると思えるから
景色がこんなに心に入ってくるのだろうか。

安心するって
こんなに五感に影響するのか。

九州に来て
初めて景色が見えている。

また来たいな。

そんな気持ちになりながら
高速までの道を下っていった。


高速が見えてきた。
看板の指示通り、インターへと進む。

ここからは、熊本へ向かうんだ。

入り口の分岐に不安いっぱいだ。
なんて書いてあるんだろう。

地名はまだ覚えていない。
都市の位置関係がわからない。

わかっているのは

西に向かうこと
鳥栖というジャンクションで南に下ること

戻ってしまわないように
気をつけて道を選ぶ。

知っている地名が書いてある。

こっちだ!

大分自動車道『由布岳スマートIC』から
高速に入った。


ここからずっと高速だ。

熊本インターまで170km。
延々と高速を走る。

雨が本降りになってきた。
風もある。

怖い。
ギアを下げてエンジンの回転数を上げる。

車体が沈み込む感触。
少しトラクションがかけられたか。

とりあえず、次のサービスエリアで停まろう。

高速を何回に分けて休むのか
SA間の距離と残っている体力について
ゆっくり考えたかった。

10分ほど走ると
PAの看板が見えてきた。

水分パーキングエリア

吸い込まれるように入っていった。


眠い。

安心したからか時間帯だからか
眠気が襲ってきた。

今、14:36。
あとどれくらいで、熊本に着くんだろう。

宿を決めておかなければよかったか。

そうすれば、ここで諦めて
近くで宿を探すこともできたのに。

九州の地図をスマホで眺める。

あと何回停まれば、熊本にたどり着くんだろう。

時速100kmで、1時間に100km進める。

100km以上あるので
途中で休まないと手がもたない。

どこで停まろうか。
鳥栖ジャンクションまでがんばってみようか。

九州自動車道に入ったら休憩しよう。

濡れているので
人のいるところにはいたくない。

レインパンツを脱ぐのは大変なので
トイレの中、スマホを見ながら過ごした。


大分自動車道をまた走り出した。

雨は変わらず降っている。
横風が気になり、体に力が入ってしまう。

視界は悪くない。看板はなんとか読める。
シールドと眼鏡が曇らない。

大気は冷たくないということか。
曇らないのは助かる。

一面、灰色の空。
濃淡のない単色の世界。

坦々と走っていると
時間さえ止まってしまったかのようだ。

ヘルメットの中から見る狭い視界。

雨に濡れた暗色の道路と
対すると白く明るく見える空。

風切音が遠くかすんでいく。


はっと気づく。
走りながら一瞬、寝ていた。

ねむい。

走り出して
あまり経っていない気がする。

せめて鳥栖まで行きたい。

でも、頭が熱くぼーっとする。

目をあけなきゃ。

目を見開いてみる。
背すじを伸ばし、体勢を変えてみる。

首を動かす。

動きを止めると、すぐぼーっとしてくる。


はっと気づく。
またうたた寝をしている。

ダメだな。これは。

運転中、絶対眠くならない人と
走りながら平気で寝てしまう人がいる。

わたしは、後者だ。

ウトウトし出すと
前の車の赤いブレーキランプで
ハッと目が覚める。

そのくらい眠気に勝てない。

ここは高速だから
路地から車や人は出てこないけど…

追突してしまうと危ない。


『無理はしないように。
 帰りは休憩を多めに取って』

前に教わった言葉を思い出す。

次、見えたPAで休もう。
そこまでは、事故を起こさないように。

体のどこかを動かしては
懸命に眠気と闘いながら走った。


緑の看板だ!

ようやく見えた看板に
心の底からホッとしてPAに入る。

萩尾パーキングエリア

どのくらい進めたんだろう。

そんなことはどうでもいいか。

全身ずぶ濡れなのでトイレに直行する。

とにかく寝たい。

個室に入り、そのまま目をつぶった。


どのくらい経ったのだろうか。
目が覚めたので、本当に寝ていたらしい。

便座に座り、後ろの壁に頭をもたせかけて
本格的に…寝たようだ。

なぜ、トイレで寝ているのか?

本当は、椅子やソファで寝たい。
でも雨の日は、ロビーにはいられない。

バイクは雨ざらしになる。
全身ずぶ濡れだ。

室内を歩くと、雫がたれて濡れてしまう。

でも濡れたカッパを脱ぐのは
とても面倒なのだ。

靴カバーが濡れていて
そのままレインパンツを脱ぐことはできない。

脱がないとお尻が濡れているので
椅子には座れない。

苦肉の策が、レインパンツだけ膝まで下ろして
便座にはジーンズを履いたまま座る。

ヒーターでジーンズ越しでも暖かい。
今のトイレは綺麗で、匂いも気にならない。

奥の棚に濡れたヘルメット。
リュックとウエストポーチを壁にかける。

身軽になり、ホッとする。
さらに個室だ。

金沢からの帰りに学んだ
トイレの活用方法。

たくさんある個室のひとつを
少しだけ長く使ってもいいのでは?

いいよね。(ゆるしてください)

眠気の取れた頭で
次の休憩所をまたスマホで検索し始めた。


小一時間ほどいたらしい。

雨の降るそとへ出る。
寒くはない。

灰色の世界。
目が覚めたからか、少し明るく感じる。

グローブをはめる。
少し染みてきたくらいか。

いいグローブを
思い切って買っておいてよかった。

ガソリンを入れておこう。

100km増えた分を考えて
念のためにスタンドに寄る。

7.9Lで満タンに。
これで夜まで走れる。



もう一度走り出した。

景色の変わらない平坦な道は
長距離走を走る気持ちに近くなる。

黙々と走る。
多くは望まない。

走った分だけ前に進む。
そこに喜びも落胆もない。

周りに車が走っているのか
景色が移り変わっているのか
何も視界には入ってこない。

目の前に見える
白線で区切られた道の真ん中を
ただただ走る。

目指すは鳥栖ジャンクション。

地名がわからないから
どのくらい近づいたかもわからない。


アクセルを開け
風にあおられないように気をつけ
雨の中走っていたら見えてきた。

鳥栖の文字。

ようやくここまで来た。

ここから南に下る。

大分自動車道に別れを告げ
九州自動車道へ。

雨はひどくはならず止みもせず
熊本へと向かう。

首元、手首、足首は
しっかりと重ねてあるので
隙間から雨は入ってきていない。

鳥栖を過ぎたから休もう。

ようやくノルマを達成できたような
そんな安堵した気持ちを抱きながら
次の看板が見えるのを心待ちに走った。





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