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九州ツーリング その14


四国の宇和島にいる。
今日はいよいよ九州に渡る。


朝食のデザートのみかんが
とてつもなくジューシーで甘かった。

さすが、宇和島。

このあたりの人は当たり前のように
こんなに美味しいみかんを食べているのか。

急いでいたのに、一瞬ほっこりする。
一番、宇和島を感じた瞬間だった。


九州にはフェリーで渡る。
航路は2つあるらしい。

佐田岬の根元、八幡浜港から出る船と
佐田岬の先端、三崎港から出るフェリー。

19歳の時は先端から乗った。


佐田岬。

今回のツーリングで、一番走りたかった道。

佐田岬が走りたくて
今回も四国経由で九州に入ろうと決めた。

とても思い入れのある道。
あの景色をもう一度見たい。


雨はもつだろうか。


岬の根元からフェリーに乗った方が
早く出港でき、雨にも降られない。

でも、佐田岬を走りたい!

だから佐田岬を走り、先端から乗る。
この一択しか頭になかった。


朝食を食べている時
エネオスの看板が見えた。

ガソリンを入れなくちゃ。

少し先にスタンドがあるみたい。
昨晩閉まっていた所とはまた違う。


部屋に戻る途中
コインランドリーがあった。

明日で着る物が尽きる。

今日、洗っておけばよかったかな?
一瞬、後悔の念が湧いたが…

今は先を急いだ方がいい。

そう自分に言い聞かせ、通り過ぎた。


部屋に戻り、身支度をする。
慌てると忘れ物をしてしまう。

忘れないように気をつけて
荷物を詰めていく。

今日何を着るか悩む。

どこで雨が降ってくるんだろうか。

ここは四国。
なんだかんだ言っても
やっぱり暖かい。

着過ぎると汗をかくから…

そうは言っても
途中で雨が降ると厄介だから
上だけカッパを着ることにする。

下は防水の効いたウィンターパンツだから
少しの雨なら大丈夫なはずだ。

ツーリング前に散々悩んで買った
完全防水のウエストポーチが役に立つ日が来た。


今のバイクを買ってから
雨と仲良くなった。

思えば納車日、大雨の中
50kmも走って帰ってきたんだから
そういう運命なのかもしれない。

ウエストポーチは
一度見に行ったものの、大きさが気に入らず
買わずに帰ってきたもの。

ツーリング中、2週間もあれば
どう考えても雨に降られる日もあるだろう。

色々考えて
出かける前にもう一度お店に行った。


大きいものが欲しかったけど
結局、今より小さなポーチにした。

使ってみて
案外、この大きさが気に入っている。

底が浅いので中がよく見える。

小さいので入るものが限られて
目当てのものが見つかりやすい。

横に長いので地図も入る。

横のベルトを調節すると高さも稼げる。

干しいもだって入った。

今はとても気に入っている。
いい買い物ができた。


荷物を詰め終えた。

ジャケットも着てヘルメットも持ち
最後の点検をしていたら…

充電アダプターとコードが
コンセントに差したままだった!

ドキンと胸が鳴る。

一番忘れそうだと
気にしていたはずなのに。

ギリギリまで
スマホの充電をしていたから
スマホだけ取って
残りを忘れてしまったんだ。

もう一度、背負ったリュックを下ろす。
コード類をジップロックの中にしまう。

リュックは防水じゃないので
外側は濡れる覚悟。

中身を全て黒いゴミ袋に入れてみた。
幼馴染がくれた袋だ。

全て入って、上で片結びができるほど大きい。
またほどけるのでとても助かる。

伸縮性があり、かつ丈夫なそのゴミ袋は
この後の旅でもとても役に立った。


いよいよ出発。
バイクのところに行く。

先客がいた。
昨日隣に停めたカブの持ち主だ。

「おはようございます」
『おはようございます』

互いに挨拶をする。
年配のご夫婦だった。

女の人が隣だったので
荷物を積みながら、話しを聞く。

鹿児島からフェリーで来たこと
今日は近くをお参りしてから
雨が降る前にフェリーに乗って
帰ろうと思っていること


八幡浜から乗ると言う。
佐田岬の根元にある港だ。

また、そのルートが頭をよぎる。
その方が安全なことはわかっていた。

八幡浜から先端の三崎港までは40kmもある。

八幡浜から乗れば雨にも降られないし
早く乗船できるけど…


でも、いいんだ。

この40kmを走るために
すでに1,000km走ってきてるんだから。


雨の降り出しはお昼から。


この、スマホの情報を信じる。

女の人とお話ししながら、さらに決意を固めた。


「良い旅を」
『あなたもね』

女の人は右手を挙げて
大きく手を振ってくれた。

先に出るわたしも
大きく手を振って別れた。

笑顔の似合う素敵なご夫婦だった。

心がホッと温かくなった。


人との出会いは旅の醍醐味だ。
今、心が開いているのがわかる。

大人になって
だいぶ心を閉じて暮らしていたんだなぁ。

無邪気に旅先で
色んな人と言葉を交わし
楽しく過ごした日々を思い出す。

その旅の思い出が
今、わたしをここに連れてきている。


老後こうやって一緒に旅するのもいいな。

一瞬、夫とカブで旅する様子をイメージしたが
のんびり走るイメージが湧かず笑ってしまった。

いつもサーキットで競い合っていたからなぁ。

そんなことを思いながら、ホテルを後にした。


さて、ガソリンだ。

すぐ現実に戻り、ホテルの向きを確認する。

昨日来た道を直進して
二つ目の路地を左折すればスタンドがあるはず。

スタンドの開店時間は調べておいた。
今の時間はもうやっている。

何より看板が明るい。

看板は「開いている」って意味があるのか。

当たり前に見過ごしていたものを
改めて実感する。

明るく輝いているスタンドの看板が
こんなに有り難く嬉しいなんて。


ガソリンを入れる。
これで今日一日走れる。


目の前の高速を見上げた。

その先の空は、灰色の厚い雲に覆われていた。
雨はどこまでもつだろうか。





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