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九州ツーリング その12


四国の高知県と愛媛県の境
宿毛のファミマで空を見ていた。

3泊していた幼馴染の家を発ち
行きたかった四万十川に行ってきた。

足摺岬はあきらめ
気持ちのよい県道を楽しんだ。

今日一日を振り返りながら
体と頭を休める。

あとはホテルに向かうだけ。
この後は国道をなぞるだけだ。


海沿いがいいな。

そう思って四国の西の端を
北に上がる海沿いの道を選んだ。

気力も充分戻ってきた。

よし、行こう。

今日、最後の準備をする。

目の前を走る
R56の車の列に合流した。


宿毛からすぐ山の中に入り
半島の根っこを一つ越えた。

また海沿いに出る。

海沿いと言いながら
海を見下ろす感じ。

時々、遠くに海が見えたり
海が近いのに、全然見えなかったり。

しばらく走っていた。

遅い車に引っかかっては抜き
列の先頭に立つ。

ようやく車が減った。
走りやすい。ホッとする。

右カーブを大きく曲がる。
楽しい道だな。嬉しい。

カーブを過ぎると下り道になった。
急に、前が開ける。

目の前の景色に目を奪われた。
色づいた海と空が広がっている。


夕陽が見える!

心がとくんと音を立てた。

切れた雲の間から
お日さまが顔を出したんだ。

すぐに、路地脇の歩道に停めた。
抜いた車たちが横を通り過ぎていった。

夕陽を見る。

四国の海


しばらくじっと見つめる。

気づくと、眼下から
波の音が聞こえてきた。

浜辺があるのかな?

崖の上からのぞいてる感じ。

真下の浜なら
浜辺からも夕陽が見えるだろう。


水平線に、夕陽は落ちないだろうか。

そう気づくと、ハッとした。
慌ててバイクに戻った。

ヘルメットとグローブをつける。

停めていた歩道から
バイクを押してバックさせる。

なんとか曲がり角まで移動する。
左折をして路地を降りて行く。

急な下り坂だ。
道も細い。

こういう道は路面が悪いことが多い。

結局、路面の良さってのは
人通りの多さで決まる。

あまり車が通らない道は
砂も落ち葉も路面に乗ったままだから。

さて。どうかな。

案の定、落ち葉の中を走る。
わだちもないから、避けようがない。

濡れてないから滑らないか。

街灯はない。

帰り、暗い中
走ることになるかもしれない。

帰りにも通ることを想定して
路面をよく見ておいた。


くねくねとした
細かいつづら折れを走る。

一気に標高が下がっている。

人がいるようないないような
数軒の家を通り抜け
直線になった下り道を降りて行く。

右手に整備中の公園が見え
目の前は木々が並び、行き止まりになった。

右は、公衆トイレか倉庫のよう。
左は下って、民家の庭につながる。

停めるところがないので
突き当たりの木の脇につけて停めた。

ヘルメットを取り、左前方を見ると
林が終わって、浜辺に降りられそう。

ヘルメットを手に
急くように、浜辺に向かった。


目の前が開けた。
夕陽だ。間に合ったんだ。

広がる空と海


誰もいない。
この景色を独り占めしている。

こんな幸せってあるのかな。

水色から金色までのグラデーション。
陽の光に照らされて輝く雲。

橙色に燃える夕陽。

海に映り込む
金色にきらめくひと筋の道。


浜辺は砂浜ではなく石の浜。
波が引くと、コロコロコロと音を立てる。

可愛い音で和んでしまう。

浜辺の脇に
背の低い防波堤のようなところがあった。

きれいに整備されている

そこに腰かける。

コロコロコロという音と
目の前の景色に見とれていたら
ふと、みんなに伝えたくなった。

ここでもひとつまみ。
干しいもを食べる。

夕陽にピントが…笑

陽が落ちるまで
じっと夕陽を見つめる。

水平線に沿って雲があり
また雲に入っていく。


水平線に、直接落ちる夕陽を見たことがある。

夕陽が溶けるように
周りをにじませながら
海に消えていった。

あの時の感動は忘れられない。

また見たかったけど
今日はお預けのようだ。


夕陽が雲に入ると
座っていたコンクリから
よっこいしょと腰を上げた。

最後、男女がひと組
同じように見に来たから
ここは夕陽を見る
スポットなのかもしれない。

また来られるといいなと
スマホのマップをスクショした。

青丸にいて西を見ている

次に来た時には
この公園も完成してるだろう。

凝った造りで、水が流れていた


こんな四国の端っこに
また来るつもりでいることに
少し笑ってしまった。

毎日を積み重ねていくと
こうやってこんな遠くにも来られるんだ。

毎日、200kmずつ
休みの日も入れながら走り
ようやくここまで来たことを
改めて実感した。


民家の軒先を抜け
林の中のつづら折れに入る。

予想通り
陽の光が足りず、路面がよく見えない。

落ち葉は濡れてなかった。
目立ったマンホールもなかった。

道を横切る形で
側溝をおおう金属のふたもなかった。

1箇所、脇の木の根っこが盛り上がって
少し道にはみ出ていた気がする。

そこは離れて走る。

後はバイクをなるべく立てて
急なブレーキはせずに
ゆっくりアクセルを回せばいい。


無事に、元いた道に戻った。

この下にあんなにいい所があるなんて。

石ころの転がる音に気づいてよかった。

夕陽が雲に隠れてしまうまでの30分。
素晴らしい景色に心洗われた。


18時半。
ホテルまであと30分。

途中、バイパスがあるらしく
R56が2本に分かれる。

途中までバイパスで距離を稼いで
早くホテルに着きたい気持ちと
今日一日、高速にばかり乗って
移動が優先だったのが残念だった気持ちとから
色んなルートが頭に浮かぶ。

結局、急ぐ理由もないので
せっかくだから下道でずっと行くことにした。


R56を走る。

19の時に、四国の西の端を
うたた寝をしながら走ったことを思い出す。

室戸岬で声をかけたお兄ちゃんと
一緒に旅をすることになった。

お兄ちゃんが前を走る。
わたしは後ろからついて走っていた。

眠くて眠くて目を開けていられない。
前の車のブレーキランプが赤くつく。

その赤の強さにハッと目が覚める。
わたしもブレーキをかける。

その時の眠たさと
車のブレーキランプの赤を
鮮明に覚えている。

その時の遠くまで来た少しの心細さも。


2人で宇和島を目指して走っていた時
西の空には月が出ていた。

その月の明るさで
海にひと筋の銀色の光の道ができていた。

あまりの神々しさに
何かがあの道を通って
降りてくるのかなと思った。

今日はまだ夕闇におおわれてはいない。
あの時、よほど遅い時間だったんだ。


月も見えない。

夕方西の空に見える月は新月に近いから
光の道ができるほどの光量なら
夜もだいぶ経った半月くらいだったんだろう。

今日は何の月だったかなと思いながら走る。

あのブレーキランプが赤く灯った
海沿いの直線の下り坂は
最後まで、結局わからなかった。


街の中に入る。

暗くなってしまって
看板がよく見えない。

R56から川の手前で県道269へと右折。
すぐを左折。
橋を渡れば右手にホテルがある。

そう記憶して走っていたのに…
R56が何度も何度も曲がる。

看板通りに走ると
右、次は左、また右と何かを迂回している。

方角がわからなくなってしまった。

だんだん疲れてきてしまって
目の前の車にくっついて
同じように右に左に曲がって走った。

最後、仲良く走っていた車が
直進レーンに入り
わたしは看板通りに左折した時
とても不安を感じた。

これで合ってるの?

そう思いながら
いつか川が見えてくるはずだからと
そのまま、車とは分かれて走った。


灯りがだんだん少なくなってきた。
周りの賑わいも消えた。

直線が終わり
R56が大きく右へと折れた。

その先の雰囲気で

街を抜けてしまった。

そう直感した。

この先の暗さは
次の街へ向かう、つなぎの道だ。

そう思った時にローソンが見えた。

とにかく停まろう。

そう思い、駐車場に入った。

あまりにも疲れていて
ヘルメットを脱ぐ気がしない。

店から離れた歩道側に停めて
ヘルメット越しにスマホを見た。

マップで現在地を見る。

青色がわたし 藤色がホテル


やっぱり。
わたしは左下から走ってきた。

ホテルを過ぎてしまっている。
直感は当たっていたんだ。





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