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九州ツーリング その21 九州自動車道


九州の鳥栖は、分岐点のようだ。
東西南北どこへでも行ける。

今は南へ。
熊本に向かっている。


眠気はない。
休憩が功を奏したようだ。

あの時、寝ておいてよかった。

気分的にもスッキリしている。

雨は降っている。変わらず、風も。

ギアはいつもより低め。
バイクの排気音がうなる。

音に包み込まれているような
そんな気持ち。

ヘルメットのシールドにつく雨粒を
グローブでたまにぬぐいながら走った。


少し走った初めのサービスエリア。
広川SAに入った。

ようやくひと心地つく。
走り切れる目処が何となくついた気がする。

何か食べるか。

ホッとしたらお腹が空いたのか。
食欲が湧いてきた。

夕飯前だからか
施設の中はほとんど人がいなかった。

人がいないなら
フードコートで食べてみようかな。

今、16:40。
夕飯を兼ねて食べたい。

何にしようかな。

フードコートの看板見ていたら
『熊本お好み焼き』を見つけた。


熊本の名物料理がわからない。
こういう時に、自分の食への関心のなさを
実感する。

熊本ってお好み焼き、有名だっけ?

聞いたことがないので
まんまと騙されているのかも
と思いながら、頼んでみる。

いいんだ。美味しければ。なんでも。

手元のボタンで呼ばれて
お好み焼きを取りに行った。


広島風でもないよく見るお好み焼きは
熱々で美味しかった。

寒いほどの気温ではないと言っても
雨風にあたりながら走ると冷える。

温かい食事というだけで有り難かった。

マヨネーズは普段かけないのだが
要りますか?と聞かれなかったこともあり
そのままかけてもらっていた。

いつもなら半分くらいで飽きてくるのに
最後までペロリと平らげてしまった。

食べ終わってホッとひと息つく。

次のルートを検索し始めた。

いよいよ熊本か。

ホテルの位置から最寄りインターを探す。
いくつかルート案が出てくる。

雨の中、看板が見えにくいことを思い出す。

なるべく真っ直ぐ走りたい。

曲がり角を探すのが大変なのだ。
信号の上にある交差点名が読めない。

疲れてきているらしく
例によって道を覚えられない。

しばらく考えたが諦めて
降りる手前のパーキングで
もう一度停まることに決めた。


また走り出す。

お腹も膨れたので元気回復。
九州自動車道を南下する。

雨は変わらず降っている。
風は少しおさまってきたか。

車体がふらつかないのは助かる。

カッパは染みてこない。
ありがたい。

濡れて走る大変さは
身に沁みてわかっている。

今日、問題なく走れているのは
装具のおかげだ。

金沢ツーリングの後
グローブを新調した。

その後、カッパの上下
今回はウエストポーチも買った。

あとは今、背中でずぶ濡れになっている
リュックくらいなものだ。

だんだんツアラーになってきたな。

ツアラーとは
ツーリングをする人。

バイクで旅をする人のこと。

究極はテントを積んで走る。
その日暮らしだ。

その身軽さと言ったら
どのくらいなんだろうか。


緑の看板が近づいてくると
一瞬身構えて、文字を読む。

まだだ。違う。

読み終わるたびに
少し高揚したような気持ちになる。

知らない地名。
どこを走っているかわからないけど
着実に距離を刻んでいるという実感。

近づいているという期待。

手を痛めないように
手首をあまりひねらないように気をつける。

加減速が乱暴にならないように
丁寧にアクセルをコントロールする。

ブレーキはじんわりと。
左側の道をスピードを上げずに走る。

ちょうど良いスピードの車がいたら
ペースカーにして後ろについて走る。

走る辛さはなく、坦々と走ることだけ
無心にただ走っていた。


さっきの様子から
ホテルを探すのに、また苦労しそうだ。

宇和島で迷った時を思い出す。
あの時は行き過ぎてしまった。

雨じゃなかったのに。

今日は雨まで降っている。
迷わずに行ける気がしない。

悩んだところで仕方ないから。

考えるのはやめて、走ることに集中する。

車が少し増えてきた。
誰かと走っている楽しさで、心が軽い。

見えないなぁ。

大分自動車道を走っている時
左側、阿蘇の方を何度も見たが
真っ白で何も見えなかった。

今は九州自動車道を南下しているから
さっきより近づいていると思うのに
阿蘇は見えない。真っ白だ。

ここからは見えないのかなぁ。

阿蘇山も富士山みたいに
遠くからでも見えるんじゃないのかな。

先に進みながら
ちょこちょこと左を見る。

九州の地図を頭に思い浮かべる。
阿蘇山を迂回して、今走っている。

見えないはずはないのに。

ここまで姿なく見えないなら
やはり通らなくて正解だったんだろう。

富士山で真っ白な雲の中を
走ったことを思い出す。

何度も走った道だから
目の前のカーブが見えないほど濃い霧でも
なんとか走ろうと思えた。

知らない道で先が見えなかったら…

考えてもゾッとする。

よかったんだ。これで。
阿蘇にまた来てねってことなんだ。

また来ようかな。

新しい夢がふと湧いた。


北熊本サービスエリアに入る。
最後の休憩だ。

熊本の文字に感動する。
朝は大分にいた。

ここまで走ってきたんだ。

ここでは、道順を確かめるだけ。
さっき食べたからお腹も空いていない。

改めて、スマホでルート検索してみる。

真っ直ぐでは行けない。
必ず曲がらなければならない。

それなら、どこで曲がるか。

できるだけ、曲がる回数を減らしたい。

じっと見ても、頭に入らない。
この時間はそう。仕方ない。

今回こういうこともあろうかと
スマホの防水ケースを買っておいた。

それが今、役に立つ。

道に迷った時、路上でスマホを見る。
(もちろん路肩に避けて)

その時、雨が降っていたら
濡れてスマホがダメになる。

このシチュエーションを想定して
ケースを買っておいたのだ。

これほど有り難いものはないかもしれない。

えらいぞ!わたし。

と言っても、なるべく迷いたくないので
動かない脳みそに情報を叩き込んだ。


北熊本SAを出発する。
いよいよ高速を降りる。

ここで、降り損なったら大変だから…

看板を見つけた!
気をつけて側道に入る。

分岐で間違えずに
熊本市内へ行く方を選ぶ。

上手くいったみたい。

R57に入った。
久しぶりの下道だ。

あと20分ほどで着くはず。予定では。

周りの景色は見えていない。

見ているのは、周りの車の挙動。
先の信号の色。青い看板。

見落とさないよう、必死だ。

R57はそのうち右から来たR57と
合流するらしい。

その先、産業道路へ右折したい。
数字じゃない道路は厄介だ。

看板にちゃんと産業道路と書いてあるのか。

スマホは手前で斜め右に入って
ショートカットしろと言ってたけど…


無我夢中とはこのことなのか。

気づいたら、ホテル前にいた。

さっき、目の前を通り過ぎていたみたい。
途中の道は覚えていない。笑

驚いたことにホテルの前に敷地がない。
歩道から直接ホテルの壁になる。

街中のホテルはこうなんだ。

バイクは近隣の駐輪場に停めてくださいと
電話では言っていたけれど…

駐輪場の場所を聞きに行くのに
バイクをどこかに置かなければ…

思い切って歩道に乗り上げた。

エンジンを切る。
疲れ切った体でバイクを動かす。

ホテルの壁ギリギリに寄せて
バイクを停めた。

入り口からホテルをのぞく。

煌びやかなライトが別世界のよう。
床がフローリングじゃない!!

暗く雨の降るこちらの世界にいる
自分を見つめる。

ずぶ濡れであのロビーまで行けるの?

カッパは脱げない。
またバイクに乗って駐輪場まで走るんだ。

人の世界に入っていくことにためらいがある。
わたしは野生動物なのか。

心地よくロビーで過ごしている人の中
強盗犯のような格好で入っていけるのか。

ヘルメットを取ろう。
髪の毛を整えよう。

ホテルの小さなひさしの下で
ヘルメットを取り、雫がこぼれないように
タオルで拭いて、髪の毛を整えた。

ホテルの入り口でブーツの汚れを落とす。
意を決して、ホテル内に入っていった。





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