国道沿い #パルプアドベントカレンダー2022


https://note.com/mh_fk/n/n3cfb5074ca60

この作品は、「パルプアドベントカレンダー2022」参加作品です。

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 よくありがちな、田舎の国道沿いにポツンと佇むコンビニ。だだっ広い駐車場の端の方に車を止めて、厄介者の登場を待つ。
「よっ」
「……『よっ』じゃねえよお前」
「ははっ、悪い悪い……タツキなら来てくれるかなって思ってさ」
「お前さぁ……」
 不定期開催、チグサの無茶振り祭。たぶん2ヵ月ぶり23回目くらい。真面目に数えたことはない、数えても無駄にしかならないから。
 昨夜突然送られてきたメッセージの中身は、一緒に何処かへ出掛けにいこうというもの。『何処かってどこだよ』と訊いてみたものの、なんだかんだと流されて有耶無耶になってしまった。なんとかして出発前までには把握しておきたい。
 行先を吐かせるついでに何か奢ってもらわないと釣り合わない。買ってもらうなら、いつものコーヒーと適当なパンを1つか。朝飯の代わりにはなるだろう。
「いやー、毎度悪いな」
 自覚があるならどうにかしてくれ馬鹿野郎。
「……対価は?」
「あー……コーヒーとか」
「……青いのと、チョコクロワッサン」
 チグサは120円程度で許されると思っていたらしい。
「だいたい300円か……」
「缶コーヒーなだけありがたいと思え、50円安いぞ」
 ブツブツと何か言いながらコンビニの中へと消えていった。こちらからすると、300円で許していることに感謝してほしいものだ。
 店内にいるチグサからメッセージが入る。
「チョコねえわ」
「じゃあクリームパン、5個入ってるやつ」
「うい」
 こればかりは仕方ないか。ちょっとした不運だったが、別に気にするほどではない。このままチグサを待とう。

 ガサガサと袋を揺らす音が聞こえた。ようやく本題を切り出せそうか。
「ほーい、買ってきたぞ」
 中身を確認する。青色のお山の缶コーヒーと、5個入りの小さいクリームパン。注文通りの中身で一安心した。
「ん、さんきゅ」
「へいへい」
「早くドア閉めてくれ、寒い」
「ういうい」
 バタンと音はしたものの、警告灯はついたまま。
「半ドアだぞ、ちゃんと閉めろ」
「あっ、すまん」
 先程より大きな音をたててドアが閉まる。
「じゃあここ出たら、しばらく真っ直ぐで頼むわ」
 出発すらしていないのに、勝手に始まる道案内。行先を吐かせるには今がチャンスか。
「あー……真っ直ぐ行くのはいいけど、どこまで行くつもりなんだ?」
 知らされてすらいなかった目的地を尋ねてみる。クリスマスチキンの予約販売の旗が風で揺らめいている。
 数秒後、腑抜けた顔をしていたチグサの口が開いた。
「いや、なんとなくずっと真っ直ぐって言っただけ」
「は?」
 元から行先なんてものは無かったということか……呆れた。
「お前なぁ……」
 俺はもう知らない。アイツがなんと言おうと、もう真っ直ぐ家に帰るだけだ。

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