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かけがえのない日々について

ハリネズミをお迎えしたのは二度目である。
一度目は勝手も分からず飼育本を片手に右往左往し、結局寿命よりもずいぶんと短い生しか与えられず、あまりの不甲斐なさに泣いても泣いても足りずにいて後悔ばかりが胸を覆う日々であったけれども、その悲しみよりをもっと上回ったのは新しい子はもっと大切にしたいということで一代目を失なってから三ヶ月後には新しい子をお迎えした。
それがこのタイトル画面にいる子である。
名をバッシュと名付けた。

ハリネズミをお迎えする時に名前を付ける時に一つのルールを設けていた。
それはどこかの国のスタンダード名にすること。
そしてアルファベット順につけていくってこと。
だから一代目はAから始まる名前ということで、アルベルトと名付けていた。
二代目はBから始まる名前にすると決めていたのでバッシュ。
バッシュは私が大好きなコミックスの主人公の名前でもあるけれど、チーズフォンデュが美味しいスイスのスタンダード名でもあり(あとで気づいたのは、バッシュではなく、ヴァッシュだろうからVの音だったかもってこと)スイスは私が個人的に大好きなロードレースの選手もいる国なので、なんとなく思い入れのある名前でもあった。

そんなわけで特別に思い入れのあるハリネズミをお迎えしたものの、当たり前のことながら簡単な日々ではなかった。

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ともかくバッシュは小さかった。
そのうえ餌を食べることが少なかった。
写真は食べてくれることが嬉しくってつい撮ったものである。
ハリネズミはまだまだ未知なところも多く、偏食がひどかったりするので飼い主が頭を悩ませる一つの原因だったりするけれど、バッシュの偏食は本当にヒドかった。
アルベルトの時はふやかさないと食べられないってことに気づくのに二日かかってしまい、食べない……って悩んだのは束の間で、基本的には機嫌が悪い時以外は比較的食べてくれた子だったが、バッシュはとにかくベースとして食が細いってことがあった。
ハリネズミに合う食事をみつけるのは自転車乗りにとってのサドル探しに似ていて、バチッとくることが少ない。
とはいえアルベルトを飼っていた時よりは飼育本やネットの情報は格段に上がっており、色々と試すことはできた。
卵の白身だけ、水分の多いフルーツ、鶏肉を湯通ししたもの、かぼちゃなどの甘い野菜。
晩年はハリネズミフードの種類が多いことに気づいて、とにかく食べなかったら新しいフードを買い足すって感じでメインフードを五種類、サポートフード(ゼリーなど)を三種類、サプリ系のフードを二〜三種類、これらを混ぜ合わせてやり過ごしていた。

トイレトレーニングはとくにしたわけじゃないけれど、ハリネズミは回し車を回している時にすることが多く、回し車を洗うのが時々面倒なぐらいでバッシュもそれと変わりがなかった。比較的お腹が弱いのかよく下痢をしたけれど、それでも元気に回し車を回しているのは音でわかった。
音でわかったというのは、アルベルトの時と違って回し車を回している姿を見せてくれなかったからだ。

お迎えする理由にしたのは、アルベルトが病気で急逝してしまうような弱い子だったから元気な子がいいってことで、持とうとするとすぐに逃げる、走り回っていて人間にあまり姿を見せないってことを良しとしたのだけど、お迎えしてから気づいたのは元気というのとは違い、バッシュはとにかく臆病な個体だったということだ。

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目が飛び出すように大きく、常に少し白目が出ちゃうギョロ目だったけれど、ハリネズミはモグラの仲間なので目があまり良くない。
目が悪いぶん耳と鼻が利くはずなのだが、バッシュは耳は良かったのかもしれないけれど鼻はあまり良くないようだった。
好物が置かれていても気づかないし、主人の匂いが違うと混乱するというものもほとんどなかった。
そして一番変わっていると感じたことが、人の手から逃れたがるわりには観念したかのようにシュンとすることが早いことだった。諦めが良すぎるというより、なにか悟っているかのような子だった。

また、ハリネズミは昆虫を主食とするため生き餌としてミミズのようなミールワームを好むものだったけれど、バッシュはミールワームにはあまり関心がなかった。健康に育って欲しいこともあって、おやつとして与えていた時期もあったが、一年程度で食べるのをやめてしまったのでそれ以降あげなかった。大きさも関係なかった。
アルベルトが病気で食べられなくなってもミールワームには関心を寄せていたことから考えても、こんなに個体差があるなんて信じられないぐらいだった。

お風呂もとにかく嫌いだった。
ちまたではハリネズミをお湯に浮かべて可愛がっている動画なども上がっているけれど、基本的に彼らはお湯は好きじゃないそうで、泳いでいる姿が可愛くてもそれは溺れているそうなので、よっぽどの個体でない限りお風呂は避けた方が良いんじゃないかと思う。
アルベルトもお風呂は好きじゃなかったけれど、部屋の隅にある本棚の裏まで遊びに行ってしまって埃だらけになってしまったり、フンや餌などで汚れてしまった時は足が浸かる程度におけにお湯を張って洗ったりしたものだけど暴れるってほどではなかった。
バッシュは本当に嫌だったらしく最終的に弱い顎を使った反撃として噛んできたこともあった。でも噛んだのは一度ぐらいで、常に逃げようとする時に止まらないフンをされるぐらいだったけれど。(それだけ怯えているってことがわかっていたので、最低限でしかお湯につけなかったし、洗い終わったらすぐにタオルにくるんであげていた)

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そして、とにかく潜ることが好きというよりは、潜っていないと安心できないのか、餌をあげてもすぐに自分のテリトリーとなっているお布団の下に潜り込んでしまっていた。
ハリネズミ用のお布団(寝袋)を置いていたのだが、バッシュはその下に潜り込むことの方が良かったらしい。
お迎えする時に作っていた寝袋も気に食わなかったようでフンやおしっこで汚されてしまったので捨ててしまった。そのあと市販のお布団を買ってきたものの、こちらも想定していた使い方はしてくれなかった。とはいえ気に入ってくれたようなのでそれはそれで良かった。

体重は書いてきたとおり食が細い子だったということもあり、いっこうに大きくならず、一時290g台に乗ることはあってもすぐに落ち着いてしまって250gを前後することが多かった。
あとで聞いた話ではオスのハリネズミはあまり大きくならないそうで、動く方が好きだからか250g〜300gにいけば良い方だったらしい。メスは動かない分なのか、かなり大きくなって400g〜600gにもなるそうなのでずいぶんと差があるものらしい。

とにかく怖かったのはアルベルトと同じように真菌などで皮膚の病気になりはしないか?ってことと、腫瘍ができやしないかってことだった。

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毎日毎日嫌がられても口周りや、お腹など触って変わったところはないかと観察し続けた。
そのおかげで耳がギザギザになりかけた時には皮膚病の予兆としてすぐに対応できた。
推奨されることではなかったのだろうけれど、ワセリンで保湿して、針の部分もアロエ入りのノンアルコール化粧水で保湿した。今はハリネズミ用の保湿スプレーもあるので、そういったもので管理してあげた方が良いとも思う。

おかげでバッシュが生を終えた四年と半年の間には皮膚病と腫瘍とは無縁の生活となった。とはいえ、皮膚病は予防できても腫瘍ができなかったのは単に運が良かっただけだとも思う。それぐらい腫瘍ができるのは彼らにとって当たり前のことだからだ。

腫瘍ができてしまう原因はわからないけれど、予防するためにはストレスをあまり与えないってぐらいしか思いつかない。
そのためにも健康管理は必須だと思う。体重減少や、食欲不振、いつもと違った行動(寝ている時間が多いとか、呼吸が苦しそうであるとか)など、とにかく毎日呆れるほどよく見てあげることだ。

そうそう、アレルギーも起こしやすい生体なので床材選びが大事で、私の家ではパルプ製のチップを選んで使っていた。アルベルトの時に口に入っても安全ということでコーンサンドを使っていたけれど、穀物類でアレルギーが出ることもあると聞いてしまったのでバッシュの時は避けることにした。この辺は個体差もあるし、何が正しいのか使ってみて判断してみるのも良いと思う。

また歯周病も気をつけなくてはならない……とはいえ、バッシュは四歳を超えた時に下顎の歯が二本抜けてしまった。
日頃からドライフードや昆虫などの繊維質の多い食事や顎を鍛えられるものを与えていると違ったみたいだけど、来た時から致命的に顎が弱かったのでどうしてあげたら良かったのかわからないままである。
動物病院でもなにも言われなかったので年だから抜けてしまったと思っていたけれど、そうでなかったのなら申し訳なかったと思う。

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三歳を過ぎた頃からかかりやすくなると聞いていたプルプル症候群(ふらつき症候群)について。後ろ足の震えから始まり、徐々に四肢が動かなくなる神経系の病気にも注意が必要ということだったけれど、幸いバッシュはそれも発症することがなかった。

命を終えるその日の一週間前にはふらふらするようになり、最後の一日は這うように移動をしていたけれど、それでも動くことをやめるような子ではなかった。

とにかく個体として色々と弱いところがあったけれど、お部屋に放てば動くのが大好きで部屋の隅からすみ、なんだったら最後の一週間は部屋を大幅に解放したこともあり、三つの部屋を行き来するやんちゃな子であったことは確かで、私はこの子が動き回ることが好きでたまらなかった。

もうその日々は帰ってこないけれど、本当に幸せな日々だったと思う。
病気かも?って心配になって自転車で動物病院に駆けつけた日も、餌を食べてくれないって餌の種類をいっきに増やして一月で一万近く溶けたことも、強制給餌をする時に同じ目線になるように身をかがめすぎて首が痛くなったことも、最期の時はいっぱいの花で送り出してあげたいとバカみたいに花を買ったことも、送り出す箱の形をバスの形にしたことも、全部全部足りてないように感じて思い出せばまだ辛いこともあるけれど、それでもこの子と過ごした日々のささやかな希望と癒しの日々はずっと忘れないでいると思う。

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そういえばいっぱい鼻梁のあたりを撫ですぎてちょっとはげてしまったのも愛おしかった。

四年と六ヶ月のうち、私の元で暮らしてくれたのはお迎えしてからの四年と三ヶ月だけど、いっぱいの時間をありがとう。

最愛のハリネズミ、バッシュへ。

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