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1月の振り返りと読んだ本(鬱っぽいものおおめ)

今月はいい本にたくさん出会ったのでレビューから。なぜか鬱っぽい本が多かったです!


今月読んだ本

『壁の男』貫井徳郎

ある地方の民家の壁に謎の絵を描き続ける伊刈(いかり)というひとの人物像が少しずつめくられていく一冊。読んでいて楽しくはなく、貫井さんらしい不穏さが漂っているけど、ミステリではないヒューマンドラマなのがおもしろい。

後半の嫉妬心の話がすごくよかった。伊刈は「母に対して嫉妬しアル中になる父」を見て嫌悪していたけど、「クラスメイトに対して嫉妬し嫌な態度をとる自分」が父と変わらないことに気づき苦悩する場面がすごくつらい。(むしろよく気付いたなという感じだけど、気付いたらそれはそれでつらかろうな…!)それを見て、鏡のように思えるかどうか。読み手も問われるようだ。

『愚行録』貫井徳郎

(虐待シーンがあるので読む方は注意です!)こちらは貫井さんらしいミステリ。『壁の男』の構成や視点は、こちらの『愚行録』で使った構成を応用したんだろうなあと思う。全体をとおして複数のひとの独白で進んでいく。インタビューの文字起こしを読んでいるよう。

そのひとの見ている景色で、そのひとの文脈で受け取ると、そのまま納得して読み進んでしまうけど、あとになってその人の言葉のなかにそのひとのコンプレックス、嫌悪感、憤り、優越感が混じっているのがわかって「うへえ…」となる。この物語に徹底的に悪い人は出てこない。ただなんとなくみんな嫌な感じであり、わたし自身もまた、そういう人のひとりなんだろうなと思う。

『愛と呪い』ふみふみこ

(性虐待のあるシーンがあるので読む方は注意です!)
半自伝というから頭を抱えてしまう。
物心ついたときには当たり前のようにあった父からの性虐待、宗教に入り込む家族のなかで暮らした愛子の話。特に類似経験がある方は読む際には気をつけてほしいものの、Amazonのレビューを見たら「自分と同じ気持ちの人がいるんだと思ったらだいぶ楽になりました」というコメントも見かけた。ほんとに語られる場がないし、独りだとしか思えないよなあとつくづく思う。

もちろん類似経験がなくても(ないからこそ)、このどうしようもない・逃げ切れない感じを知ることの意味をすごく感じてるので、もしできればD×Pに寄付している方には読んでほしいな…と個人的に思ってしまった。

『ハンチバック』市川沙央

文章からエネルギーと怒りを感じ、これを涼やかに読んでいるわたしの持つ特権性に対して銃口を突きつけられているような本だった。自分が知らずに踏みつけてきたものの存在を感じてしまった。
仕事をしていてなにかを企画運営したり情報を公開したりするとき、なんらかのハードルがあるひとがいることを十分に想定出来ていない自分の姿を感じてしまった。読み終わったあと、芥川賞を受賞した作品とわかり、せめてこの作品が芥川賞を取る時代でよかった…と思ってしまった(せめて)

『母という呪縛 娘という牢獄』 齋藤彩

元日に読む本じゃないよ!
でも読んでしまった!
滋賀県守山市で実際に起きた事件。教育虐待を受け医学部九浪のち母を殺した娘のルポルタージュ。娘さんの年齢はわたしとさほど変わらず、同時代にこんな生活をしていたひとが、電車で2時間くらいの距離にいたのかと思うととても苦しくなる。

当然ながら母の側が亡くなってしまっているので、どうしようもない話だけれど、母からの視点も見てみたいと思ってしまった。この本の母は、思い込みと劣等感と征服欲で破裂しそうな人物で、だけど周囲からはそれを悟らせない。たしかに「モンスター」に見える。表現はよろしくないがあえて言葉を借りると「モンスターを倒した」のだな、娘さんにとっては本当にその方法しかなかったんだなと妙に納得してしまって、それがより悲しい。家庭の課題は介入がほんとうに難しい。当人たちも「自分」と「他者」の境界線が曖昧になっている部分があって、介入が受け入れがたい面もある。でも、一歩、あともう一歩、踏み込めたら。


『舟を編む』三浦しをん

立て続けに鬱っぽい本読んだので、気楽な本を手にとる。辞書をつくる人の話。ハンチバックを読んだあとだったので、簡単に男女くっつけちゃう軽薄さや紙のめくりにこだわるシーンについ引っかかってしまったけど、言葉選びにかける想いがとてもよく、やっぱりいいなあと思う。

「右」を説明するとき、わたしが子どもの時の辞書には「多くの人が箸を持つほう」や「心臓があるほう」をさしていて、どちらもなんとなくしっくりこなかったが、今は「アナログ時計を見た時、1〜5の側」「北を見たとき東にあたる側」という表現になる。とてもフラットだ。これなら左利きで心臓が左側寄りにあるひとだって、受け止められる。


1月の振り返り

突然見知らぬ市外局番から電話がかかってきたので何事かと思ったら、七尾市の警察の方からだった。

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