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ろまんチック❤ヒコーキラプソディー①


第1話《デートは那覇タッチ》

「ねぇ、今日は那覇空港の外に出てみない?海でも見に行こうよ。」

サクラは一応ダメ元で聞いてみる。

「うーん、、でも、羽田に戻る便まで1時間しかないからムリかなぁ」

31歳の私は婚活中。今日はマッチングアプリで知り合った日丸(ヒマル)さんとの3回目のデートなのだ。
38歳のベンチャー企業の経営者で年収2000万と聞いたときは、(玉の輿かも!)と有頂天になり友人たちに自慢しまくっていた。

そんな日丸さんから「ちょっと、沖縄まで行きませんか?」と1回目のデートのお誘いがあったときは心底嬉しかった。
「ちょっと沖縄!」
なんてかっこいいんだろう!

だけど1回目も2回目も、那覇空港から外に出ることはなかった。

とても仕事が忙しい日丸さんは、泊まりがけの旅どころか日帰りでも難しいのかもしれない。
さすが社長さんだ。そんな忙しい人に1日でも時間を取ってもらえるだけで感謝すべきなのだ。と思っていた、、、、

3回目となる那覇デートまでは。

朝6:30に羽田空港で待ち合わせだったから、もしかしたら今日こそは、沖縄の万座ビーチとかまでドライブするのかもと期待したけど、それは叶えられそうになかった。

しかも彼の趣味は旅行で、毎週のように沖縄に行っていると言っていて、リゾートマンション持ち?か、スキューバダイビング好きなのか?と期待していたが、そうではないらしい。

毎週のように東京から沖縄に飛行機で飛んでいるくせに、

「那覇空港から出ないのだから!」

日丸さんの趣味は「旅行」ではなかった。

宇宙航空の搭乗ポイントを規定ポイント以上貯めて、最上級のステータス
(ダイヤモンドメンバー)の座を毎年獲得するのが生きがいなのだそうだ。

羽田空港の出発ターミナル階に専用の入口があるのはご存知だろうか?
白とブルーのさわやかなカウンターが並ぶ一角にシックなゴールドとブラックの入口のそれは今まで目にはしていたけど、日丸さんと会うまで入ったことは1度も無かった。

日丸さんとのデートの待ち合わせは、いつも、その入口の前を指定された。

「沖縄までの航空券は僕が用意するからね。」
と言われていたけど、どうやら飛行機に乗ると貯まるマイルを専用のコインに換えるらしく実質お金はかからないらしい。
ダイヤモンドメンバー専用のレーンに案内され、保安検査を並ばずに通過すると、そのまま宇宙航空のラウンジに入ることができた。

日丸さんは、

「この人、同行者ね。」
とラウンジカウンターのスタッフに告げるとおもむろに、黒いカードをピッとスキャンさせた。

「日丸様、いつもありがとうございます。」
とうやうやしくお辞儀され、うれしそうだ。

「何でも飲んだり、食べたりして」と日丸さんは、まるで自分のお店のように
「お酒飲む?朝からビールというのもなんだから、スクリュードライバーでも作ってこようか?」と、
いそいそとお酒やソフトドリンクが並んでるテーブルに行き、慣れた手つきで、冷蔵ケースに入っているオレンジジュースを取り出した。

そして、なぜかおにぎりと、お味噌汁、パンを
柿の種のような小袋3つといっしょにテーブルに並べはじめた。

「好きなだけどうぞ」とニコニコしながらすすめるのだけど、うーん、おにぎりとスクリュードライバーね。と内心その組み合わせに気乗りはしなかった。

日丸さんは、トマトジュースをビールで割ったらしいものをゴクゴク飲み、おにぎりをまたたくまに平らげていた。
ブラッディマリーっぽいそれと鮭のおにぎりを頬張っている日丸さんを見ていたら、遠足に来ているような気分になった。

「国際線に乗れば、もっといろいろとご馳走することが出来るんだけどね。カレーなんか最高だよ。」
と、言ってたけど
出来るなら他のフレンチレストランなんかでご馳走して欲しいな?まっ、言えないけど。

「あ、今日ね。那覇に3回、往復するからね。帰りは遅くなってもいい?」

「えっ!3回ですか?」

「最後の搭乗はプレミアムクラスにしたから、快適だよ。」


いえ、そういう問題ではなくて、
羽田→那覇→羽田→那覇→羽田→那覇→羽田!!?
って、なにそれ?
頭の中がパニックになる。最初会ったとき、
「私も飛行機大好きなんです。いつも窓際に座って富士山の写真撮るのがとても楽しみなんです。」と言ったのがまずかったのだろうか?

「ちゃんと富士山が見える窓際の席指定しておいたよ。」
いやいや、そういう問題じゃなくて、

それって、デートなんですか??心の中でモヤモヤするが、口に出しては言えない。

「今日は1日、サクラちゃんとヒコーキに乗れて那覇タッチ3回も出来るなんてしあわせだなぁ。」

私はフツーのデートしたいんですけど。

映画みたり、オシャレなディナーしたり、そんなデートは日丸さんは全く興味なさそうだった。

サクラは友人たちに沖縄に旅行するんだと言いふらしていたので、せめて
「空港内のレストランで、沖縄料理を食べたいな」と言ってみたのだが、

「スイートラウンジには沖縄ジューシーの焼おにぎりがあるよ。それに泡盛やオリオンビールも飲み放題だし。」

また、、、おにぎりか。

ヒコーキ内では、日丸さんはパソコンを広げ、メールチェックをしているようだったので、話しかけられない。少し退屈にしていると、日丸さんが、
「ちょっと、この子に甘いものでも持ってきてくれる?」とCAさんに声をかけた。

「かしこまりました。」
とCAさんが持ってきてくれたのは、透明なプチ袋にたくさん詰められた黒飴のキャンディだった。


うれしいけど、うれしくないような。


羽田から那覇の1往復あたりまでは、まだ我慢できた。
2往復過ぎたあたりで、まったく日丸さんが話をしなくなり、搭乗したとたんに眠りはじめた。
こんなことなら、自腹でいいから、沖縄の海を1人で見に行った方が楽しかったかもしれない。いや、私だったら沖縄は2泊はしたい!

ぐったりしながら、3往復目の那覇行きに乗っていたらCAさんがやってきて
「日丸様、当機の到着が遅れていまして、折り返し羽田行きのご搭乗時間まで、時間があまりありませんのでお急ぎいただくことになると思います。」
申し訳なさそうにCAさんが頭を下げ、那覇に降り立ったとたん、(日丸様)と案内板をもったスタッフが待ち構えていた。
そこからは、お急ぎください!と走る走る。

搭乗ゲートまでものすごい勢いで向かうことになった。
デートだから、私はパンプスを履いていたのに!。

全速力で搭乗し座席に座り、CAさんの「ドアクローズ」のアナウンスがあったその時、沖縄土産をなに一つ買ってないことに気づいた。

「サクラちゃん、帰りはプレミアムクラスだから、何でも飲み物注文していいからね。」
という日丸さんの顔は走りすぎて汗だくで、玉の輿かもと思った、この「恋人」らしき人が「変人」という漢字に変換された瞬間だった。


※ この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。     

※『ダイヤモンドメンバー』
航空会社の最高ステータスを取得するにはざっとですが、普通運賃で、[伊丹]ー[羽田]  約104回の搭乗が必要となります。ステータスは1年期限でリセットされます。

※『空港ラウンジ』
ダイヤモンドメンバーが入室出来るラウンジは、飲み物だけではなく、特製パンや特製おにぎり、味噌汁などのサービスも提供されています。国内の空港の全てにあるわけではありません。

※『那覇タッチ』
沖縄に行って、すぐに帰ってくるだけ、航空会社のステイタスを取るためのポイントを効率良く貯めることが出来る国内線唯一の戦略でもあります。ちなみに国際線ではシンガポールタッチというのもありです。

※『プレミアムクラス』
普通運賃に追加料金を払って乗る前方の席で座席もゆったりとしており、食事やお酒などの飲み物も提供されます。

※『黒いカード』
最もグレードの高いクレジットカード。カードごとにサービス内容は異なりますが、基本サービスとしてボーナスマイルの付与、国内空港ラウンジの利用、プライオリティ・パス、コンシェルジュサービスが提供されています。


             ②Fに乗る人につづく。

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