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【小説】コピーキャット

彼女は今日もいた。

通勤電車で見かけたことが最初だった。

自分に似てる。

姿形じゃない、雰囲気が自分に似ていた。

学生なのか、ワンピース、ジャケット、

足には低いローファーを履いて、

ボーイッシュな短髪。

リュックを前にして抱きかかえるようにしている。

自分は遠くからチラチラ眺めながら、

痴漢や変態に間違われないよう、

なるべく離れることにしていた。

自己愛が強いわけではない自分にとって

普通の行為だった。

彼女の方は、何時も数人の友達と、

話しながら乗ってくる。

微笑ましい光景が繰り広げられる時間があった。

いつのころだろう。

ぱったり、友達が乗って来なくなった。

喧嘩でもしたのかな?

喧嘩もするよね。

うんうん、そう思いながら何時もの

チラ見を続けていた。

『あっ、彼女も見てる。」

自分が見られているのに気付いた。

慌てて目をそらす。

じっと、見つめてくる。

でも、何も悪いことはしてないから、

心の中で唱えながら、目が合わないように

駅を離れた。

次の日。

あれ?

眼鏡なんかしてんだ。

自分の眼鏡に似てんな。

今迄、コンタクトレンズだったのかな?

次に気付いたのは

靴だった。

自分のやつ、一緒の物だ。

それからは、

シャツ。

時計。

スーツ。

『おいおい、男になるつもりか?』

それは気味が悪い位、自分の持っている物に似ている。

いつの間にか、彼女は男になって入った。

というか、自分になっていった。

出来れば会いたくない。

そんな気持ちを知ってか、知らずか、毎日のように、

こちらを見つめてくる。

そんなに好かれてるのかな?

そんな自惚れは吹き飛ばすように

睨み付ける。

それが、一番正しい表現だ。

ある日、突然、

近づいてきて、去り際に

「お前は、俺だ。」

ハッキリと言った。

自分の声だった。

「わっ。」目が覚めた。

全部夢だったんだ。

嫌な夢だったな。

そう思いながら、

朝の身支度をする。

ワンピース、ジャケットを着て、

自慢の短髪を整える。

お出かけには、何時もの低いローファー。

『行ってきます。』





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