【小説】音

ピアノが聞こえてきた。

リストの愛の夢だ。

誰が弾いているのか?

私の夢だった音。

長続きしなかったピアノ。

それでも、弾いてみたかった。

フジコヘミングの様な音を奏でさせてあげる。

そう言われたら、その時なら悪魔と契約してでも、

飛びついただろう。

好きな人に捧げる音。

自分の音が届けば、言葉で伝えない事が、

解ってもらえただろう。

『好きです。』なんて簡単な言葉だろう。

なんて、難しい言葉だろう。

学生時代、私は女子を好きになった。

同性を好きになると、

彼女から好きな男の事を聞かされる。

とんでもない苦痛。

「あんた、由美子の事好きでしょ。」

「何で・・・・・。」

「何時も見てるじゃん。」

どう切り抜けよう、

言葉を失った私に、

「あたしもそうだから。」

智子と私は秘密を共有した。

二人とも由美子と友達として話しかけ、

本当のところは、

好きになって欲しかった。

中学校の放課後は、

クラブに所属する者以外は、自由に学校を闊歩している。

そんな私たちの耳に、

飛び込んできたのが、

愛の夢である。

リストの愛の夢。

「いい音。」

「音楽室に行こう。」

其処には、由美子と同級生の吉村がいた。

弾いているのは吉村、由美子は聞き入るように、

目を閉じて、その由美子を魅入った様に見ながら

吉村はピアノを弾いていた。

2人の「好き。」はその時、離された。

2人とも思いが通じないのは分っていたのだ。

今も思う。

私の音を出したかった。

2人の思いを出したかったと。












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