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【小説 】dokuoya

毒親。

そんな言葉があるのを、私は知らなかった。

親は子供を支配するものだと、

認識していた為だ。

「あんたんちのお母さん、ほんっと毒親よね。」

そう言われて、

毒親って何。

毒なんて言葉と親が付くなんて有り得ない。

そう、思っていた。

その頃母の口癖は「あんたの為を思って。」

だった。

それは本当なのだろう。

私もそう思っていた。

小さい頃から体が弱かった私は、

食べるもの、寝る時間、遊びの時間さえ、

母に管理されていた。

「あんたの為を思って。」

口癖は私のバックグラウンドミュージックの様だった。

中学生になると管理下でも自由を満喫する術を覚えた私は、

近くの山に入って行くようになった。

母の嫌っている行為だった。

塾やピアノ教室の時間を盗んで、

山へ行く、何をするでもない時間。

その自由は必要なものだった。

「由子、この頃買えり遅くない?」

「そんなことないよ、ちゃんと帰っているよ。」

「何で、そんなこと言うの?」

「だって、由孝が姉ちゃん帰り遅いって。」

言わなくてもいい事を言った弟を睨み付けながら、

「お母さんが仕事行ってるから、

あたしがいない時間、淋しいから長く感じるんだよ。」

人間は嘘をつくと言い訳したくなる。

自分も言わなくていい言い訳をした。

母はそんな事は考えていなかった。

「由孝が家にいるんだから、早く帰って来てあげて。」

それ、私に言う事?

納得できない気持ちが泥のように心に沈んだ。

でも、何時もの返事をする。

「はい。」

「解ってるの。」

「うん、解ってるよ。」

母の中で大事な弟の為に

私の大事な時間は引き裂かれた。

人はよく、あの時ああだったらとか、こうしてればとか、

口にする。

大人になった私は自分の時間を他人の所為にすることは、

出来ない。

自分の選択で母の言葉を選んだ。

だが、あの頃の私には、一言、言ってやりたくなる、

そんな風に従順でいても愛してくれる訳じゃない。

「あんたの為を思って。」

そんな言葉信じない方がいいって、

あんたの選択肢は宇宙の果て程あるんだよ。

音楽はあんな言葉じゃないんだよって、

誰かに言って欲しかった言葉を、

大声で。

毒を中和する為に

大人として生きていく為に。

大丈夫、抱きしめて許してあげたい。

私である貴女を。








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