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【小説】久美ちゃんち


花が咲いていた。

ここは夢なのか。

幻想の中なのか。

子供の頃から

幻想を見る。それを話すと親が怒るので、

大人には言わない様にしていた。

ある日はネズミが話しかけて来たり、

ある日は廊下の向こうに草原が見えたりした。

始めは自分だけの秘密だったのだが、

子供というものは、他に言ってしまいたくなる衝動を、

抑えることができない。

いや、私はできなかった。

「久美ちゃん、あたし、くさっぱらが見える。」

馬鹿にされるのを覚悟して、言ってみた。

家で二人で遊んでいた時である。

「あたしも見えるよ、京子ちゃん。」

顔を見合わせて、ふふっつと笑い、

「大人には内緒。」二人一緒に言葉が出た。

久美ちゃんも「色々見えるの。」と言った。

二人とも内緒で見えるもので遊んでいた。

ある日久美ちゃんが、

「あたしンちにはしゃべる猫がいるのよ。」

そう言った。

何も不思議には思わなかった。

だってあたしはネズミが話しかけてくるんだから

「じゃあ、あたしもその猫とお話してもいい?」

「いいけど、あの子気難しいから、京子ちゃんがいると

出てこないかもしれない?」

「でも、出てくるかもしれないでしょ?」

「ねえ、久美ちゃんち行ってもいいでしょ。」

「いいけど・・・・・。」

半ば強引に私は久美ちゃんちに行った。

久美ちゃんの小さくて、冷たい手を引いて、

「何処?」

木の生い茂る林の奥に家はあった。

「ここなの?」

久美ちゃんが頷く。

「入っていい?」

又、頷く。

「こんにちはー。」

家に入ると、其処は花畑だった。

「ここが、久美ちゃんち?」

今度も、頷く。

猫の事は忘れて、

花に夢中になった。

「花冠作ろう。」

無言で又、久美ちゃんが頷いた。

二人で花冠を頭に着けて、

どれだけ摘んでもなくならない花で遊んでいると

「お前はだれだあ。」

猫?狐?一目では判別がつかない動物。

「あたしは京子。」

「久美ちゃんの友達よ。」

「ねえ、久美ちゃん。」

「そんなことは、聞い取らんぞ。」

久美ちゃんは黙って頷くばかり。

「遊ぼうと思ってきたのよ。」

「此処がどこか解っているのか?」

「久美ちゃんのおうちでしょ。」

「解っとらんな、解らん奴は来てはいかん。」

久美ちゃんが悲しそうにこっちを見て、

バイバイの手。

「どうしたの?」

「・・・・・・・」




「京子、京子、大丈夫?」

「お母さん?」

「どうしたの?」

「いつまでたっても帰ってこないから、探しに来たのよ。」

「こんな、山の中に居ちゃダメじゃない。」

気が付くと山の中の大きな樹の下だった。

家も猫も久美ちゃんさえ二度と見ることは無かった。







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