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子供は?

いつからだろうか?

私がこのスーパーに勤めだした頃からその人は此処に来ていた、それは大事そうに抱っこ紐を抱えて。

その頃の私は仕事を覚えるのに必死でお客様の顔を見ていても、『いつもみえるお客さんだ』位にしか思っていなかった、その中でも抱っこ紐を抱えたそのお客様は気になる存在だった。

人というものは不思議なもので、慣れるまではまるで見えて居なかった物が見えて来たり、解らなかった物が解ってきたりする、割と子供好きな私は泣いていても子供の顔を見るのが楽しみだった。

その他に仕事に慣れると仕事の中に密かな楽しみを見つける様になる、私の楽しみはお客様を見て想像する事だった。

このお客さんはお家で仕事している人でお昼ご飯を買いに来ているのかなとか、このお客さんはお弁当を作って貰えないサラリーマンで安くお昼を済ませたいのかな?とか妄想は広がりたいだけ広がっていた、赤ちゃんに対しても妄想は留まる事を知らず、レジの中は自分の妄想で埋まっていると言ってもいい状態になっていた。

くだんのお客様は、いつも抱っこ紐をお腹につけて、大事そうに誰にも見られないように抱っこ紐を抱えていた。

密かに子供の顔を眺めることを愉しみにしていた私は心の底で「ケチ。」と呟いていた。

そうなってくると、子供の顔が見たくてたまらなくなる、人情かも知れないが、何とか見たいと顔を近づけたり、体を見えそうな方に向けたりして、何とか子供を見ようとして見た。

その努力も空しく、どんな事をしても大事そうに抱えている抱っこ紐の中身を見る事が出来なかった。

その人はさも大事そうに抱え上げていつも手でカバーするようにして買い物をしていたのだ。

その事がおかしいと思ったのはずいぶん経ってからだった、ある日気づいた、その人の抱っこひもが重そうにも大きくもない事に、その中を見たことが無いのは私だけでは無い事に。

よくよく考えると『子供って大きくなるよね。』私は心の中で呟いた、その上で私がこの職場に入って来てからの月を数えてみた。

1カ月、2か月、3か月・・・・・13カ月も経っている、子供が大きくなるには十分な時間なのだ、泣き声も聞いたことがない、いつも大事そうに抱えて人を避ける様に買い物をして無言で去っていく。

せかせかとしたその後ろ姿は、子供を産んだとは思えない程か細く見えて、抱っこ紐を掛けていることが不自然な位だったのだ。

今も疑問がある、あの中に入って居る物は?

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