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元祖アイドルからの、音故知新

シンシア 序章

あの頃、茶の間のテレビから流れていた歌謡曲。2016年にリリースされた元祖アイドル、シンシアの「南沙織シングルコレクション」に収録された31曲を聴き直してみる。初期から中期のナンバーは、歌詞・メロディー共にソラで歌える。自分にとってこの頃聞いたナンバーは、自分の原風景であると改めて実感させられる。これからシンシアが歌ったナンバーを年代順に並べ聴き考え何かを発見するノスタルジックな旅に出かけてみたい。茶の間のテレビの機能やアナログの放送はあの頃から大分変化したことは確実だが、それよりあの頃のコンテンツを今聴き直せる環境が整っていることに大きな意味を感じる。聴き直す行為は、懐かしさに浸るより新たな発見を見出すまさに「音故知新」ではないか。

南沙織と名付けられたシンシアのデビューシングル「17才」がリリースされたのは1971年6月1日。J-POPという概念がまだなかった頃、ニッポンで最初のアイドルとして70年代の幕開けと共に登場した。レジェンドとして語られて来た彼女は、その名の通り南からやって来た。海、浜辺、潮風、歌詞もそうしたトロピカルな表現で飾られた。時には哀しい気持ちも歌いこなす表現力の豊かさ。その歌声は今聴いても違和感はない。そして惜しまれながら芸能活動の休止を宣言、1978年10月7日の「さよならコンサート」を最後に引退、7年4ヶ月の活動にピリオドが打たれた。筆者が物心ついた時には歌うことを辞めていたシンシアだった。

早速、デビューの年、1971年からはじめてみたい。この年、2枚のシングルと2枚のアルバムがリリースされた。
6月  シングル「17才/島の伝説」
10月 シングル「潮風のメロディ/なぜかしら」
10月 アルバム「17才」
12月 アルバム「潮風のメロディ」

デビューシングル「17才」のリリースから間も無くリリースされたデビューアルバム『17才』は、A面6曲がオリジナル、B面6曲が洋楽のカヴァーという構成。デビュー前に好きな曲を尋ねられ、カントリー歌手リン・アンダーソンの「Rose Garden」と答えたのがきっかけで、筒美京平が「17才」を作ったエピソードは有名。ところがB面にはそのナンバーのカヴァーも収録されているとは知らなかった。恐らくアルバム制作の方針は、まだ少ないオリジナルと本人の歌いたい曲により、アイドルの個性を打ち出すコンセプトだったのではないか。1973年、同じCBSソニーで酒井政利氏のプロデュースによるキャンディーズのデビューアルバム『あなたに夢中〜内気なキャンディーズ』も同様のコンセプトだ。オリジナルの6曲中4曲はシングルカットされ、残りの2曲のうちの「ふるさとの雨」は、1980年、石野真子のシングル「彼が初恋」として日の目を見ることになる。筆者はこのナンバーを初めて聴いた時、どこか懐かしさを感じていた。シングルカットしてもおかしくなかった名曲は、ハーモニカが笛に変わりアンデス風フォルクローレ感が強調された。編曲を担当した矢野立美の名曲は海援隊の「贈る言葉」だろう。聴き比べるとシンシアの歌声の方が声量があり伸びる特徴が分かる。

それから直ぐにセカンドアルバム『潮風のメロディー』がリリースされ流。収録されたオリジナルは、すでにシングルカットされデビューアルバム『17才』にも収録された「潮風のメロディ/なぜかしら」のみ。そして残りの10曲は全てカヴァーという、実質カヴァーアルバムだった。このアルバムの制作の意図は何だったのだろうか。アルバム『17才』と『潮風のメロディー』に収録されたナンバー、それらがリリースされた時代背景に何かヒントがないだろうか?それは60年代のワールドポップス。それらを原曲のままや「和製ポップス」としても自由に歌っている。70年代のニッポンに登場した元祖アイドルは、60年代のポップスを聴きながら育っていた。

カヴァーの原曲のリリース年表
『邦題』(原曲国)「原曲国題名」(歌手)
1958年
『先生のお気に入り』(米)「Teacher’s Pet」(ドリス・デイ)
1959年
1960年
1961年
『悲しき片想い』(英)「You Don’t Know」(ヘレン・シャピロ)
1962年 
1963年
『Be My Baby』(米)(ザ・ロネッツ)
1964年 
1965年
『そよ風にのって』(仏)「Dans le meme wagon」(マージョリー・ノエル)
『夢見るシャンソン人形』(仏)「Poupee de cire, Poupee de son」(フランス・ギャル)
1966年
『ジョージー・ガール』(英)「Georgy Girl」(ザ・シーカーズ)
1967年
『悲しき天使』(米)「I Say a Little Prayer」(ディオンヌ・ワーウィック)
1968年
『ラブ・チャイルド』(米)「Love Child」(ダイアナ・ロス&ザ・スプリームス)
『小さな願い』(米)「I Say a Little Prayer」(アレサ・フランクリン)
『悲しき天使』(米)「Those Were the Days」(メリー・ホプキン)
『ウォータールー・ロード』(英)「Waterloo Road」(ジェイソン・クレスト)
1969年
『オーシャンゼリーゼ』(仏)「Les Champs-Elysees」(ジョー・ダッサン)
『雨』(伊)「La Piaggio」(ジリオラ・チンクエッティ)
1970年 『ローズ・ガーデン』(米)(リン・アンダーソン)「Rose Garden」
『ハロー・リバプール』(英)「Liverpool Hello」(カプリコーン)
1971年
『夏の日の出会い』(米)「Summer Creation」(ジョン・シェパード)
『小さな恋のメロディー』(米)「Melody Fair」(ビージーズ)

これら聞き覚えのあるナンバーは知っているつもりが、実はよく知らないナンバーであった。(つづく)

✳︎本企画を考案した後に、篠山紀信氏の訃報を知りました。私的には虫の知らせかと勝手な思い込みを持ちながらも。改めてご冥福をお祈り致します。

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