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世の中に足りないものと余っているもの――『翼のある人生』書評

先日、福島を車で走っていると、携帯電話の地図上に「福島スカイパーク」という場所が出てきた。おもしろそうだなと思って向かってみたら、道はどんどん山の上に登っていく。いちばん上に、飛行場があった。

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800mの滑走路と、小さな管制塔(兼事務所)と、飛行機の格納庫と、かわいらしいカフェと、あとはひらけた空だけがある。その日は飛行機は飛んでいなかったが、格納庫にはアクロバット用の飛行機が何機か駐機されていた。

管理人のかたに話を聞くと、この空港は、レッドブルのエアレースで活躍するアクロバット飛行のパイロット・室屋義秀氏の練習場でもあるそうだ。併設するカフェに、室屋氏の本が売っていたから買って読んでみた。

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翼のある人生

この本がすごくおもしろかった。

室屋氏は、大学の航空部でグライダーに乗り、空の魅力に取り憑かれた。その後、アメリカでライセンスを取り、紆余曲折をへてエアショーのパイロットになる。もともと、ただの飛行機好きの青年で、航空会社出身でも自衛隊出身でもないのだ。

おもしろいなと思ったのは、自分の飛行機がどうしても買いたくて、スポンサーを集めに奔走するところだ。たとえば最初の飛行機の購入代金は3000万円なのだけれど、頭を下げて人にお金を借りまくる。自分がいかに飛行機を必要としているか、それを使うとなにができるのかを説明してまわる。

これはちょっと、ベンチャーの経営と似ている。だれにも頼まれてもいないし、それどころか、ぱっと聞いただけでは、世の中に必要かどうか疑わしいようなことを言い出して、ひとにお金まで出させる。普通に考えたらどうかしているのだけれど、こうして形になると実におもしろい。

だって、福島の山の中に飛行場があって、そこで飛行機の練習をして、世界のエアレースを転戦しているとか、めっちゃかっこよくないですか。ちょうどぼくが行ったときは、室屋さんはブダペストで開催されているレースに出ているところだった。ぼくはその夜、温泉旅館でyoutubeのライブ中継を見た(ここで動画が見られます)。

それにしても、この本のオビにもあるけれど、けっきょく、「想い」なんだよなあ。お金とか土地とか、みんなが足りないと感じがちなものは、じつは余っていて、世の中に圧倒的に足りていないのは想い(アイデアとか企画)と、あとはそれを実行する情熱だ。その2つさえあれば、ほんとうになんでもできるんだなと、あらためて思った。

ぼくもいつか、飛行場をつくりたいなあ。これからの日本は、土地が余りまくるから、けっこう現実的なんじゃないかな。

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