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『3年でプロになれる脚本術』は人の心を動かすための教科書、かもしれない。

先週取り上げた「結婚できない男」が、あまりにもおもしろくて、結局、最後まで見てしまった(Amazonプライム会員は無料で見られるので、未見の方はぜひ)。このドラマ、見るのは3度目なんだけど、毎回楽しめるのがすごいと思う。

この作品の脚本を担当した尾崎将也さんが、『3年でプロになれる脚本術』という本を出しているのを見つけた。

結論から言うと、この本、とてもおもしろいです。コンテンツを仕事にしているひとはもちろんだけど、他の分野のビジネスマンのひとにも役に立つんじゃないかな。だって、人の心はどうしたら動かせるのか、という方法が書いてあるわけだから。そこについて、長年、具体的に考えて、仕事をしてきた人のノウハウがまとめて読めるのはありがたい。

内容の7割は具体的な方法論だ。どんな映画をどのように見ておけばいいのか、というような準備的な話、ト書きの書き方、キャラクターの作り方、ストーリーの作り方といった技術の話、そして、感情をどうやって映像で描くのか、といった高度な話まで取り上げてある。そういうことを「ローマの休日」や「ゴースト」のような名作映画や、尾崎さんが書いたドラマの脚本を例に出しながら説明していく。

解説があまりにも明快で、読んでいると、すぐにシナリオを書いてコンテストに応募したくなってくるくらいなのだが、実際はもちろん、そんなにかんたんなものではないだろう。本書でもそれは「運転免許を取れたくらいの位置」と書いていて、プロになるのは「F1ドライバー」になるくらいの差がある。

本書がすぐれているのは、残りの3割の部分で、そのギャップをどうやって埋めたらいいのかということが書いてあることだ。もちろん、そこはかなり難しい部分だから、これだけ読めば全部解決するというような、具体的な処方箋が示されているわけではない。しかし、著者が自分自身で悩んで考えてきた思考の過程が、本書では随所に出てくるのだ。

ぼくはその、試行錯誤の部分がいちばん参考になった。プロのクリエイターの仕事というのは、だいたいそういうものだと思うのだ。それぞれのひとが、自分の特性を生かして、社会の需要を考えて、たくさん考えて、たくさんトライして見つけ出していくしかない部分だからだ。

「結婚できない男」でいちばんおもしろいのは、やはり主人公のキャラクターの造形だと思う。阿部寛さん演じる桑野信介は、すごく神経質で嫌味っぽい人物なんだけど、ぼくはドラマを見ながら、この描写のリアルさと細かさは、脚本家がこういう人なんだろうなと思って見ていたのだけど、実際、本書を読むとそう書いてあって笑った。

このあたりにこそ、人を動かすおもしろいものをつくるための秘密があるかもしれない。考えた量と回数と、あとはなにが必要なんだろうな。


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