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ライブレポ|ロックンロールは世界を変えて (銀杏BOYZ 特別公演『山形のロック好きの集まり2023』 3/4)

”とうとう”この日がきてしまった。いや、”やっと”と言えばいいのか。ここ半年で色々なアーティスト・バンドのライブに行くようになったが、1週間も前からドキドキするようなバンドは銀杏BOYZだけだった。

銀杏BOYZ 特別公演『山形のロック好きの集まり2023』

去年の東京・大阪で行われたライブ同様に、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の朗読から始まり、砂幕には雪の降る山形の風景やバイクに乗る峯田などの映像が流れ始めた。朗読と映像が終わると「銀杏BOYZ 特別公演」「山形のロック好きの集まり2023」と写し出され、砂幕が上がり一人峯田が登場した。会場からは拍手と同時に「峯田ー!」などと怒号のような歓声が響き渡った。椅子に座り、アコギを持ち"人間"からライブ始まった。

演奏が終わり、再び客席から拍手と歓声が鳴り響くと「うわー、久しぶりだ。この感じ。今日は始まる前から『ウァー!』って声が聞こえてきて。そんな感じで今日は声出しOKな感じなの?」などと最前列のお客さんに聞き、「今日は昔の曲から新しい曲までたくさんやっから、どうか楽しんでってけろ」と言い"NO FUTURE NO CRY"が始まった。最初は峯田一人の弾き語りだったが、途中からサポートメンバーが合流し、ステージが明るく華やかになり、バンドサウンドとは違った爽やかさを感じた。

「you & i,now and forever」と歌い始め、始まった"YOU & I VS. THE WORLD"。自分が銀杏に出会って初めの頃に聴いていた曲(正確に言うとゴイステのYOU & I)ということもあり、思い入れの強い曲だった。「今が苦しくても 今が悲しくても 君がいるから そばにいるから 僕にはなんでもできる」、ほかのアーティストにも似たような歌詞やフレーズはあるが、ここまで真っ直ぐ聴こえる歌詞は銀杏以外にはないと思う。そして、サビの「君と僕は永遠に 手と手つなぎどこまでも」ではいつしかのライブの峯田の如く、両手を強く握りしめ、胸の前に掲げていた。

Gt.山本幹宗のイントロから流れ始めると、自然とお客さんも立ち始め、アコースティックとは思えない盛り上がりとなった"I DON'T WANNA DIE FOREVER"。腕を振ったり、リズムにのったり、観客がそれぞれの楽しみ方をし、徐々に会場の熱も上がってきた。そして、声出しがOKとなりやっと会場全員で歌うことができた「おっぺけぺー」と「恋の呪文 唱えないでよ」。これまでコロナによる声出し制限があり、映像で見ることしか出来なかったことがやっと体験でき、これだけでもこのライブに来てよかったと思った。

「自分は独身で、45で、子供もいなくて、でも作ってきた曲ってのは、自分にとって子供みたいなもんなんですよ。出来の良いやつもいれば悪いやつもいる。そんな出来の悪い子供の曲です。」というMCのあと始まった"トラッシュ"。CDとは違う温かさはありながらも悲壮感の漂うこのちぐはぐな感じが不思議と心地よく、スッと心に溶け込んでくる、まるで出来の悪さを感じない曲となった。
そして、流れるように始まった"援助交際"。”円光”ではなく”援助交際”だ。メロディーやコードは"円光"だったが、歌詞や後奏の"In The City"のオマージュなどは"援助交際"のまま残っていたのでそう思った。そして1番のサビでは、最近峯田がハマっている(?)「あの子はどこかの誰かとマッチングアプリー!」という今風のアレンジ。会場は盛り上がり、始まる前のドキドキも気づいたら自然と解れていた。

途中にMCを挟み、「心をこめて歌います。」と言い、始まった"漂流教室"。「今まで出会えた全ての人々に もう一度いつか会えたらどんなに素敵なことだろう」。これまで出会ってきた仲間や友人、恋人、好きだった人がいて、その中には良い人や好きな人もいれば嫌いになった人もいた。ただ、そんな人でも自分が”成長”していく上で糧になった部分が少なからずあったと思う。そして交友関係が広がってきた最近、このフレーズを大事にしていこうと思った。

峯田にスポットライトが当てられ、弾き語りから始まった"新訳 銀河鉄道の夜"。弾き語りからバンドサウンドが加わる瞬間、ステージの照明が一気に光り、後ろの幕から透けて光る電球が、まるで星のように輝き、会場を包み込んだ。途中の歌詞も「シベリア鉄道乗り換え 山形で降ります」となっていて、18年前とはバンドとしての形は変わってしまったが、こうやって”故居”に戻ってきたことを改めて実感した。サビが終わると上からミラーボールが降りてきて、間奏に入るとそれがが回りだし、反射した光が流れ星のように会場に降り注ぎ、まるで1つの作品を見ているような光景だった。

演奏終わると、スペシャルゲストのDr.kyOnさんが登場。ここ最近では、スペシャルどころか常連になりつつあり、どこか安心感すら感じる。そんなDr.kyOnさんが加わり、「全ての地方出身者に捧げます!」と"東京"が始まった。自分は東京生まれの東京育ちで、この曲を聴くともどかしさを感じていたが、なぜかこの日だけはスッと心に入ってきた。
そして、"夜王子と月の姫"。ここでも歌詞が、「3月11日 指輪を落とした月の姫」となっていて、山の反対側の東北の地へ思いを馳せた。アウトロに入るとメンバーが一人づつ捌けていった。ステージ上には峯田、Dr.kyOnさん、Gt.加藤綾太が残り、少しすると砂幕が降り、演奏が終わっていった。

演奏が終わると同時に、砂幕には過去のライブ映像が流れだし、それが終わると地元 山辺町の河原を歩く峯田の映像を背景に"二回戦"が流れ始めた。去年のサンプラザのライブでは、ただ峯田が夜明け前の隅田川の河川敷を歩いていくだけだったが、今回の映像ではただ歩くだけでなく、雪を丸めて投げるなどサービスショット(?)があった。そして曲と映像が終わり、会場が真っ暗になるとギターのノイズが会場に響き渡り、文字通り「二回戦」が始まった。

砂幕が上がると、真っ赤なリッケンバッカーを持った峯田がステージのど真ん中に立っていた。そしてDr.岡山建二のシンバルのカウントから"若者たち"が始まった。最初の一音が鳴ったその瞬間、自分の中で何かが弾け、気づいたときには泣いていた。身の回りのことでいろいろなことがあり、しんどかったあの頃、そんな感情も全てぶち壊し、救ってくれたのは銀杏の曲であり、この曲だったからだ。
往年のライブ同様、続けて"駆け抜けて性春"、そして"大人全滅"へ。思いっきり振ったギターがマイクスタンドに当たり、マイクを吹っ飛ばす場面や、駆け抜けて性春で歌い出しと演奏がずれてしまった場面など、前のめりで音楽に”入りこんでいる”18年前から変わらない姿は最高で、ようやく本番が始まった感覚だった。

間にMCを挟み、「ちょっと疲れたから、ドラムの岡山建二が歌います」そう言い、岡山健二による"骨"が始まった。最近のライブではお決まりとなっているが、峯田と違ったバラード風な歌声がまた良いのだ。以前、音楽雑誌かインターネットの記事で、銀杏のサポートメンバーに”影響を受けたアーティスト”というインタビューがあり、その中で岡山が唯一銀杏BOYZを挙げていた(気がした)ことを思い出した。自分の音楽活動、バンド活動から色々な巡り合わせがあり、今こうやってサポートメンバーとして活動をし、さらには銀杏のライブで銀杏の曲を歌うということになり、これほど嬉しいことはないだろう。自分もそんな経験が今後、一度でもあれば良いなと思った。
そして、そのまま"恋は永遠"へと続き、このまま恋とロックの三部作が続くのかと思われたが、峯田が「瞳を閉じれば 聞こえてくるだろう 」と歌い出した。そう、次に来た曲は"東京少年"だった。まさか聴けるとは思っていなかったため、喜びや驚きなど色々な感情が交差していたが、曲が始まると拳を握り、腕を振り、全力で歌ったいた。

そして峯田がギターを置き、スタンドマイクに持ち変え、"エンジェルベイビー"が始まった。曲が始まった瞬間、当時好きだった人のことが一気にフラッシュバックし、ダムが崩壊したかのように涙が止まらなかった。”ねえみんな大好きだよ”が出た2020年の10月。夜の7時くらいまで二人で図書館で勉強をし、図書館を出て、少し歩いた所にある公園で2人で話していたら、あの子の元彼が現れ、そしてあの子はそのまま元彼と二人で帰る中、自分は一人このアルバムを聴き、この曲を聴き帰る、そんな日々。「どうして僕 いつもいつもなんだろう ここじゃないどこかへ行きたかった」。自分の状況と重なり、痛いくらいに刺さる歌い出しのフレーズ。「hello my friend 君と僕は一生の友達さ」。一生”友達”から越えられることはないのかと感じた日々。「あの子のちっちゃな手を繋がせて」。あの子も小柄で手も小さかった。何度そう思ったことか。挙げていったらキリがないほどに、この曲への思い入れは強く、こういう表現をするのはあまり好きではないが、まるで自分のための曲、自分のことを歌っている曲だ、そう思った。

そしてここで再びDr.kyOnが合流し、峯田はアコギを持ち、"光"が始まった。バンドサウンドが入る瞬間のまるで壁をぶち破るかのような音の大きさは、音源でもライブでもうるさいと感じることはなく、むしろ優しく包まれるような感覚だ。そして、そこからの魂をぶつけるような峯田の歌声やステージでの姿、サポートメンバーの演奏は、自分を突き動かす”何か”を感じた。
ライブも終盤となり、あと数曲といったところで始まった"GOD SAVE THEわーるど"。この曲も先に書いたあの頃にエンジェルベイビーに次いで聴いた曲で思い入れも強く、またしても涙してしまった。また、元が打ち込み音源ということもあり、Dr.kyOnさんのキーボードが特に映えた曲でもあった。

演奏が終わり、ハンドマイクからアコギを持ち変え、「BABY BABY~」と歌いはじめた。客席からは歓声が上がった。MCで峯田が「この曲をいつか、国立競技場で全員で合唱したい」そう語っていた。正直、銀杏BOYZが国立競技場のような大きな会場でライブする姿はどこか似合わない気もするが、不思議とみんなで歌う姿が容易に想像でき、いつか本当に叶う、そんな気がした。そうして始まった"BABY BABY"。今までこの曲をライブで聴いて泣くことはなかったのだが、この日初めて涙した。思い返してみれば、銀杏のライブを見に行くときは当時の彼女と一緒に行ったり、会場で会う予定があるなど、どこか浮わついた気分でいた気がした。そして、彼女も誰もいない”ちゃんとした気持ち”で向かったこの日、今までと歌詞の聞こえ方が違って聞こえ、初めて涙した。そしてサビでは峯田と、お客さんと、やっと全員で歌えたことがとても嬉しく楽しかった。

峯田がギターを置きタンバリンを持ち、Gt.加藤綾太がエレキからアコギに変え始まった"ぽあだむ"。跳び跳ねながら演奏するメンバーや、タンバリンを振りながら歌う峯田の姿を見て、自分も跳び跳ねたくなるような、音楽の楽しい部分が全部詰まった空間が広がった。
そのまま最後の曲"僕たちは世界を変えることができない"へ。この曲が来ると、夕方5時の時報のように、楽しかったライブももう終わりが近づいていることを気づかされる感じがした。上手から下手へ順々にメンバー紹介が行われ、最後に峯田が自分を紹介する。楽しかった今日のライブを振り返る。「聴きたい曲も聴けて、いいライブだったな」、そんな物思いに更けていると、曲はもうサビに入り、気づけば曲が終わっていった。

演奏が終わり、メンバー全員が袖に捌けていった。客席からは拍手が鳴り、「やるなら今しかねーべ!」と、あのコールが響き渡った。
しばらくしてメンバーがステージへ戻ってきた。客席からは拍手と歓声が揚がった。そして、それぞれギターを持ち、スティックを持ち、マイクスタンド前に立ち、本当の最後の曲、"少年少女"が始まった。”Sonny Boy”のアニメが始まった頃、最後に付き合った人と出会い、また、その人も銀杏が好きだったので、この曲は思い出の曲だった。振る腕や握った拳にも自然力が入っていた。その思い出も過去のものになった気がした。演奏が終わって、峯田が「また会いましょう!」と言って一足先に捌けていき、その後、ほかのメンバーも捌けていった。捌けていくときに、サポートメンバー(確かGt.加藤綾太とBa.藤原寛)が肩を組んで捌けていく姿をみて、「やりとげた!」という感じがこちらにも伝わってきた。

自分は、音楽を、銀杏を好きになったのがコロナ禍になってからと、聴いている期間としては短く、そこまで多くのライブに行っているわけでもないが、今まで見たライブの中で一番だったと胸を張って言えるほど最高のライブだったことは間違いなかった。

1,人間
2,NO FUTURE NO CRY
3,YOU & I VS. THE WORLD
4,夢で逢えたら
5,I DON'T WANNA DIE FOREVER
6,トラッシュ
7,援助交際
8,SEXTEEN
9,漂流教室
10,新訳 銀河鉄道の夜
11,東京
12,夜王子と月の姫

二回戦

13,若者たち
14,駆け抜けて性春
15,大人全滅
16,骨
17,恋は永遠
18,東京少年
19,エンジェルベイビー
20,光
21,GOD SAVE THE わーるど
22,金輪際
23,BABY BABY
24,ぽあだむ
25,僕たちは世界を変えることはできない

en.1,少年少女


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