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なぜ他者との絆やつながりが幸福感にとって重要なのか ~ 主観的幸福研究でわかったこと ~

坂の傾斜の知覚の研究

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長い距離を走った直後に坂のふもとから頂上を見上げた時、坂がいつもより急こう配に見えることはないだろうか?重いリュックサックを背負って階段を見上げた時、階段の傾斜が何も背負っていないときより急に見えることはないだろうか?知覚の研究では、人はそのような身体条件において丘や階段をより急こう配に知覚することがわかっている。(Proffitt, 2006)

一人で坂の傾斜を推定 vs.友人と一緒に推定

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ヴァージニア大学のProffitt教授のグループの研究では、被験者を傾斜のある丘のふもとに連れていき,その傾斜度について推定させた。この実験では、被験者はランダムに2つのグループにアサインした。ひとつめのグループは友人を一人連れて実験に参加してもらった。もう一つのグループは、一人で実験に参加してもらった。面白いことに,友人と一緒に推定した被験者はひとりで推定した被験者に比べて丘の傾斜を緩いという推定した

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さらにこの友人による傾斜の緩和効果は友人関係が親密であるほど強かった。つまり,物理的には全く同じ坂でも友人が横にいるだけでそれほど険しくないように知覚されたわけだ。親しい友人がそばにいれば険しい坂道もそれほど険しく見えず,登っていけそうな気になるということが実験により示されたわけである

痛みに対する脳の反応

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同じくヴァージニア大学のCoan教授らのグループが2008年に発表した論文では、16組の夫婦仲のよい被験者を集めて妻に軽度の電気ショックを与え痛みに対する脳の反応をfMRIを用いて測定した。妻が夫の手をつないだ条件や誰の手もつながない条件に比べて,妻が夫の手をつないだ条件では電気ショックによる妻の脳の痛み反応は弱く,夫の手による軽減の程度は夫婦関係に満足しているほど強かった

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これらの研究結果は,身近な他者との間の絆・つながりが恐れやストレスを緩和させ,痛みさえも軽減させることを示唆している。

他者から理解されているという感覚

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国のGDPと幸福感の国別レベルの分析では,社会的援助はGDPを超えて幸福感に強い影響をもつことが報告されている (Oishi & Schimmack(2010))。しかしなぜ信頼できる他者の存在は高い幸福感に寄与するのだろうか。友人やパートナーは様々な点で他人に比べてより良い理解者と言え,その結果得られる他者から理解されているという感覚がストレスの低減や高い幸福感を生じさせているのかもしれない(Oishi, Krochik, Akimoto, 2010)。

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Oishi, Schiller, &Gross(2013)はProffitt教授らの実験を発展させ,被験者のパーソナリティ評定のフィードバックを実験的に操作することで,相手に理解されていると感じる条件と理解されていないと感じる条件を設けた。そして、丘の傾斜の知覚,距離の推定,冷たい氷水の知覚という3つの課題を課した。

結果は予想通り,実験パートナーから誤解された条件に比べて,実験パートナーから理解された条件では,丘の傾斜をより緩やかだと知覚し,対象地までの距離をより近いと推定し,氷水からくる痛みも軽く手を浸す時間が長かった

誰しも疲れているときはいつも使っている駅の階段が険しく感じられるし,駅までの距離が長く感じられるし,足腰への痛みも感じやすい。Oishiらの実験結果から誰かに理解されていると日常茶飯事が楽になり,精神的なエネルギーも消費量が少なく,幸福感にも恩恵をもたらすのではないかと考えられる。

※本記事は以下の論文を再編集したものです。

佐伯政男, & 大石繁宏. (2014). 幸福感研究の最前線. 感情心理学研究, 21(2), 92-98.

幸福感を自己管理できるiPhoneの日記アプリも開発しているのでダウンロードしてくれるとうれしいです。

参考図書

引用文献

Beckes, L., & Coan, J. A. (2011). Social baseline theory: The role of social proximity in emotion and economy of action. Social and Personality
Psychology Compass, 5, 976‒988.

Coan, J. A., Schaefer, H. S., & Davidson, R. J. (2006). Lending a hand: Social regulation of the neural response to threat. Psychological science, 17(12), 1032-1039.

Oishi, S., Schiller, J., & Gross, E. B. (2013). Felt understanding and misunderstanding affect the perception of pain, slant, and distance. Social psychological and personality science, 4(3), 259-266.

Oishi, S., & Schimmack, U.( 2010). Culture and wellbeing:
A new inquiry into the psychological wealth of nations. Perspectives on Psychological Science, 5, 463‒471.

Schnall, S., Harber, K. D., Stefanucci, J. K., & Proffitt, D. R. (2008). Social support and the perception of geographical slant. Journal of experimental social psychology, 44(5), 1246-1255.

Proffitt, D. R. (2006). Embodied perception and the economy of action. Perspectives on psychological science, 1(2), 110-122.

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