佐伯紅緒

小説家/脚本家/エッセイスト。2006年、『エンドレス・ワールド』でデビュー。他に映画『RE:BORN』(脚本)ドラマ『シグナル』(脚本協力)等。お問い合わせはJCM(ジャパンクリエイティブマネージメント)まで。

何でも屋さんでいいじゃないの(改稿)

私は2010年あたりからハリケーンでいうとカトリーナ級の大型スランプに見舞われ、実に数年、小説がまったく書けなくなった時期がありました。

その頃、時期を同じくして自動車事故詐欺に遭ったり、ネットストーカーに悩まされたりしてまさに「泣きっ面に蜂」状態でした。

もともと、私はそんなにメンタルが強くない人間です。

SNSでは「毎日楽しそうですね」と言われることが多いですが、私の場合、更新頻度

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「ワークショップは彼女をつくる場所ではありません」

先日、とある映画監督のワークショップに参加し、怒涛の三日間を終え、溜まっていた洗濯物を洗いつつカレーを煮ていたらそのメールは来ました。

「皆さんに注意したいことがあります」

そのメールは主催者側から(監督ご本人ではありません)参加者全員に一斉送信されたもので、そこにはいくつか会場で見受けられた問題点への指摘がありました。

曰く、打ち上げでひどい行動や言動をとっていた参加者が数名いたこと

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職場で出会った不思議な人たち・百貨店編(3)極道の女よね子さん

その人は女優の松金よね子さんに似ていたので、私はひそかに彼女のことを「よね子さん」と呼んでいました。

女優の松金よね子さんも私生活が見えないので有名な方ですが、この店のお客さんのよね子さんもまた、さっぱり生活背景が見えない人でした。

細身で中性的な容貌、服は一見地味ですが、よく見ると有名ブランドのものを着ています。結婚指輪はしておらず、年齢もわかりません。

そしてこのよね子さんもまた、

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職場で出会った変な人たち・百貨店編(2)〜H寺のソウゲンさん〜

ある日、私がいつものように誰も来ないブティックで店番をしていると、ソウゲンさんは当たり前のようにして店の中に入ってきました。

「こんにちは〜」

小柄で細身、アロハシャツ。
年齢は40前くらいだったでしょうか。
坊主ぎりぎりの5分刈りの頭。
失礼を承知でいえば、ソウゲンさんの第一印象は「お勤め帰りの組の方」でした。

私がいたブティックはコの字型でドアはなく、奥まった場所に商談用のテーブル

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職場で出会った変な人たち(百貨店編・1)

大学を卒業後、私が最初に就職したのは都内にある大手百貨店でした。
そこで20代前半の約3年間、私は職場で一日中ほとんど誰とも口をきかないという生活を送っていました。

私が配属されたのは宝石売り場の海外ジュエリーブランドのブティックで、何日も売り上げがないという日はザラでした。
その百貨店は社員全員が外商もできるという制度があり、これではいかん、と先輩たちは新人の私を置いてツバメのように毎日出かけ

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病院と藤棚と私

今ごろの時期になると、むしょうに藤棚が見たくなります。

藤棚には個人的にいくつかの思い入れがあります。

あれは震災の年の5月初め、父が今日死ぬという日の朝、私はがんセンターのホスピスの藤棚の下にボンヤリと座っていました。

前の晩に母と2人で父の病室に泊まり込み、父の具合が悪くなるとナースを呼んでモルヒネを打ってもらったりしていたのです。

握った父の手の先がもう半分冥界に続いているの

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