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新春妄想映画劇場 フリッツ・ラング監督『メトロポリス』(1926)

年末に動画を漁っていて見つけました。夢にまで見たフリッツ・ラング監督映画『メトロポリス』(1926)のニューバージョン。1984年に音楽家ジョルジオ・モロダーによって、クイーンなど当時の人気ミュージシャンたちの音楽が加えられたいわゆる『ジョルジオ・モロダー版メトロポリス』の全編です。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm8653698

これ、もともとは100年近く前に作られたモノクロの無声映画なんですが、凄いのでとにかくさわりだけでも観てください。特にこのジョルジオ・モロダー版は、映像に合わせてクイーンとかボニータイラーの歌がガンガン入ってます。そのカッコよさときたら、今見てもシビレるのです。

そしておそらく音楽の著作権の触りがありすぎるのでしょう、この1984年公開のジョルジオ・モロダー版、未だにDVDが出ていないのです。
(実は海外では出ているので買ったのですが、リージョンコードの縛りがあって国内で観ることはできませんでした)

私はこのジョルジオ・モロダー版メトロポリス、学生時代に劇場でじつに10回観ました。あの頃、なんで女子高生だった私がそこまでこの映画にのめり込んだかはわかりませんが、きっとなにか心打たれるものがあったのだと思います。
ちなみにクイーンの音楽を初めて知ったのもこの映画です。 逆にクイーンの楽曲『レディオガガ』のPVには映画『メトロポリス』の映像がモロに使われておりますね。

https://www.youtube.com/watch?v=azdwsXLmrHE

映画『メトロポリス』、話はいたって単純で、わかりやすくディストピアものです。資産家と労働者階級が住む場所さえくっきり分かれた近未来、労働者たちが住む地底都市メトロポリスで、マッド・サイエンティストが作ったロボットの女が先導者となり反乱を起こす...という内容です。が、とにかくこの『メトロポリス』、映像美が素晴らしいのです。

この映画が後の世にどれほどの影響をもたらしたかは書ききれませんが、とにかくリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982)も押井守監督の『攻殻機動隊』(1995)も、すべてはこの1926年公開の映画『メトロポリス』が出発点です。

『メトロポリス』の本編を観ていただければわかりますが、地下都市メトロポリスの支配者、ジョン・フレダーセンの部屋なんか完全にタイレル社の応接室だし、俯瞰で見たメトロポリスの街並みは『ブレラン』も『攻殻』もそのまんまです。

そもそも100年近く前の作品なのにこの『メトロポリス』、当時カゲもカタチもなかったカメラ機能付きインターフォンなんかがごく普通にでてきますし、他にも未来に行って見てきたとしか思えない描写が多数あります。

なにしろ1926年といえばまだ第二次世界大戦のバリバリ前。ヒトラー率いるナチス党がようやくドイツ国内で力をつけてきた時期ですし、日本でいうと『この世界の片隅に』のすずさんがちょうど広島で生まれた頃です。そう考えると、この映画がいかにいろいろ早かったかということがわかります。

こういうのを見るとやはり、映画監督という人種は一種のヴィジョナリー(幻視者)なのだと思います。未来のヴィジョンを人よりも先に見て、それを映像化して我々に見せてくれるいわゆる「特殊能力者」です。

そもそも私がこの映画にいかれて何度も観に行ったのも、そこに何か「この映画に込められた監督の想い」をキャッチしたい、という深層心理がはたらいたからだと思います。
それはわかりやすく言語化するのが非常に難しいなにかですが、時代を超えて琴線にひびくなにか、繰り返し観ることで心に刻みつけ、人の存在そのものに対する答えのヒントになるようななにか、だったと思います。

もしフリッツ・ラング監督が今の時代に生まれていたらどんな映画を撮るのでしょうか。たまにそんなことを考えますが、もしかしたらすでにどなたかに生まれ変わり、今の世で傑作を撮り続けているのかもしれません。

ちなみにこの『メトロポリス』、脚本を書いたのはフリッツ・ラング監督夫人のテア・フォン・ハルボウです。
欲を言えばこの脚本、いろいろと突っ込みどころはありますし、あの大団円のラストも筆が甘いんじゃないかと当時から言われていたようです。

しかし、ともすればゴリゴリのSFになりそうなこの作品を、ちゃんと血の通った人間ドラマに仕上げたのは彼女の功績が大きいと思います。
キモのフレダーとマリアのロマンスとか、フレダーの母ヘルを巡ってのフレダーセンとロートワングの三角関係なんて、絶対女性である彼女から出てきたアイディアでしょうからね。

ちなみに『メトロポリス』の劇中に出てくるエロスの化身のようなロボットの偽マリアですが、これは当時若干20歳だったブリギッテ・ヘルムという女優さんが本物の清楚なマリアと一人二役で熱演してます。
が、この偽マリア、今なんと2ちゃんねらーの間で「VIP先生」と呼ばれていて、本来とは全然ちがう文脈で有名人になっているそうです。知らなかったー。

#コラム #佐伯紅緒 #エッセイ #メトロポリス #SF #映画 #お正月

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