みっともなくあがく

 昨年末から就活を始めた。個展を開催してから少しでも自分と似た境遇の人たちの背中を押せるような仕事が出来たらいいと思ったのがきっかけだった。意気込んでいくつか障害者の就労移行支援をしているところの職員に応募したが、ことごとく落ちてしまった。勿論応募するときにはクローズにしていたが、そもそも手帳持ちの私がその仕事に就くことへの「矛盾」に直面してしまった。
 福祉関係の業界は基本的に経験や資格が必須で、これらは業務経験を積まないと取得できない。とにかく現場に出たいと思っていたが、何も知らない人間を働かせてくれるような簡単なものではなかった。しかも私は手帳から恩恵を受けている。この状況から脱さない限り無理なのだろう。順序が違うことに気づき、そのためにはどうしたらいいのかわからず途方に暮れてしまった。
 ハローワークの窓口へ相談に行くたびに「こういう仕事は大変だと思う」と言われてしまう。無理だと断言されているような気がした。現在の私がどこかに勤めるとしたら、障がい者としてしかないのかもしれない。
 知人にそういったことを相談したら「障がい者枠で働いて年金はもらい続けるべきだ」と言われてしまった。
 「障がい者であることを隠して一般で働こうだなんてそんなみっともないことはない」「普通に働くなんて無理なんだから」「いろんなことに気がついて動けないだろう」「言われたことを黙々とやるのは出来るはずだ」これらの言葉は私の自信や希望を打ち砕いた。「どこかに就職出来ればずっと勤められるんだから」ズルズルと引きずり込まれる感覚。前にもあったような気がした。これは実家にいたときの私に差し出された甘い言葉に似た響き。楽な方へ楽な方へと誘う声。踏ん張ろうとする足を脱力させるような温かな…これは沼だ。
 これに身を委ねればただ生きることは出来る、と思う。でもそんな生き方したくなかった。だから家を出た。バイトをした。個展を開いた。この時間は、行動はなんだったのか。これらが一時の夢なのなら、醒めたくない。何もしてこなかった私の足掻きだ。
 不相応なことをするのはみっともないのかもしれない。無駄な足掻きなのかもしれない。でもそのまま甘い声に従ったら、なんのために飛び出したのか。それこそ無駄になってしまう。これでも応援してもらった。それを裏切りたくない。私は口ばかりだが、個展をしたのは実行したという誇るべきひとつだ。
 安定は大切で、現在の私を心配する周りの気持ちは分かる。そろそろ芯を持たないといけない。「すぐじゃなくてもいつか絵でやっていけたら一番だ」そう言った自分。これを揺るがせてはいけない。また個展をしたい。そう思えるくらい夢のような時間だった。次はちゃんと自力で成功させたい。私が頑張れることはこれくらいなのかもしれない。
 願望ばかりで口だけ達者な私が行動で示せるものは制作くらいなのかもしれない。
 今はバイトも楽しい。もっと極めてもいいのかもしれない。まだどうなるのかわからないけれど、わからないままでいないように鉛筆を握る。

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