【2000文字小説】いのちの電話がつながらないので死にたい

 0570-783-556っていうのがいのちの電話の電話番号で、死にたくなったときはこの番号にかければよいと保健体育の教科書に書いてあった。でも全然つながらなかった。呼び出し音が鳴るだけ。130回ルルルルル、を数えたときに「この電話はおつなぎできませんでした」と言われて電話が切れた。それで自殺決めた。女性の声のそのアナウンスを聞いたとき、自分には生き残る価値がないから電話をつながなかったんだと思った。なんか運命とか神様みたいなものが、今死ねって私に言ってるんだと思った。

 じゃあ本当に死んでやるよ、と言ってみる。みんなさよならみんなさよならみんなさよなら私死んでやるからな。涙がボトボト出る。最悪だ最悪だ。

 死ぬ方法はいくらでもある。かまってちゃんみたいにならないように確実に死ねないといけないと思うと怖いし焦る。多分私死ぬの怖いから死んじゃうとしたらうっかりミスって成功しちゃったときだろうなと思う。

 死ぬの怖い。本当に怖い。もう最悪。もうやだ。でも死ぬしかない。いのちの電話つながらなかったし。菅野くんも、まさか美紅って。あり得ない。なんでそんな近場で女を漁るの。美紅も最悪。本当に殺してやりたい。でも、理想どおりにふるまえなかった私が一番最悪。

 昔の歌手かなんかがそれで死んだんだってYahoo知恵袋で読んだからドアノブに紐を掛ける。首吊りは確実に死ねるらしい。ゆっくり紐の中に頭を通す。そのままLINEを開く。どうせ死ぬなら菅野くんにLINE送ってやろう。「今から死にます」。送信。そのままスマホの画面を落とす。

 息を吸う。吐く。目をつぶる。さあ死のう、と思った瞬間、通知音が鳴った。

***

 菅野くんと別れてからはぼーっとしてるとついついLINEを送りそうになるから忙しくしようと思ってコンビニのバイトを始めた。「今って月末でしょ、だから給料はいるのほぼ2カ月後になるんだけどいいかな」、と面接のときに社員の人から言われる。ああはい大丈夫です。と言ったけど全然理屈が分からなかった。でもまあ、別に、お金に困ってるわけじゃないからなんでもいい。

 美紅は「初めて1週間しか経ってないのに一人でレジ立たされた」ってショックを受けてたのに、私は早朝勤務だからか初日から一人でレジに立たされる。面接のときの社員の人が教えてくれるのかと思っていたらその人は来なかった。代わりにおばさんのパートの人が教えてくれる。「片山さん覚えるの早いから、もう大丈夫だと思いますよ」。はい。そんなことより私はおばさんの名札を見て何も考えられなくなってしまう。「お名前、かんのさんですか」菅野さんは「うん、そう」と言った。

 菅野くん本当好きだったな私、と思う。本当に好きだった。おばさん見るたびに菅野くんのこと思い出すだろうな。ああ最悪だ。バイトもう辞めたい。

 でもおばさんは、っていうか菅野さんはすごくいい人で、9時になって休憩するとき、私に爽健美茶をくれた。「初めてのバイトって緊張するよねえ、でも覚えもいいし、すぐ慣れるよ」。いい人だ。バイト辞めない。

 6時間はあっという間だった。「じゃあ片山さんきょうこれで終わりだから、着替えて帰ってね」「はい。お疲れ様です、」一礼。事務所はエアコンが効いていて暑いくらいだった。次のシフトのために来た大学生ぐらいの男の人がいて、こちらをちらっと見てくる。何を言っていいのか咄嗟に分からず、無言のままカバンを掴んで着替え室に入る。その人が事務所のドアから出ていく音がした。

 コンビニから出てしばらく歩いたら人にぶつかった。あ、と思ったときにはもう「申し訳ございません」と言ってしまっている。慌てて走り出す。あああ変な人みたいになっちゃった。最悪だ。

 ガソリンスタンドを超えて、スーパーを超えて、ドラッグぱぱすを超えて、むかし1回だけ行ったことのある耳鼻科を超えたあたりで曲がるともうすぐ私の家。ポストの前で菅野くんからLINEが来ていないか確認する。やっぱり来てなかった。でも、プロフィールの更新が見えるから、ブロックはされてないみたい。

 ここ何日かずっと菅野くん宛にLINEを作っている。私の反省が伝わって、もう一度やり直したい気持ちが伝わって、新しくなった私とまたよりを戻せば全部楽しくなるよっていう内容。どういう書き方をするかが問題。「・・・」を何回使うかとか、絵文字とか顔文字を泣かせるタイミングで使わないとなと思う。聖愛には「もう次の恋愛しよ? 私なら別れて1カ月経ったらもう次いこってなる」って言われたけど、そんなふうに思えるのは聖愛がいつも振る側だから。振られると簡単にそうやって割り切れたりしないんだよって思う。

 バイト2日目もやっぱり菅野さんと一緒だった。「レジのやり方どう?」「えっと多分大丈夫だと思います」「よかった。じゃあとりあえずスナックの補充とフェイスアップしておいてくれる?」「えっと」「商品を置いて、クルッとするやつ」「あ、はい」菅野さんはやっぱり優しい。「分かんなくてもいいからね。私なんて慣れるまでに1週間ぐらい掛かったから」

 菅野さんはバイトどれぐらいやってるんだろう、と思ったけど、うまい切り出し方が分からず、私はただ「はい」と言う。「じゃあ、お願いね。しばらくしたらレジと、きょうはカウンターフードのことやろっか」「はい」

 バイトは面白い。時間分働けばちゃんと評価してもらえる。上手なやり方も先輩に教えてもらえる。菅野くんとのことも、こういうふうになればよかったのに。でもそうじゃなかった。まあ、まあそういうもんだ。

 どうにせよ、私がいないとこのコンビニは成り立たなくて、お客さんも携帯充電器を買えない。私は今、役に立ってる。

***

 聖愛から「美紅が菅野くんと付き合いだしたんだって」と聞いたのはその日のバイトが終わって2時間したときだった。「美紅から告ったって」ひどいよね、と言葉を続ける聖愛、からのLINEの文字を見ているうちに吐きそうになってくる。「そうなんだ」と返信して、それから3回壁を殴った。

 最悪、最悪、最悪だ。なんだよ。死ねよ。みんな死ねよ。みんな死ね、みんな死ね。

 いのちの電話はつながらなかった。既読音はトリンプからのお知らせメッセージだった。期待したのがバカみたい。菅野くん宛に「ごめん、気にしないで」と追加のLINEを作っているとき、さっきのLINEに既読がついた。

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生きづらさの2000文字小説

生きづらい人たちの生活を書いてる2000文字小説です。介護とか、仕事のこととか、結婚しないの? って親から言われるとか、お金が稼げないとか、そういう感じです。
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