月曜日のわたし

月曜日、朝7時。

遊び部屋に敷き詰めた布団のうえを芋虫のように這って、目を細めながら上の息子(1歳9ヶ月)が起きてくる。おはよう。起きた?おはよう。と何回か声をかけていると、目をこすったりモコモコのスリーパーに足を取られてよたよたしながら、やっとリビングのローテーブルまで辿り着き、くしゃくしゃの顔で「おはよぉ」と答え、「ねんねした」と報告し、「ぎゅうにゅう、のむ」とリクエストする。

上の子は寝起きが良い。低血圧の私とは大違いだ。昼寝の後も、朝起きた時も、起きたと同時にニコニコ笑い、「はしごしゃ、きらい」などと独り言を言っては牛乳を飲み、バナナやみかんをばかすか食べる。よく起きぬけ1分で物が食えるもんだと感心するが、1歳児というのは本当に生きる活力にあふれている。いつの間にか抱っこなしで3、40分外を散歩できるようになり、文脈に沿い自分の意思を込めたり、状況を的確に描写した文章を話すようになった。

6時台に下の子(8ヶ月)のミルクで起きてから、私は洗濯物を片付けたり茶碗を洗ったり、上の子の朝食べるものを用意したりする。健康で文化的な生活のために、家事は必須である。仕事から帰ってきて、子どもたちを家に入ってきてから絶望しない程度に部屋を整えて家を出る、というのは、私にとって精神衛生上きわめて大事だ(それでも出かける寸前まで遊んでいたトミカや絵本が片付けきれずにその辺に転がっていたりするのだが、その程度では絶望しない)。

私は30過ぎまで独身で、ずっと好きなことをやってきた。世界中を旅したし、留学して、海外で働き、大学院にも戻って好きな勉強をして、いろんな助成をもらってたくさんの国際会議に参加した。恋愛も無茶な行動も、好きな格好も好きなことへの浪費も、たくさんした。私はかなり自己中心的な人間だが、今まで好きなことを好きなだけやったという自覚がある分、子どもに時間を取られ、振り回されていることへの後悔は何もない。だいたい子どもは可愛い上、私が世話をし、見守らなければ簡単に死にそうなふたりの乳幼児といっしょにいるのは、本当に貴重な体験だし面白いとさえ思う。

それでもやっぱり私は仕事が好きだ。ただ、子どもがいないときにはあまり認識していなかったことで、今は痛いほど自覚しているのが、私には時間も体力も精神力も有限である、ということ。昔は、年中出張に行って、長期の海外調査にいってなんてしていたけど、今は気持ちの問題ではなく、現実問題として不可能である。仕事が溜まって家に持ち帰って、それを考えながら子どもに向き合うのは、自分の精神衛生上だけでなく子どものためにもよくない。大学での職を探して公募を見ていると、能力的には自分にできそうだ(貢献できる)&やってみたいと思える中でも、でもこれはきっと時間に柔軟性があって、年中出張に行ける人を欲しているんだろう、毎日17時にはきっかり帰る人は想定していないだろう、と思って応募しないことも多々ある。自分の有限な時間を認識した上で、自分のやりたいことを実現するというのは本当に難しい。

最近、いろんなワーキングマザー関連の記事を読みながら、自分は「バリキャリ」もキャリアを諦めた「マミートラック」に入れられることも、仕事はお金のためと割り切った働き方も、どれも嫌だと思った。私が目指す業界では、子育てや介護や、いわゆるケア責任のない人の自由さを前提とした職というのが(特に若手を対象とした公募で)本当に多い。周りの人の話や、ネットでの記事から予想しても、きっと他の業界でもそうなんだろう。自分の時間をふんだんに自分だけに使える「自由さ」をもたない人はキャリアを求めることはおろか、好きな仕事を続けることも難しいのだろうか。

私が子どもに清々しい気持ちで前向きに向き合えるのは、自分がしっかり仕事をして、自分の能力を発揮し、達成感を得たあとだ。たとえ数時間でも論文に集中し、保育園に迎えに行き、帰ってきて片付けてご飯を食べて、遊んで、お風呂に入れて、一緒に寝る。その夕方以降の5時間くらいを、全力で前向きに子どもたちと対峙して遊び、世話をする、というのは私にとっても子どもにとってもとても重要なことだと考えている。子どもにとっては、生きるということ、生活するということ自体が重大な仕事だ。

子どもは親がどんな風に自分に向き合ってるか、本当に小さいときから敏感にわかっている。土日はそれが朝7時から夜22時まで続くので、どうしても向き合い方が惰性になってしまい、閉鎖的な環境の中で私自身も疲れてしまう(0歳児&1歳児と丸1日過ごすのは控えめにいって一種のスポーツであり、ふたりを大人1人で外で遊ばせるのはかなり難しい)。私は家庭保育や3歳児までの自宅育児を否定する気はさらさらないが、それが自分には合わないということ、保育園の素晴らしさ(もちろん場所によるが)を知っているので、やはり仕事+育児の双方を、仕事時間の確保+夕方お迎え+全力育児という形で実現する、というのが今の私にとってベストなライフワークバランスである。

ということで、週末を終えた月曜日、私は自分の仕事ができるという喜びに満ち溢れている。


(写真は保育園の先生が作ってくれたクオリティの高すぎるトトロとまっくろくろすけ。あんぱんにもとらじろうにも関心を示さない上息子は「となりのトトロ」はガン見。私の宮﨑アニメ崇拝に拍車がかかった。)

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saereal

ライフとワークに関する徒然ノート

働く女性研究者が妊娠・出産・子育てと仕事について考えていることを書いています。
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