見出し画像

【小説】神々の集い、聖なる城へ




 シオンはいついかなる時でも、フィノを第一に考える男であった。
 歩幅は常に彼女に合わせ、彼女が歩き疲れていないかどうか、さりげなく様子を見る。路銀は街の不良からふんだくるしかないので、あまり稼ぎは期待できない。そんなはした金の内、フィノのために使われるのが七割ほど。喫茶店のランチをフィノが食べるなら、シオンは小さなケーキ一つで空腹をごまかした。
 それほどまでにフィノを思う彼が、フィノを置いてずんずんと歩いていく。彼女の足は、大きな彼の歩幅に追い付こうと小走りになった。

「ちょっと。歩くのが速いんだけど」
「……」
「聞いてるの? もっとゆっくり歩いてよ」
「……」
「ねぇ!」

 フィノの言葉にも、珍しく耳を貸さない。レルベラッタに着いてから、厳密に言うと、フィノの着替えを買うために洋品店に行ってから、ずっとこの調子だった。

 街はずれの小さなその店は、初老の女性が一人で営んでいた。子ども服も売られていて、値段もそれほど高くない。服選びは本人に任せて、シオンは後ろで彼女の様子を見守っていた。すると女性がフィノに寄ってきて、こう声を掛けた。

「あら、お父さんとお出かけなの? 仲良しなのね」

 会計を済ませて店を出るまで我慢できた自分を褒めてやりたかった。確かにフィノは、シオンの娘であってもおかしくない年齢だ。だが、彼らは親子でもなければ兄妹でもない。むしろシオンは、フィノを一人の女として愛している。見た目ではわからないとはいえ、親子と言われたことに彼は酷く腹を立てた。
 彼の愛を受け入れたわけではないが、シオンが何に怒っているのかは理解したフィノは、彼をなだめるのに注力した。

「仕方ないでしょ。これだけ歳の差があれば、誰だってそう思うわよ」
「でも、俺たちは違う」
「えぇ、違うわ。私たちは親子なんかじゃない。兄妹でもない。ましてや、あなたがなりたいと思ってる恋人同士でもない」
「恋人になりたいわけじゃない」
「は? じゃあ、何なのよ」
「俺はお嬢ちゃんを愛してる。それだけだ! 親の腐った情なんかと一緒にすんな!」

 シオンは、呆れるあまり歩くのを止めたフィノを置いて、さっさと歩いていく。フィノもまた、こんな男について来て本当に良かったのか、少し昔の自分の判断に頭を抱えた。



サポートいただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いします。