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今年のサガン鳥栖は「おもしろくない」を探る。

はじめに

シーズン開始前の期待値の高さとは裏腹に、なかなか結果を残せないでいるサガン鳥栖。
リーグ戦も8試合終わって14位と波に乗れず、ルヴァンも第4節の札幌戦で大敗を喫して今年もルヴァンの予選突破は限りなく赤に近い黄色信号が点灯してしまいました。

「試合に負けても勝負には勝っていた」

試合もあった昨年が、今年は

「試合も勝負も勝てていない」

ような試合が多くみられる現状。

結果を残せないばかりか、今シーズンのフットボールは
「おもしろくない」
と、試合後に根本的な魅力の面まで言及されてしまう声も。
その因果関係は明確ではありませんが、そのおもしろくなさが、観客数が伸びてこない要因のひとつになっているのではないかとの見方もあります。

そこで、具体的にどのような部分が、界隈の話題をさらった昨年度のフットボールと異なるのか、スタッツを基に検証してみました。

それでは、スタッツの比較表をご覧ください。

比較は、

 ・ 2023年の直近5試合
 ・ 2022年の同時期の5試合
 ・ 2022年の好調期5試合

を対象とし、試合ごとの数値と各期間における合計/平均を比較しています。

なお、2022年の同時期に関して、昨年の5節の横浜FM戦は、ひどい土砂降りの雨の中でボールも走らない状態だったので、こちらの試合は除外して5試合をピックアップしています。

では、「おもしろくない」原因を探るための考察を下記に記します。

(1) ボールが持てていない

ここ最近のサガン鳥栖の代名詞と言えば、驚かされるようなポジションチェンジを軸に、これでもかというボール保持による崩しをモットーとしたフットボール。

ボールを保持すればするほどに
「ゴールを取るための保持になっていない」
という揶揄も上がったりしていたものですが、最近では、ゴールのみならずそもそもボール保持そのものすらできていません。

昨年の同時期や好調期は平均で保持率54%ということで、少なくとも相手を上回る時間分ボール保持ができていました。
ボールを保持できているということは、相手からの攻撃を受ける時間も少なくなるということで、こちらがイニシアチブを取る時間もおのずと増えてきます。
ところが、ボール保持率が下がってしまった今シーズンは、相手にイニシアチブを取られる(と感じる)時間帯も多く、攻撃に使える時間も少なくなっています。

昨年よく見られた、パギさんをビルドアップの中心に使ったり、ジエゴのようなストッパーを前線に送り込んだり、サイドバックやボランチが大胆にゴール前中央に侵入したり、とにかくボールを保持して、保持して、保持し続けて相手にほころびが生まれるまで粘り強くパスを回すサガン鳥栖のフットボールが影を潜め、シュートに至るまでに30本以上のパスをつないだことで話題を奪っていた昨年に比べると、そういった特徴さえも失ってしまっています。

パス成功率の平均も、好調期に比べると5%ほど低下しておりまして、駅前不動産スタジアムで大きなため息が聞こえる要因のひとつにパスミスがあるのですが、こういったパスが繋がらないことによるストレスも「おもしろさ」には関わってきます。
パスを出した選手が「ごめん」って手を上げるシーン、パスの受け手が大きく上を向いて頭を抱えるシーン、こういったシーンはあからさまに「うまくいっていない」ことが伝わりますし、残念さを感じてしまいますよね。

パスは出し手、受け手の意思疎通もありますし、選手の配置も影響しますし、何よりも個人のキックの質にも依りますので、何かひとつを変えれば劇的に改善するものではないですが、パス成功率を改善することは保持継続にも繋がるので、ひとつのKPIになりえるのではないかとは思います。

(2) シュートが打てていない

たとえボール保持率は低くとも、電光石火のカウンターや手数の少ない効率的な攻撃で得点が奪えていれば良いのですが、今年のサガン鳥栖はそもそもシュートが打てていません。

昨年の同時期は平均で約12本、好調期は約14本のシュートを放っていたのですが、今年は約6本と昨年から比べると半分以下のシュート数。

やはり、フットボールの醍醐味はゴール。

そして、ゴールを奪うためにはシュートが必要。

たとえ、シュートが相手ゴールキーパーの好守に阻まれたり、バーやポストにはじかれたとしても、そのシーンだけでボルテージもあがるというもの。
試合後に
「あのシュート惜しかったね!」
と語るシーンすらないのは、おもしろみという点から言うと物足りなさの象徴に近いものがあるでしょう。

最近は、スタジアムでも声出し観戦がOKとなってきており、
「打てよ!」
という、ガンダム主題歌の合唱団の声が少しづつ多くなってきております。

完璧に崩すケースはそうそう作れませんし、打てば何か起こるというディフレクションにも期待できますし、シュートに対する意識をもう少し上げるのもひとつの策なのかもしれません。

(3) ペナルティエリアに侵入できていない

とはいえ、こういう声も聞かれます
「やみくもにシュートを打てばよいものではない」
「シュートを打てるタイミングがないのだ」

では、やみくもではなく、用意周到にシュートを打てるタイミングとは何かというと、それは可能な限りの相手ゴールへの接近。
つまり、アタッキングサードへはいり、そして更にペナルティエリアに侵入することがひとつのバロメータとなります。

アタッキングサードへの侵入ということは、つまり、ボール保持を自陣ではなく相手陣地で行うことにも繋がり、失点に対するリスクも減りつつ、ゴールに対する期待度もあがるという一石二鳥もありながら、これがペナルティエリア内への侵入ともなれば、否が応でもボルテージも上がるというものです。

ところが!

その肝心かなめのアタッキングサードへの侵入回数が、昨年に比べると格段に回数が減っており、昨年は50回近くの平均回数で侵入していましたが、今年は平均で28回と少なく、40回を超える試合は、ここ5試合のみならず、シーズン通しても1試合もありません。

ペナルティエリアへの侵入も、今年は約8回と2桁にも至っておりず、昨年同時期と好調期は、それぞれ1試合平均12回のペナルティエリア侵入があって今年の約1.5倍の数値となっております。

相手のゴール前でのプレイが増えれば増えるほど、ゴールに対するドキドキ感は増しますし、それは「おもしろい」に繋がるものでもあります。

ただ、じっくりボールを持って、隙ができるまで待つことも必要で、やみくもにアタッキングサードへの侵入を試みたら良いわけでもなく、とはいえ、ボール保持しているエリアが相手ゴール近くではなく、自陣内であることが多くなればなるほど積極性が疑われだします。

そして、さしてリスク管理しているわけでもないのに
「リスクを負っていない」
と、施策が違う方に発展してしまいそうな話にも。

侵入できるに越したことはないのですが、侵入できそうにないときに、焦ってボールロストしないよう、ボール保持率とのバランスも大事で、そこを保つインテリジェンスさもおもしろさの一つなのかなと思います。

(4) パギさんが目立っていない

えっと、目立ってるんです。
ここのところ、めっちゃパギさん目立ってます。
目立ちすぎて申し訳ないくらい頑張ってもらっています

守備面で(涙)

そうです、ここ数年、特に昨年は、

パギさんの走行距離とか、
パギさんの位置取りとか、
パギさんのフィードとか、

とにかくパギさんが攻撃に関与することが話題の中心になっており、時折、とんでもないようなハプニングでゴールを決められてしまうことがありましたが、それすらもかき消すほどに攻撃に守備に、と大貢献してもらっていました。

昨年は、初めて駅前不動産スタジアムでサッカーを見た子が
「キーパーがあんなところにいる!普通じゃない!」
ということで、驚いて楽しんで帰ったという話も聞きました。

そう、
「他のチームと違う」
というのは、十分に楽しさをクリエイトする要因になりえるものです。

ファッションも他の人が来ていないニッチな服で自分自身を表現できることでうれしかったり、ゴルフクラブも誰も使っていないような地クラブであったり、最新鋭の技術を搭載したクラブであったり(腕前とは関係なく)、ほかの人と違うものを感じることで楽しさを享受することができます。

そんな「他と違う」の代名詞だったパギさんの攻撃的な関与がここのところさっぱり目立ちません。

実際に、チャンスビルディングポイントという指標(シュートチャンス構築にどれだけパスで関与したかを数値化したもの)で見ると、特に、昨年の前半は世間を席巻しただけのことはあり、平均0.82ポイントと高い数値を上げていました。
試合によっては、宮代や風智などのフォワード、菊地や岩崎などの中盤、田代やジエゴなどのストッパーよりも高い数値をたたき出すこともあり、彼のミドルレンジのフィードでスタジアムがどよめくシーンが何度もありました。

ところが、今年の平均は約0.46と昨年に比べるとチャンスビルディングの関与度が大幅に下がってしまってて、パギさんならではというお楽しみポイントがやや奪われてしまった感は否めません。

我々がパギさんに求めているのはスーパーセーブだけではなく、スーパーフィードであり、スーパースルーパスも同様に求めています(贅沢)
パギさんの守備の負担を減らして、攻撃に関与できるように、ディフェンスラインと中盤のみんなにはガンバってほしいものです(普通じゃない 笑)

(5) 選手の質がものをいうフットボールを指向している

一昔前は、全員守備で1点を守り切るフットボールだったので、どれだけ攻められても、どれだけ侵入されても、体を張って身を挺して守りきる、そんなハードワークで勝ち切ることが「楽しい」ポイントでありました。

現在は、ポジショニング(配置)の優位性を作り出し、ボール保持によって複数ゴールを奪って勝ち切るフットボールがコンセプトなので、守りの美しさよりも攻撃の質の高さが「楽しい」ポイントとなっています。

このフットボールの転換によってじわじわと効いてくるのがどうしても
「個人の質」
の部分。

守備に関しては、走り切るハードワークはサガン戦士ならば「当たり前品質」として、味方との距離を保ち、ボールの行方に応じて連動するという「組織的な守備」をとることで、個人の質を補ってある一定のクオリティを保つことができます。

攻撃も崩しの部分や侵入の部分で、コンビネーションなどの組織が当然大事ではあるのですが、最後の仕留めの段階に入ってからのシュート、そしてその一歩手前の段階でのトラップ、パス、ドリブル(はがし)、もっというならばセンスとアイデア、これらは個としてスペシャリティの部分を持っていないとなかなか相手ゴールを破ることはできません。

例に出して申し訳ないのですが、菊地くんは自陣や中盤では運動量とスペースケア、そして中盤のつなぎ役として、非常に頼もしく貢献してくれているのですが、ゴールやアシストという局面では、なかなか結果がだせません。
認めたくない現実ではありますが、やはり、相手ゴール前で脅威となる選手、そういった選手がどのくらい在籍しているのかというのはこのフットボール成就のキーポイントではあるかと思います。

つまりは金をかけるのも大事だと。

そんななか、今年も、決してビッグネームではなくとも、ポテンシャルや若さ故の伸びしろで、成長を期待できる選手が数多く来てくれているにも関わらず…

怪我に次ぐ怪我、そしてまた、怪我…。

無事是名馬とは良く言ったもので、全員が盤石の状態であったならば勝負ができる状態にあったとしても、コンディションが悪く出られない選手が多く出れば出るほど、チーム力が下降して厳しい勝負になるのは必然でしょう。

変態トラップからのダイレクトパスでの大きな展開、
相手をいなすように翻弄するフェイントからのシュート、
とんでもない速さで相手をぶっちぎるスピード、
まさかそこにコースがあっただなんてと感嘆するスルーパス

こういったシーンこそ、組織によって築き上げられたものとはまた趣の異なる「おもしろい」を生み出すものであり、個の質は組織的なフットボールに更なる華を添えることができますよね。

まとめ

結局、今年のフットボールは、感覚的なものだけではなく、数字上も去年と比べて厳しいものとなっています。
特徴的だった昨年までとは異なり、なんとなく普通のチームになっちゃっている状態です。

まさに
「ボール持てない」
「シュート打てない」
「相手陣地にはいれない」
「目立つ選手がいない」
という状況になっており、その結果、当然のように
「勝てない」
という現象を生みだしています。

堅固な守備をコンセプトとしたチーム作りではなく、得点こそが正義のフットボールなので、スタッツが低かったとしても、たとえ失点したとしても、ゴールを奪い返せればよいのですが、そういったゴールもなかなか生まれず。

負けるにしても、「負け方」ですよね。
同じ負けるにしても
「ボール持って」
「シュートばりばり打って」
「相手陣地に何度も侵入して」
「選手がガンガン目立って」
いれば、納得感の得られる試合になりえるものだと思います。

いまは、ハードワークをベースとしたリアクションフットボールからの転換に観客の目も慣れてきて、バックパスでのため息や前に蹴ろのカエルの大合唱(ケロケロ)も最近はなくなってきたのですが、そうやって目が肥えてきただけに、この現状は、如何とも受け入れがたいのかもしれません。

良い時期ばかりではなく、当然悪い時期もあるので、致し方ない面はあるのですが、フットボールコンセプトはそうそう変えられないので、選手の成長、もしくはまだ試合に出ていない新たな選手の台頭を願って、今シーズンは見守って行きたいと思います。


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