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ベトナム上場企業とのM&A 原則と例外


1 証券法は「公開会社」を規律
 
 ベトナムには,首都ハノイにハノイ証券取引(HNX)と,南部の商業都市のホーチミンにホーチミン証券取引所(HSX)があります。また,日本の旧“グリーンシート”に相当する未上場公開株取引市場「UPcOM」もあります。
 日本の金融商品取引法に相当するベトナム証券法が適用されるのは,「公開会社(Công ty đại chúng)」であり,下記の株式会社と定義されており,上場会社を含む広い概念になっています(証券法25条)。
①株式の公募を行った株式会社
②株式を証券取引所に上場している会社(これが「上場会社」にあたる。)
③100名以上の株主(機関投資家を除く)が存在し,かつ資本金額が100億ドン(約5000万円)以上である株式会社

2 「公開会社」に対する外資出資割合規制

 ベトナム証券法上は,上記の「公開会社」に100%出資することも可能となっています。しかし,政令60号(60/2015/ND-CP)により,以下の場合には,公開会社に対する外資の出資割合が規制されています。

①ベトナムが加盟する条約及び投資法その他国内法令において外資出資割合に関する規制がある場合,その規制が優先する。
②条件付投資分野に該当する事業を行う公開会社であり,かつ当該事業への外資出資割合に関する個別規制がない場合,外資出資割合の条件が49%となる。

 ③上記①及び②に該当しない場合,公開会社の定款によって外資出資割合が制限されていれば,その制限が適用される。

3 「公開買付」の規制

 上場会社の株式を市場外で取得する場合に,公開買付け(Take Over Bid ,TOB)が原則となることは,ベトナムも日本と同じです。しかし,ベトナムの場合,「公開会社」の株式取得にTOBが必要となり,必ずしも上場会社ではない「100名以上の株主(機関投資家を除く)が存在し,かつ資本金額が100億ドン(約5000万円)以上である株式会社」の株式を市場外で取得する場合にも,TOBに拠ることが必要な点は注意が必要です。
 日本の場合には持株割合が5%を超える場合にTOBに拠ることが義務づけられていますが,ベトナムの場合は,25%とやや緩和されています。
 加えて,ベトナムの場合,仮に公開会社の25%以上を取得するM&Aであっても,その公開会社の株主総会の普通決議によりその取得が承認されている場合には,例外的にTOBの手続をとる必要がないとされています(証券法32条2項)。
 そのため,ベトナムの上場会社(公開会社)に対するM&Aにおいても,あらかじめ株主総会の普通決議で承認を得て,TOBを行わないケースが多いと言えます。

4 スクイーズアウトの可否

 TOBに反対する少数の株主から強制的に株式を買取り,100%子会社化を実現すること(スクイーズアウト)については,ベトナムでは,残存株主の株式を強制的に取得することを認める明文規定が存在しないため,現行法下では,100%子会社化のためには,残存株主から個別に株式を取得するほかないと考えられています。

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。