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【2018.03.03】(畑に出ない農家の右腕の)僕が農家になった日

(記事がほとんどなくて、どこにも露出していないのに)noteのフォロワーがまもなく1,000人にもなりそうなペースで増えていて、なぜなのかはわかりませんがとにかく嬉しいです。更新を期待してくださっているところ申し訳ないのですが、ここしばらく商業原稿の〆切にずっと追われていて、なかなかプライベートで書き下ろしすることができません。とりあえず既に閉じてしまった過去の個人サイトから、比較的に反響あった記事を転載したいと思います。こういう文章を書く人間ですよという、あいさつ代わりに。
この記事は、2018年3月3日に旧サイトで書いた記事を転載したものです。私は農家に数年勤めながら、畑に出ない非生産人員だったので、「農家で働いているのに農家ではない」ことを負い目に思ってきました。「現場に出ていないお前が偉そうに農業を語るな」と言われたら、今でも返す言葉はありません。この記事は、国のエライ方々と議論しているうちに、そんな私にも「農家の気持ち」が憑依してきて、心から農家になりきってしまった時の話です。

--- 以下転載(2018.03.03)---

2月28日、阿部梨園で働いて以来最大のセンセーショナルな事が起こりました。AMは農林水産省の「働き方改革委員会」。PMは某農業サービス事業者さんのヒアリング。どちらも個人農家者側に近い立場で意見させていただいて、丁寧に傾聴していただきました。

そこで丁寧に耳を傾けてもらったからこそ、「なんで外の人たちは(個人)生産者の気持ちを腹で理解してくれないんだろう〜」「安全圏の方々に生産者のリアルな決死感をどうやって伝えたらいいんだー!」という強い感情が残りました。初めてのことです。

これはつまり、僕がとうとう、「内」の人になっていたのではないかと思うんですよ。心のなかでは完全に「なんで外の人たちは”オレたち”の気持ちを〜(号泣鼻水)」と一人称になっていたんです。

つまり、生産現場から一歩引いた客観的な立場で農家に関わってきた僕が、農家で働きながら農家になれなかった僕が、3年を費やしてようやく、気持ちだけでも農家になれた瞬間だと思うのです。ようやく、彼我の川を渡れた感じがします。そう気づいたとき、鳥肌が立つ感覚がありました。

長い間、経営改善に意識の向かない生産者は努力が足りない、適者生存で淘汰されても仕方がない、と上から目線で思っていました。でも今は、思いあふれる生産者がどうして経営に余力を残せないのか、どこに見えない抵抗感があるのか、どこで心の涙を流しているのか、肉親のことのようにシンクロしてしまいます。

これは、腹を割って農家のリアルをすべて見せてくれた阿部梨園(阿部さん)と、声にならない声を持ち寄ってくれたコンサル依頼者さん達のおかげです。

理にかなった決算書を作れない生産者が悪いのではなく、決算書でしか農家を読み取ろうとしない周囲に課題があるのかもしれない。販売側都合で型にはめようと、農家に業務の規格化を押し付けるからうまくいかないのかもしれない。僕が以前から主張してきたことと全く逆サイドの、反転した考え方があふれてきました。(これまでと話が合わない部分は、佐川も成長したということで、許してください。。)

生産者が世の中に適合するよう、生意気ながらも啓蒙したりダメ出しすることばかり言ってきました。これからは、生産者を弁護しながら、世の中も生産者と一緒に変われるよう、声を上げたいと思います。僕はどちらの立場にも立てますし、中間で仲裁者っぽくふるまうこともできます。

農業界で何かを成し遂げられている方は、この川を渡って彼岸にいらっしゃるのだとわかりました。これから渡る人、待ってます。なるべく早く!

僕は畑に出ません。農作業の苦労を知りません。でも、それを知っている人と3年半、毎日向き合ってきました。同じだけの努力と労を積んできたつもりです。こういうことを書く、土と汗の匂いのしない人間も、「心は農家です」と名乗っていいものでしょうか。名乗らせてもらえるなら、一層できることはありそうです。(2018.03.03)

---後記(2019.06.04)---

いま読んでも、当時の気持ちに嘘はなかったなあと思います。農家のことをサポートしてくれる事業者や専門家は数多いらっしゃいますが、農家の気持ちになりきってくれる人は少ないのだと思います。私と他の専門家の方で違うことがあるとしたら、敢えて対岸の火事に渡ったかどうかだけです。生活やキャリアをすべて賭けて一緒の船に乗ったからこそ、気持ちが通じるようになりましたし、自分でリスクを取った生々しい手応えがあります。

そんな経験を経た私の役割は、
1. 生産者さんの言葉にならない気持ちを代弁すること
2. 生産者さんの気持ちが理解できるよう外野の支援者と橋渡しをすること
3. それらすべてを統合して課題解決に導線すること
かなと思っています。

課題解決の前に共感と理解が圧倒的に不足しています。もっとよく現場を観察、研究、体感しなければ、真の課題は出てきません。視察とかヒアリングじゃなくて。農業界に青春を捧げたと自負する外野の皆さん、「心は農家です」と胸を張って言えますか。

「佐川くんはオレたちと同じ『農家』だから」

たまにこう言ってくださる生産者さんがいます。本当の苦労を知らない私ですが、仲間として認めてもらえたときほど嬉しいことはありません。

---自己紹介(フッター)---

FARMSIDE works代表、阿部梨園マネージャーの佐川(@neo16tea)と申します。阿部梨園という栃木県宇都宮市にある個人経営の農園で、経営改善しまくった経験から、農業の現場はまだまだ改善の余地、伸びしろ、ポテンシャルあるよ!というメッセージを業界に向けて発信しています。『東大卒、畑に出ない農家の右腕』みたいな呼ばれ方もします。

阿部梨園で実施した小さな業務改善のノウハウを無料で公開する『阿部梨園の知恵袋|農家の小さい改善ノウハウ300』というサイトを運営しており、農業界でも生産技術以外のレベルアップ、そのためのオープンな情報共有が必要だと説いて回っています。同サイトはクラウドファンディングで支援者を募り、450万円(330人!)ものご支援をいただいて世に送り出されました。

阿部梨園の知恵袋|農家の小さい改善ノウハウ300
https://tips.abe-nashien.com

2019年1月にFARMSIDE worksという個人事業を立ち上げて、農家の経営改善に関する講演活動(年間50-100件程度)、コンサルティング、企業のアドバイザリー(6社)などを行っています。

FARMSIDE works - 佐川友彦|農業界の課題解決
https://farmside.work/

色んなメディアさんに取り上げていただいたので、よろしければ詳しくは以下の記事をご覧ください。最近は、ホリエモンこと堀江貴文さんに取り上げていただいて盛り上がりました!

【阿部英生×佐川友彦×堀江貴文】阿部梨園編〜ホリエモンチャンネル〜 - YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PLPG9JWQYcjUu2P_-rBv8vAX6i3fcky-O9

(2018.09)【公開】東大卒「畑に入らない農家」のカイゼン500 - NewsPicks
https://newspicks.com/news/3300812
※有料会員限定記事ですが、一番詳しいです。けっこう話題になりました。

(2019.03)東大卒、デュポン、メルカリ経由で梨農園に飛び込んだ 「畑に入らない農家の右腕」の正体 (1/4) - ITmedia エンタープライズ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1903/14/news006.html

(2019.03)直売率99%、栃木の「阿部梨園」が経営改善のノウハウを無償で公開し続ける理由 (1/5) - ITmedia エンタープライズ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1903/18/news004.html

東大農→修士→DuPont→阿部梨園の中の人→ファームサイド(株)代表。コンサル、講演、執筆。阿部梨園の知恵袋(https://tips.abe-nashien.com)で、農家の経営改善を旗振り中。著書『東大卒、農家の右腕になる。』https://amzn.to/3fdp9C9