スクリーンショット_2019-06-18_14

金属の経年変化(錆)を生かしてサインをつくることが稀にあります。

#先日の余談

経年変化ってエイジングとかアンティークというとかいろいろ表現もあって、要は朽ちていく様子だったりする。素材や環境によってその変化は一概に言えないけれど、変わっていく様子や納品後のメンテナンスを愛おしく感じてもらえる方でないと共感が得れない。稀にしか依頼がない♪


銅が錆びる仕組み

銅は鉄と比べると錆による劣化・腐食が少ない。それは、銅の錆そのものが皮膜(酸化第一銅)となって安定するからだと言われている。その皮膜の成分である「酸化第一銅」の酸化が次第に進み、空気中や雨などに含まれる成分と化合することで「酸化第二銅」となってから、ようやく緑青ができているようだ。緑青と一概に言っても化合物によって呼び名も変わる。

今回は、水性塗料「さびカラー(新日本造形株式会社)」を用いて人為的に錆を生じさせる。(余談:高温で酸化銅を形成するとさまざまな色をつくることができるようだが♪)

さびカラーは2段階の工程があって銅合金粉が含まれた金属塗料を塗装してから、その銅合金に「塩化アンモニウム」を反応させて人工的に青さび(緑青)を生じさせる。塗装というよりも化学実験だな

青さび(緑青)には、塩基性硫酸銅、塩基性塩化銅、塩基性硝酸銅など、化合物によっていろいろあるようで、塩化アンモニウムの場合は塩基性塩化銅かな?(詳しい人教えて!)

「塩化アンモニウム」を少し調べてみると、乾電池、ハンダ、染色、肥料など意外と身の回りの製品で使われることが多い。さらに調べてみると、銅イオン(「銅(II)イオン:2価の銅イオン」は安定)はすでに青色、さらにアンモニアを加えると「テトラアンミン銅(II)イオン」となって、鮮やかで深い青色をしている。(ちょっとむずかしいけど♪...)

ちなみに、ニューヨークにある「自由の女神像」も銅製。その表面が緑色を帯びているのは緑青によるものだ。その表面は1年で塩基性硫酸銅が検出されるのに対して、塩基性塩化銅が検出されるのは19年後だという調査結果もある。(参照:銅の大気腐食における塩基性硫酸銅及び塩化物の生成


さびカラーのテスト1(黒さび:硫黄成分・塩化アンモニウム)

壁付のサインであるが20mmほど浮かしてつけるためのスペーサー(銅製のパイプ)でテストする。

画像1

銅製のパイプ

画像2

発色液「黒さび」:硫黄成分・塩化アンモニウム配合

このスペーサーは金属(銅)のため、直接、黒さび発色液(硫黄成分・塩化アンモニウム)を塗ることにする。乾燥とともに化学変化が起こり黒く変色していくのだが、言い換えると銅と硫黄が化合して黒色の「硫化銅」が生じているということだろうか(中学校の化学?)。身近にある銅製品である10円玉が黒くなるのは酸化銅の二段階目の状態である「酸化第二銅」となっているからであろう。

(そう言えばシルバーの指輪を付けた友人と一緒に温泉に入った時、彼が慌てていたのを思い出したわー)


さびカラーのテスト2(青さび:塩化アンモニウム

数年前から屋外に放置している銅板がある。全体的に黒ずんできており、「酸化第一銅」から「酸化第二銅」の段階には入っているんだろうが、青さび(緑青)が発生する様子は全くない。そこで、さびカラーの青さび発色液である塩化アンモニウムによる反応がどのようなものかテストする。

画像3

塩化アンモニウムを塗り込んで一晩寝かした状態

銅板を設置していた条件が少し傾斜していたこともあって、画面下に反応が偏っている。矩形にマスキングテープを貼って、その中だけに塩化アンモニウムを塗布した。結果的に塩化アンモニウムと銅板が触れる時間が多ければその分反応する割合も増えるということがわかる。黄緑の色合いのものの中にターコイズのような明るい緑(求める緑青色)も少し含まれている。均一に変化させるには塩化アンモニウムの溶液に漬け込むぐらいした方が良いだろうか。

画像4

数日、屋外に放置していた状態

反応がその後も継続しているのがわかる。黄緑の色合いのものがターコイズのような明るい緑(求める緑青色)に変わっている。


青さび仕上げの表札をつくる

素材:鉄板3.2mm
仕上げ:下地処理(錆止め)を施して、さびカラーを用いて仕上げる。白ペンキ手書き。
環境:庇の無い壁面、海も近いこともあって数年で一変すると想定している... 

画像5

壁から少し浮かす構造のため、鉄のプレートにφ4mmほどのボルトを溶接して作る。下地処理(錆止め)をしてから24時間経過した後に、さびカラーの1層目(金属塗装:青銅色)を施して、同じく24時間乾燥させる。その後、2〜3層、数日に分けて重ねていった。

さびカラーの1層目の溶剤が入った小瓶には青色の水溶液の中に金属粉が沈殿している。この青色は顔料であってこれ事態は銅の化合物ではない(水性顔料で独自色を作ることもできる)。

1層目の金属塗装の下地がひとまず安定した後、黒さび発色液で今回目指すベースを作る。発色の理屈は金属粉に化学変化を起こす成分と理解できているが、さびカラーの説明書には「金属塗料を塗った後、2時間以上あけて(24時間以内)乾燥してから黒さび発色液をたっぷり2回塗る」とあるので、具合も見ながら作業を進める。表面に青白っぽいさびが出てくるとその下の黒さびが安定しているようなので、布で表面を拭い取る。

(風通しが良い環境で作業をしているが硫黄臭で相当気分が悪くなる...)

黒さびの下地をほど良い状態にしてから24時間以上乾燥させた後、青さび工程に入る。同じく説明書には「金属塗料を塗った後、すぐに青さび発色液を2回塗る」とある。青さびの反応が安定すると、同じく布で表面を拭き取って余分なさびを調整する。

画像6

数層重ねることで目指した状態

そして、ロゴ や名前などを白ペンキ手書きにて描き加えて納品した。白ペンキが入っていない表面は銅合金が変化した状態ということもあって、この後も少しずつ変化を続けると推測している。保護を目的とするウレタンクリア(2液性)は「変化を良し」として用いないことになったが、今回設置される環境はまぁまぁ厳しい印象もあるので、アフターケアとしてメンテナンスができる状態にしておくのが良いかと思っている…。

ちなみに青さび(緑青とも)は「有毒」とか誤解があるようだけれど、そんなこと無いんだよって、以前まとめた


自宅の表札も作っている

素材:鉄板3.2mm 黒皮
仕上げ:無塗装、白ペンキ手書き
環境:玄関、庇の下、雨が直接当たらない。
表札の前に蝋梅を植えたことから、ほとんどの期間を鬱蒼とした葉に覆われている。冬のみ表札として機能している♪

画像7

2012年5月 設置当時

画像8

2012年7月(2ヶ月目) 
ちょうど梅雨を越したあたりで全体的に錆が生じる。

画像9

2013年6月(1年目)
一年もすると、全体的に錆がまわっている。

画像10

2019年6月(7年目)
文字部も含め、落ち着いている感じ。



参考までに主な実績

2011年 清課堂

素材:鉄板16mm、ウォータージェットで切り抜く
仕上げ:納品時、黒錆酸化処理
環境:短い庇の中、風が強いと普通に雨がかかる。
2012年 京都景観賞 屋外広告物部門 市長賞受賞(対象は店舗外観全体)

画像11

2015年撮影(4年目)

2008年 naeclose

素材:失念した...。
仕上げ:真鍮が経年変化した処理を施している。
(現在、引っ越しされているので写真はまた後日)


身の回りで見かける経年変化

画像12

愛宕神社の鳥居(京都)

画像13

某菓子屋の入り口(京都)

画像14

茶庭にある井戸の釣瓶(赤穂)

画像15

塔の島にかかる朝霧橋の欄杆にある擬宝珠(宇治)
塗装で緑青を真似ているように見えるが...

画像16

京都府指定文化財の旧住宅の門扉の足元(京都)
雫が垂れるように緑青が生じている。これは人工的な試みなのか?

画像17

先日(2019年10月1日)、北野天満宮の例祭(ずいき祭・神幸祭)が行われ、僕は第三鳳輦の御幣持の役をご奉仕させていただいた。その持ち手にちょうど錺金具(銅に鍍金)でメッキが剥がれて銅が露出している箇所があって、半日ほどの巡行であったが手の汗(塩分?)と銅が反応してか、気がつくと緑青で手が染まっていた。どういう化学反応が起こっているのか...♪

画像18

奈良のホテルのエントランス。銅葺き屋根から雨樋を通じて緑青に染められた雨水が流れて染まっている。


#錆 #さびカラー #経年変化 #エイジング #アンティーク #ブルーイング

僕のnoteは自分自身の備忘録としての側面が強いですが、もしも誰かの役にたって、そのアクションの一つとしてサポートがあるなら、ただただ感謝です。