―世界から「香り」がなくなる―

この事態を、誰が想像できただろうか。

　おいしそうな食事の匂いも。

　色とりどりに咲く、美しい花の香りも。

　森の中を歩くときの木々の香りも。

　お気に入りの香水の香りも。

すべてを、感じることができない。

嗅覚を介して得ていた、喜び・心地よさ・安らぎ・癒やし。

それらが消失してしまったのである。

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嗅覚が他の五感と違う点は、脳にダイレクトに伝わること。

香りの情報は、直接、大脳辺縁系と呼ばれる部分に到達するのだ。

大脳辺縁系には、本能や情動、そして記憶を司る部分もあり、嗅覚の刺激がその部分に影響を与えることも知られている。

大脳辺縁系は古い脳といわれるが、嗅覚は、古くより人に備わった原始的な感覚であるといえるのだ。

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香りのない世界。

それは、人間たちに、どう影響を与えていくのだろうか。