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農作業の方法は、農園の「ビジネスモデル」や立地条件などにカスタマイズされていると言うこと

僕は公害測定を行う「環境計量士」です。

ある時期、森林土壌の調査をしていて、「農地の土は調べられないのか?」と聞かれたのがきっかけになって、農地土壌診断をするようになりました。

土壌診断をしていた頃、いろいろな農家のところに出かけました。

また、僕の野菜栽培の「師匠」に弟子入りした後も、他の農家のやり方を見る機会に恵まれました。

それで人によって、同じ野菜栽培農家でも、いろいろなやり方をしているのを目の当たりにする事が出来たわけです。

例えば、僕の師匠は、「30メートル畝」を作っていました。

1反(1000平米)と言うのは、畑の面積の基本的な単位です。

正方形の畑だと、1反の畑は約30メートル×30メートルになります。

この畑の端から端まで畝を作る、それが師匠の「得意技」だったわけです。

ある時、10メートルの長さに畝長を統一している農家に出会いました。

この人は知り合いのラーメン屋さんの駐車場に「直売所」を作ってもらい、そこで「多品種少量栽培」した野菜を売っていたのです。

この方式だと、そのラーメン屋さんの「直売所」に常に多数の種類の野菜を並べておく必要があります。

そうなると、1種類の野菜を育てるのに10メートル程度の畝の長さがあれば十分です。

30メートルの長さの畝で同じ野菜を沢山育てるより、10メートルづつ3種類育てた方がよいわけです。

師匠の場合、野菜の産直販売をしている団体と複数契約していたり、地元スーパーの直売コーナーみたいなところに卸していました。

この方式だと、師匠が卸せる野菜が、今はニンジンしかない、今は大根しかないでも大丈夫です。

もちろん、1反の畑全部でニンジンを作ると言うのではないのですが、ある程度、「まとまった単位」でニンジンならニンジンを育てる方が効率的です。

そこで30メートルの長さで畝を作っていたわけです。

10メートル畝を作っていた人は、トラクターはもちろん管理機と呼ばれる小型耕耘機も使っていませんでした。

いちいち、管理機を持ってくるより、「手作業」でやってしまった方が10メートル程度の長さの畝なら手早くできると考えていたわけです。

師匠の場合、トラクターを使う事は、ほとんどなく、たまに管理機を持ち出していました。ただ、畑の場所が自宅から近い場所とやや遠い場所に分散しており、遠い場所に管理機を持っていくには、軽トラックに積む必要がありました。

このため、管理機の限定的使用と言うようになったようです。

1反ではなく、1町歩(1万平米)を単位にして、ネギだけ10町歩、ブロッコリー10町歩、カリフラワー10町歩と言うように、合計数十万平米の畑をやっている「大規模経営」の農家も見たことがあります。

この農家の場合、JAに出荷していました。当然、手作業や管理機での耕耘ではなく、トラクターを使用して、畑全体を耕し、野菜を植え付けていく形になります。

このように農業のやり方と言うのは、その農園の経営方式によって異なります。

そして、ある畝の長さ、ある面積を耕すなら、手作業の方が早い、管理機が適している、トラクターを使わないとならないと言うようになってきます。

肥料のまき方も手作業方式の場合、「溝施肥」と言って、地面に溝を掘って、肥料を入れ、埋め戻して、その上に畝を作る方式で出来ます。(野菜の根が分布するあたりに肥料があるので、施肥効率はよくなります。)

しかし、トラクターで大面積を耕す方式の場合、いちいち溝を掘って、肥料を埋めてとやっていると手間がかかりすぎます。そこで、全層施肥と言って、肥料を地面にまいておいて、トラクターで耕しながら土にすき込む方式が取られていきます。

実は、溝施肥方式でも細かい作業方法の「バリエーション」が存在します。

僕も10メートル畝を使った「多品種少量生産」方式で野菜を育てています。

「地元野菜宅配サービス・野菜のマイクロマーケット」で毎週、契約している会員の方にお野菜を届けるとなると、常に10種類程度の野菜が供給可能になっていないといけません。

この方式でやっていくためには、10メートル畝での多品種少量方式が適しているわけです。

肥料も溝施肥方式で与えているのですが、その時、肥料の袋の上部を右から左まで全部切って大きく口を開け、肥料袋の中に手を入れて肥料をすくってまけるようにしています。

ところが、ある時、菜園教室に来た人が、袋の上部・右端だけを斜めに「ちょっと」切って使おうとしていました。

その人にそうする理由を聞いたところ、「全部切ったらもったいない」みたいな事を言っていました。

その人は菜園教室で「自分が育てる野菜」のために「ちょっとだけ」肥料を与えるのに、袋の上部を全部開封してしまったら「もったいない」と考えたわけです。

僕は、ちょっと切った状態で置かれると、後で僕が使う時に困るので「袋の口は上部を全部切ってください」と伝えました。

つまり、僕と菜園教室の参加者では「ビジネスモデル」が違っていて、肥料袋の開け方一つでも「方式」が違ったことになります。

菜園教室参加者、菜園起業大学の受講生の方、他の農家、そして僕自身を比較してみると、かなり細かい部分で、作業のやり方に違いがあります。

本人の美意識みたいなものもあって、支柱はこう立てるべき、苗はこういう風に成立しているべき、畝の形はこうあるべきみたいな事でやっている例もあります。

水路際にコウゾリナのような夏場に丈が高くなる草が生えると、刈払機でも刈り取りずらくなります。(水路際で地面が「斜め」になっており、足場が安定しない、地面が平らになっている部分から刈払機をあてがってもうまく刈れない)

また、コウゾリナのような草は地下茎タイプなので、地表だけを刈っても、地下茎が残り、翌年以降増殖していきます。

そこで、水路際の地下茎を掘り起こし、代わりにセリやミョウガ、ウルイなどを植えて、雑草の繁茂を防ぐ方法を考えたわけです。

手伝ってくれると言う菜園教室参加者の人がいたのでお任せしたところ、水路際ギリギリではなく、

水路から50センチ~1メートルぐらい離れたところに「きれいに」畝を立てて、そこに「きれいに」ミョウガやウルイを植えてくれていました。

この方法だと、水路際の雑草繁茂を防ぐことはできません。手伝ってくれた人の「美意識」としては、「きれいに畝を立てて、平らに均し、そこにキレイに苗を植える」べきだったのでしょう。

しかし、今回の目的・・・夏場に水路際の雑草繁茂を防ぎ、手間を減らして、他の農作業に振り向ける時間を作ると言う「経営目的」には適合していないわけです。

実は、いくつかの農園で「人を雇うのはいいが、『経験者』の人を雇うと、『前の農園ではこうしていた』みたいな事を言って、言う事を聞いてくれない」と言うお話を聞いています。

こうした事は、菜園教室に来る人で、行政がやっている公的な「農業塾」みたいなところで学んだ人についても起こります。

(別の記事でも書きましたが、「農業塾」のようなところで班単位で取り組む「年間栽培実習」に参加していた場合、班のメンバーで「得意な人」がいると、その人がやってくれて、他のメンバーは見よう見まね程度で「基本操作」が身につかなくても「済んでしまう」事があります。

また、この記事でもいろいろ述べてきたように、苗を植える位置とか肥料袋の口の開け方とか、かなり細かい部分にわたって「農作業」の方法には、「経営目的」から見ての「意味」が一つ一つあります。

その「意味」を理解しないまま、自分が覚えた(もしくはイメージした、覚えたつもりになっている)農作業の方法をする人が多いわけです。

(ついでに言うと、農業塾のようなところでの「年間栽培実習」の場合、その講座の指導者の人がやってきた「方法」が、経営目的との適合性についての説明抜きに「お手本」として示される事が多いようです。

このお手本を見た側は、その人のイメージで「お手本」を理解しようとします。

(これは僕が菜園起業大学の講習で経験したことなのですが、ある時、僕が苗に水をやっているのをみて、受講生の人が「そんなにたっぷり与えるんだ」と言ったわけです。

僕はこれはまずいと思いました。受講生の人が「たっぷり」与えると理解したその「たっぷり」は、その人の主観的理解だからです。

1ミリの雨と言う場合、地面に雨が染み込まなかった時に地表に1ミリメートルの高さで水が貯まる事を示しています。

ですから、例えば、10メートル×1メートルの畝に1ミリの雨が降ったと言う場合、その畝に100リットルの水が供給された事になります。

これは20リットルのタンク5本分、ドラム缶半分の量です。

ジョウロで苗に散水する場合、ヘッダを下に向けて、地際ギリギリにヘッダを置き、1メートルを3秒かけて歩きながら与えるのと、ヘッダを上向きにして、腰のあたりの高さに置き、1メートルを1秒かけずに歩くのでは、単位面積あたりに供給される水の量が違います。

指導者や熟練者の人は、だいたい、こういう速度で、ヘッダをこういう位置にして歩けば、どの程度の水が与えられるか、「経験的に」知っているので、そういうやり方で作業します。

こうした事を理解しないまま「たっぷり」と言うように本人の主観で認識するのでは、「正しい理解」になりません。

こういう経験を経て、農作業の「意味」、どういうやり方をすると、どういう結果になるか、経営目的に合致した農作業のやり方を理解すると言った事を念頭に野菜栽培基礎講習のあり方を考えるようになりました。

この間、僕は、野菜栽培基礎講習を受講し始めた人に「菜園起業大学は、『正しい』農業のやり方を伝える場所ではない」と言うことを、冒頭で伝えました。

「正しい」やり方を覚えるのはなくて、このやり方だと、こういう結果につながる、別なやり方だと、別な結果となる、そういう観察眼を養うことを実習では追求してほしいと伝えました。

延々書いてきましたが、おそらく、農園で「経験者」を雇う場合には、まず面接時に、前の農園でやっていたやり方と違うやり方があるかもしれないが、従ってくれますかと意志確認する事が必要だと思います。

それから、経験者、未経験者を問わず、毎回、個々の作業方法の「理由」を説明していくことも必要でしょう。

先程述べた「袋の口の開け方」一つとっても、本人の「癖」だったり「美意識」だったり、本人なりに「この方がよい」と思ってやっている場合があります。

しかし、それはその農園の経営目的からすると「困る」方法だった場合、毎回きちんと、その方法はこれこれの理由で困るから、次からこうしてほしいと伝える、

そういう事が必要だと思います。

2週間予報は、ここ数日最高気温25℃超えの夏日が続いた後、雨も降って、気温が低い日が続くとしています。

ゴールデンウィークは、「平年並みプラスアルファ」程度で過ぎていくようです。

本日は枝豆の種まきをしようと思います。

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